第112話 新狭山市編2-05 「告白と宣言」
20151218公開
13-05 『告白と宣言』 新星暦元年4月9日(日)夜
「先祖はラミス教のかなり上の方の立場だったみたい。身分としては『ケリャカイス・ラミシィナ』、ラミス神国の王族らしいし。だから家にはラミス教の原典、『再誕期の書』が残されていたの。しかも特別製なのか、後半はメモ帳みたいになっていて、色々な事が書かれていたわ。おかげでこっちの事も有る程度は知っていたよ」
守春香は、突然の告白に反応出来ないでいる全員の顔を見渡した。
「そもそも、ラミス人というのは、『主神の恩寵』というかなり特殊な脳波を出す能力をこの惑星で手に入れたクロマニョン人なの。進化の最後で手に入れたからなのか、その脳波は優性遺伝みたいで子孫に受け継がれるの。さすがに現代では隔世遺伝以下でしか発現しないけどね。ある程度は推測になるけど、きっと自分達しか出せない脳波をラミス神国以前から神聖視していたのでしょうね。そして、文明の発達に伴って地動説が出て来た時に世界の中心、すなわち太陽こそが全ての始まりと考えて神格化したと。それと自分達の脳波を結び付けたのが『再誕期の書』」
高木良雄がなんとか質問を捻り出した。
「守さんがこちらの言葉を話せるのも、その再誕期の書って教典を知っていたからって事?」
「まあ、ラミス神国の言葉は日本に居る時にほぼ解読していたけど、発音に関してはムビラ君にも手伝って貰ったよ。そんな訳で、私は結構ラミス教に関しては詳しいの。その時代の周辺知識もそれなりに詳しいし」
『ハルカ様以外にもラミシィナは沢山居るのですか?』
ムビラの通訳を聞き終えたプリ・ラキビィスが質問をした。
その言葉を今度はムビラが片言の日本語にしてくれる中、春香が答えた。
『あれ? プリちゃんなら分かっていると思っていたけど?』
『3人は知っています』
『内緒、と言いたいけど、プリちゃんには教えておくね。こちら側には4人居るけど、私クラスは居ないよ。さすがに血が薄くなっているからね。でも、あとで1人増えると思う』
『今は居ないのですか?』
春香の視線は鈴木美羽に向いていた。
目が合った美羽がきょとんとした顔をしている。
母親の珠子が何かに気付いたかのように息を飲んだ。
「もしかして、おばあちゃんがそうだったんですか? 確かに変わり者で有名でしたけど・・・」
「うん、そうよ、珠子さん。私の祖母が作ったリストには貴女のおばあさまの名も有ったから。あと数年したら発現すると思う。でも心配しないで。私が居るから」
「ハル、あなたの時みたいになるの?」
「多分、もう少し軽いと思う。さすがに私クラスでは無い筈だから」
「安心したような、心配なような・・・」
なにやら自分の事を言っていると分かったのだろう。美羽が春香に訊ねた。
「はるかねえさま、みうのこと?」
「うん、そうよ。美羽ちゃんも私の仲間になるのよ」
「いっしょにおおきいひとをやっつけるの?」
「ううん、美羽ちゃん、それは私の仕事。美羽ちゃんは立派な女の子になってくれたら、それだけで春香は嬉しいな」
「うん。りっぱなおんなのこになる!」
美羽の宣言の後で、思わず留美がぼそりと呟いた。
「美羽ちゃんが立派な女の子になるのは良いけど、その前のハルの発言にツッコミを入れるよ。巨人を倒すのがハルの仕事って、そこはおかしいでしょ?」
「あ、そう言えば、市の発表には入れなかったけど、私、新しい巨人族を撃退したよ」
「え? 発表では、接触したけど話し合いの結果、お互いに不干渉に決まったって事だったよね?」
「実は最初から最後まで私が関わっていたの。で、最初の接触の時に攻撃されたから軽く反撃したんだよね」
「あんたねえ・・・」
「そんなに大した数じゃないよ。うっとこのクラスの8割くらいってとこ」
40人の8割と言えば、30人を超える。
砦奪取時の春香の姿を思い出したのか、クラスメート全員が頭を抑えた。
「いや、ほら、自衛隊の人を危険に晒したり、弾を使ったりするよりイイじゃん?」
「イイじゃんって誤魔化しても駄目だよ、ハル。女の子なんだから。そんなんじゃあ彼氏が出来な・・く・・・ リア充バクハツシロ」
「最後おかしいって、留美」
留美は、視線を美羽に向けると諭すように話し掛けた。
「美羽ちゃん、美羽ちゃんは立派な女の子になるのよ」
「うん!」
プリ・ラキビィスはその光景を見詰めていた。
この砦に来て、本当に良かった。
『新現部族』が創る国は、『主神の恩寵』を持たず、ラミス教を信じていない人々が多いにも拘らずラミシィナが目指したものに近くなるだろう。
ハルカ様の傍に居るだけでも満足なのに、その渦中に自分が居る事はきっと大きな意味を持つ。
彼女の顔は、嬉しさと満足感で自然に笑顔が浮かんでいた。
幼女がこちらを見て目が合った。
後世の歴史家が、この時代で影響力を齎した女性の中で必ず名を上げる事になる幼女も、年齢相応の輝く様な可愛らしい笑顔を浮かべていた。
如何でしたでしょうか?
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