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第106話 新狭山市編1-12 「雷鳴」

20151126公開



12-12 『雷鳴』 新星暦元年4月2日(日)朝



 自衛隊が特異点周辺に橋頭堡を築いてから、この地に持ち込んだ物資は30㌧以上にも及ぶ。

 その約2/3強は食料や飲料水などの消費物資であった。

 一方、偵察用バイクや、本部に備える電子機器や夜間の攻防に必要だった照明器に電源を供給する為の発電機用に持ち込んだ燃料もトン単位であった。その他の物資も数トンに及んでいた。

 持ち込んでいた弾薬は6㌧強。

 そのほとんどを89式5.56㎜普通弾が占めていて、弾数で言うと50万発を超えていた。

 橋頭堡攻防戦、「始まりの日」及び「終わりの日」作戦時に消費された弾数は7万発を少し超えた位だった。3つの戦いで集計された巨人の戦死者が1227人。これは地球での現代戦ではあり得ない数字だった。第二次世界大戦でさえ1人の兵士を殺すのに万の単位の弾丸が必要となっていたからだ。

 もし、巨人が小銃による被害の軽減対策を取って来た場合、弾丸の消費量は跳ね上がる。43万発の弾丸が残っているとはいえ、全く安心出来るものではなかった。

 そして、5年後、10年後を考えた場合、43万発の弾丸がいかにはかない量だという事が更に明らかになる。いくら実戦を経験したと言っても、年に数十発は実際に撃たなければ技能はすぐに身から離れる。

 実戦部隊の隊員と米海兵隊の441名が1年にそれぞれ50発の実射訓練をするだけで、1年毎に2万2千発の弾丸が消費されていくのだ。

 もちろん、対策は立てているが、それらが実を結ぶには時間が必要だった・・・・・・・



 

「今日は話し合いに来た!」


 守春香の声が広場に拡がって行く。

 50㍍ほど離れた森の端に留まりつつ、こちらの出方を窺っている巨人たちの数が膨らんで行くのが守貴志の目に入る。

 

『一度に相手にするにはさすがにキツイな』


 どこか常識を置き忘れたかのように、他人事ひとごとの様な事を考えながら貴志の目は巨人たちの動きを観察していた。

 今の状況で一番恐れているのは弓兵による攻撃だが、その動きは無い。


「どうしても戦うと言うのならば諦めるが、その前にお互いの情報を交換した方が損害は少なく済む。話し合いをしようでは無いか?」


 巨人たちの内、数人が動いた。

 もっとも、攻撃をして来る気配は無い。

 睨み合いは30分ほど続いたが、遂に大きな動きが現れた。

 実用性を重視した鉄製の鎧を身に纏った巨人が姿を現し、1人で守兄妹の方に歩いて来たのだ。

 巨人の年齢を正確に見抜く事は出来ないが、多分、中年に差し掛かったくらいだろう。

 顔に数カ所の傷跡が残っている。左耳も半ばまで失っている。

 春香が横に居なければ、おっかなくて逃げ出したいほどの迫力だった。

 その巨人は守兄妹から10㍍のところまで歩いて来た後で止まった。


「話し合いに応じてくれて感謝する。僕はこの土地を治める部族の代表の守貴志という。貴公は?」


 春香が貴志の言葉を通訳していく。

 巨人の声は顔に見合った低音の銅鑼声だった。


『我はダグリガ強人始国の第19軍の副司令のバロ・ス・ビク・ザラだ』


 やはりダグリガの部隊だった。


「では、バロ・ス・ビク・ザラ殿、まずはそちらの目的を聞かせてくれないか? 可能であれば、情報は提供しよう」

『この先に在る施設の偵察だ』


 その答えは貴志が想定していた理由の中では一番可能性が高いものだった。

 鉄の採掘兼簡易製鉄現場から出る煙を見られたのだろう。


「貴国が考えている通り、鉄の採掘をしている」


 巨人の表情が動いた。

 あっさりと認めるとは考えていなかったのだろう。


「隠しても分かる事だ。それに貴公たちの部隊も成果を得られずして帰る事は出来ないだろう」


 巨人は初めて感情を顔に出した。

 少し感心している様にも見える。


『なるほど、小さな情報をこちらに渡して、本当に重要な情報は隠すと言う事だな?』

「理解が早くて助かる」

『だが、その程度の情報では、死んだ部下たちに釣り合わん。この女の身柄を渡して貰おう』

「断る」


 巨人も断られることを見越して言ったのだろう。あっさりと方針を変えた。


『ならば、代わりのものを差し出せ。でなければ、こちらは戦いを再開しても構わない』


 貴志の返答は、左手に握っていたトランシーバーのボタンを押しながら為された。


「無意味に部下の犠牲を増やすだけだぞ。第一、貴公はこちらの戦力を全く掴んでいない。それに対して、こちらは貴公たちの戦力を全て掴んでいる」


 その時、遠くで雷鳴が響いた。方向は川の下流だった。


「貴公たちの戦力を全て掴んでいる証拠を渡そう」


 貴志は右手に持っていた1枚の普通紙を差し出した。

 白くて滑らかな紙が珍しいのか、巨人は裏返したり、普通紙の端に指を滑らしたりしている。


『あんまり紙の端を指で滑らすと指が切れちゃうよ?』


 地球に居た頃、結構紙で指を切った経験のある貴志は心の中で忠告する。


『この図形は何だ? どこが証拠だ?』


 まあ、すぐには分からないだろう。

 だが、その意味を理解した頃には、もうこちらのペースから逃げられない。

 また、雷鳴が響いた。


「丸で描かれているのが貴公たちがこの高地で拠点としている砦。青く描かれている太い線が貴公たちが遡って来た川を表す。途中に在る2つの四角形が宿営地。そしてバツ印が、来る時には無かった大きな穴が出来た場所だ」


 三度みたび雷鳴が鳴り響く。

 優梨子は順調にクレーター作りに励んでいる様だ。


「もし、このままお引き取り貰えなければ、グザリガに貴公たちの拠点の場所を教える。その際にはそこに行くまでの最短の道も一緒に伝える事になるだろう」


 貴志は真面目な顔をしながら更に伝えた。


「もう一度言うけど、貴公たちはこちらの戦力を全く掴んでいない。その事の意味が分からないと思えない。拠点まで後退する事をお勧めする」


 4回目の雷鳴が鳴り響いた。



 5回目の雷鳴が響いた頃に交渉は纏まった。



 ダグリガ軍は拠点に引き返す見返りとして、貴志が示唆したグザリガ内部への侵攻路を手にした。


 


如何でしたでしょうか?


 「ムカムカして書けない病」は完治していませんが、リハビリ代わりに投稿します(--)


◆巨人の戦死者を修正しました。

 ストーリーには影響ありません  20151128

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