表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/151

第110話 新狭山市編2-03 「朝稽古」

20151207公開

13-3 『朝稽古』 新星暦元年4月9日(日)朝


 守春香の朝は早い。

 地球に居る時も6時には目が覚めていたが、異星に来てからも同じ様に早起きだった。

 今日も最近ラミス王国から輸入された、野生の赤色野鶏を卵を定期的に産む様に品種改良された鶏が鳴きだす頃には着替えが終わっていた。

 もともと今日は休日だが、朝の日課を休む気はもとより無い。

 砦内の広場に行くと、いつもの様に日本人の数人の顔見知りが朝のランニングをしていた。

 最初の頃に比べて、彼らが春香を見る目は大きく変わっていた。

 彼女を見た瞬間に走るのを止めたくらいに戸惑っていた彼らだが、今では目礼くらいはしてくれる。

 そして2週間ほど前から新しいトレーニング仲間が増えていた。

 ラミス王国第5王子のアラフィス・ラキビィス・ラミシィスとその部下たちだった。

 アラフィスが許嫁の春香と2人きりで会う事は少ない。

 只でさえ2人とも忙しいし、職務の関係で顔を合わせる時は何かの仕事絡みが多かったからだ。


『おはようございます、殿下』

「オハヨウゴザイマス、ハルカサマ」


 アラフィスは日本語を覚えようとしていた。

 さすがに、難しい会話は無理だが、挨拶や簡単な言葉のやり取りくらいはなんとか出来る様になっていた。

 もっとも、文字を覚えるのは大変な苦労をするだろう。

 日本語と言うのは会話よりも日本語を読み書きする事の難度が異常に高い。

 ひらがな、カタカナ、漢字、数字、ローマ字が入り混じる文章など、普通に考えて暗号にしか思えない。


『いつも言っている様に、春香でいいですよ』

『いえ、ケジメですから』

『育ちを考えたら仕方なしかぁ・・・ それで、今日は10人ですか?』

『ええ。よろしくお願い致します』


 春香が顔を向けると、鎧の下に着るインナー姿の10人のラミス王国駐屯部隊の剣兵がラミシィス式拝礼をしてくれた。

 春香は日本風にお辞儀をして返す。


『それでは、走って来ますので、その間に装備を付けておいて下さい』


 彼女はこの後、2㌔走をこなしてから、ラミス王国の剣兵の稽古に付き合うのだ。

 6分くらいで走り切った彼女を待っていたのは、完全武装した10人の剣兵だった。

 日本で使っていたタオルとは比べるべきも無いが、それなりに高級なラミス王国製タオルで汗を拭うと、春香はアラフィスから模擬剣を2本受け取った。その模擬剣には刃は付けられていない。長さは1㍍ちょっというところだろう。 


『お待たせしました。最初の方、どうぞ』

『はい! 高難易度でお願いします』


 そう言って、最初の剣兵は春香の向い合せの場所に立った。

 2人は日本の剣道の作法風に一礼をすると、2㍍ほどの距離で対峙した。

 春香は鍛造の模擬剣を両手に持って、『ご先祖の脳波』を発生させながらゆったりと構えた。

 両手の剣先は45度ほど下を向いた状態だ。

 対する剣兵はラミス王国軍剣兵科の標準的な盾を自分の前に右手で構え、長さ120㌢ほどの刃がちゃんと入っている片手剣を左手に構えた。

 その頃には、やじ馬が周囲を囲んでいた。

 これも最近になって近付いてくれた。それまでは遠巻きに見ていたのだ。


「ハジメ!」


 アラフィスの合図で一気に剣兵が盾を前に出して距離を詰める。

 自分の剣の間合いに入る直前に一度横に薙ぐ様な仕草を入れてすぐさま剣筋を上方に修正し、斜め上からの袈裟斬りに切り替えた。その間、春香からの攻撃に備え、盾にも神経を注ぎつつ少し自分の身体の方に戻して力を溜めた。

 春香の対応はあっさりとしたものだった。

 右手に持った模擬剣で剣をあっさりと弾き、その直後に繰り出された盾を使った打突に対し、左の模擬剣を盾の中心に突き出して勢いを殺した。

 周囲の反応は『え?』というものだった。

 明らかに体重が軽い筈の春香が、あっさりと剣兵の運動エネルギーが込められた盾を停めたのだから不思議では無い。

 もっとも、彼女の動作で一番難度が高いのは盾に込められた運動エネルギーの中心を正確に見抜いて的確な位置に的確な角度で剣先を持って行った事だった。しかも盾に込められた運動エネルギーと同じだけの運動エネルギーになる様に模擬剣の速度を一瞬で上げていた。

 思ってもみなかった衝撃に身体が泳いだ剣兵の首筋に春香の模擬剣が添えられた。


「ソレマデ!」


 やじ馬からは「おー」という声が上がった。

 始めの位置まで下がった両者は再び一礼をした。

 1人に対して数合から十数合で稽古を付けて、全員の稽古を終えたのは30分にも満たない時間だった。

 実はこの朝の稽古はラミス王国の駐屯部隊内では大変な人気だった。

 希望する難易度で、いくらこちらが本気を出しても髪の毛1本触らせない様な達人が相手をしてくれるのだ。

 更には簡単ながらも講評もしてくれる。

 向上心を持った兵が多い駐屯部隊の剣技の実力は着実に上がっていた。



 もっとも、一番上がったのは春香の人気なのだが、これに関しては王族の許嫁が上司として近くに居るのでひた隠しにされた。

  

  

お読み頂き誠に有難う御座います


 63,341 15,086

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ