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第107話 新狭山市編1-13 「環境破壊」

20151128公開


◆第106話の巨人の戦死者を修正しました。

 ストーリーには影響ありません  20151128

12-13 『環境破壊』 新星暦元年4月2日(日)昼



 自衛隊が使用している89式5.56㎜普通弾の弾頭は4㌘で、89式小銃から発射された場合、初速は940m/sだった。そして厚さ3㍉の鉄板を貫く威力を持っていた。

 一方、日本では目にする事の多いパチンコ玉の重量は5.45㌘だった。

 もし、そのパチンコ玉を89式5.56㎜普通弾と同じ速度で飛ばしたとすれば、どれほどの威力になるかと言えば、5.56㎜普通弾との重量の差だけ多くなって1.36倍の運動エネルギーを持つとなる。

 さて、守春香が「始まりの日」作戦時に『超高速射出銃』を使って秒速3km/sでパチンコ玉を射出したが、その場合はどれほどの差になるのか?

 簡単に言うと14倍弱の運動エネルギーを持つ事になる。

 佐々優梨子が守貴志に頼まれてパチンコ玉を射出した速度は、彼女が出せる最高速の7㎞/sだった。

 音速の20倍もの速度で射出されたパチンコ玉は空気に触れた途端に衝撃波を発生させ、容赦なく河原をえぐった。

 自身にも襲い掛かる衝撃波をUKで造った緩衝防壁で凌いだ後で、足場がしっかりしている場所まで移動後、再びパチンコ玉を射出する。

 彼女は頼まれていた5発のパチンコ玉を射出後、後ろを振り返る事無く現場を離脱した。

 振り返ってしまえば、自分が引き起こした環境破壊の全貌が目に入るからだった。


 日本で行えば、発行されている地図を書き替えなければならない程の地形の変化がこうして行われた。 



 

「市長、計画を大幅に変更しなければならなくなりました。正直に言うと僕の見積もりが甘かった」


 守貴志は新狭山市の庁舎に戻って来ると開口一番に反省を口にした。

 反応は「はてな?」の嵐だった。

 交渉の結果は無線で知らされていたが、手にした成果は予定以上だった筈だからだ。


「グザリガは主敵じゃない。本当の意味で厄介なのはダグリガの方です」


 真っ先に反応した金澤達也市長の言葉はその場に居た全員の最大公約数だっただろう。


「どうしたんだい? 守君にしては珍しく弱気じゃないか?」

「おっと、弱気に見えましたか? むしろホッとしている面が大きいんですがね」

「ん? どういう事だい?」

「思ったよりも早くダグリガの真実の姿を見れたのは大きいですね。おかげで対策を早く打てる」


 そう言って、彼はラミス王国から輸入したA5サイズの紙を何枚か手にした。


「まず、グザリガよりも柔軟な対応を取れる事から、搦め手でこちらに対応する可能性が高い」


 そう言って、彼は《理性的な対応が可能》と紙の上に書いた。


「装備もグザリガよりは良かったですね。同じ木製の鎧にしても表面に加工を施しています。また、鉄の鎧を装備している指揮官の割合が高い。技術も資源も上です」


 彼は違う紙に《高い技術・資源が多い》と書いた。


「ただ、兵の質に関してはグザリガの方が上かも知れません。ダグリガ兵の方が自分自身の命を大事にしている印象です。ただ、指揮官クラスはダグリガの方が上でしょう」


 書いた言葉は《優秀な将と平凡な兵》だった。


「国に対する忠誠心はグザリガ並みに高いですね」


 書いた言葉は《忠勇な軍》だった。


「僕が交渉したのは副司令ですが、彼は平民階級からの叩き上げです。社会的な柔軟度も高い」


 書いた言葉は《柔軟性の有る社会》だった。


「交渉中に感じた違和感を帰り道で考えましたが、最終的に納得出来る理由に辿り着きました。彼らの最終目的はこの地の統一です」


 書いた言葉は《最終的に相容れない相手》だった。


「わざとグザリガ攻略に進むような情報を渡して、更には優梨子の協力で置き土産をしておいて正解でした。これで何とか4~5年は稼げるでしょう。その間に計画の前倒しを進めるしかないでしょう」


 最後の用紙に書かれた言葉は《4年以内での新たな火力の開発と量産》だった。

  



  


「で、どうだったのだ? 直接に言葉を交わしたそちから見た印象は?」


 バロ・ス・ビク・ザラは司令に交渉結果を報告した後に、受けた質問に若干の間だけ考えた後で答えた。


「正直なところ、油断のならない相手かと。特に我らとの戦争を回避する目的が有ったとはいえ、僅かな情報を有効に活用するあたり、理性も知性もかなりのものを持っている人物でした。そういえば言葉は聞いた事も無いものでしたな。それに伝えられている弱人の特徴も備えておりましたので、只の矮人ではありますまい」


 今回の遠征の司令を務めているズキ・ラ・ドク・グイの返答は、その分析に興味を抱いた声色だった。

 彼はバロ・ス・ビク・ザラよりも若いが、纏っている空気は弱さを感じさせないものだった。


「ほう・・・ 心に対する圧力か? そんなものが本当に存在するとはな」

「心の弱い下級兵士ならば、それだけで身が縮こまりましょう。特に、こちらの言葉を話す少女からは不気味と言っても過言では無いものを感じました。確かにあの不気味な空気を纏って襲われれば、悲鳴の1つも上げたくなるかもしれませんな」

「そちでもか?」

「悲鳴を上げるには歳を取り過ぎました故にその様な事は無いでしょうが、気合負けしない様に気力を振り絞る必要くらいはありますな」

「ふーむ・・・ われも会っておきたかったな」

「いずれ機会が来るでしょう。その時は戦場で、ですが」


 今回の遠征で得た成果は十分なものであった。

 彼らの国の北方で国境を接していた小国が集まって出来た同盟国家群を降して、余裕が出来た兵力をこの高地への探索に回してから数カ月で、新たな勢力の発見とグザリガ侵攻への足掛かりを得たのだ。

 とはいえ、グザリガに直ちに大規模な侵攻をする事は不可能だろう。

 あの険しい断崖を、グザリガどもに気付かれずに進軍可能な状態にするには年単位の時間が必要だろう。

 準備が整うまでは国力の充実に力を注ぐ。

 愚かなグザリガとの長かった戦争に、終結の目途が立っただけでも功績は十分だった。

 新たに発見された勢力はグザリガと弱人どもの勢力を一掃した後でも構わないだろう。

 何しろ情報が少な過ぎる。

 祖国の悲願だった失地回復が成就した暁には、この高地をじっくりと攻略する事になるだろう。

 それまでに少しでも情報を集めれば良い。


 彼らが来た道を戻る間に得た情報は彼の考えを裏付けるものだった。


 川を下りながら、入手した図面の正確さを確認したが、実用上は十分な精度だった。

 しばらく下った後で、どの様な手段で造ったのかがさっぱり分からない巨大な穴と言うか窪みが綺麗に5つ並んでいる河原を見た彼らはその場で呆然としてしまった。

 どう考えても、この様な奇跡じみた事が可能な勢力に、下手な兵力で攻め込めば絶対に負ける、という直感は全員に共通していた。


 彼らは自覚していなかったが、守貴志が仕掛けた時間稼ぎに乗っていた・・・



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