第105話 新狭山市編1-11 「ポカ」
第105話を公開します。
20151027
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって5ヶ月が過ぎた。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為に自らの意志で変革しようとしていた。
だが、新狭山市発足の日に新たな事態が起こり、望まぬ衝突に巻き込まれれていた。
12-11 『ポカ』 新星暦元年4月2日(日)朝
現代人がラミス王国との交流で手に入れた情報の中に、この地の国家情勢が有った。
現代人が来る原因になった事件を起こした巨人の国家はグザリガだが、そのグザリガと東で国境を接しているのがダグリガという巨人の国家だった。規模としてはダグリガの方がかなり大きい。
ただ、ラミス王国としてもさほどの情報を持っている訳では無かった。
その日の朝、ダグリガ遠征軍の前衛部隊は夜襲が無かった事に安堵しながらも、緊張の朝を迎えていた。
本隊からの命令は、偵察を厳にしつつ前進しろ、というものだったからだ。
昨日の矮人の少女とまた遣り合うのだ。
緊張するなという方が無理だった。
一方、新狭山市の方も昨日の夕方の段階で問題が発生していた。
守春香の退去勧告にミスが有ったのだ。
巨人の前衛部隊に強襲を掛けて足止めに成功した事を確認後、彼女は一度砦に報告の為に戻っていた。
その報告の最中に問題が有った事が発覚していた。
ちゃんと正当防衛の体裁を整えた事を立証する為に身に着けていたICレコーダー(集団虐殺された市民の遺品だった)を再生して検証している時の事だった。春香が自分の宣言を翻訳した瞬間に守貴志が思わず呻いたほどのミスだった。
彼女はうっかりと領土の境界線を引いてしまっていたのだ。
もし、その点を突かれるとかなり不利な国境線を引かざるを得なくなってしまう。
深刻な問題になりそうなミスを犯した彼女は3秒間悩んだ末にポツリと呟いた。
「死人に口なしっていい言葉だよね?」
守貴志がすぐに頭を叩かなければ、きっと彼女はこう続けただろう。
『皆殺しにして来るね、貴ニィ』
気を取り直した貴志は、集まっていた全員の顔を見渡した後で告げた。
「まあ、起きてしまった事はどうしようもないので対策を取る事にします」
「どうする気だ?」
尋ねたのは特戦群群長兼派遣部隊司令の清水孝義だった。
「時間が無かったので戦端を開くしかありませんでしたが、相手の目的も不明なままです。まあ、グザリガの後背に出るルートを探しているのは確実ですが、この高地の地形を探っている内にこっちに向かうルートに乗ってしまったのでしょう。新狭山池から流れる川を遡って来た様ですし」
そう言って、貴志は机の上に置かれているA4用紙2枚に拡大された新狭山池を中心とした写真に写っている川をなぞった。
その川沿いに2カ所ほど野営した跡が認められた。
「そして、昨日、優梨子が航空偵察で突き止めた彼らの出発点と思われる拠点、ここですね・・・」
彼の指が、新狭山池から流れる川が断崖から滝となって落ちる地点で止まった。
「そことの中間点を国境とする様に交渉してみます」
「さすがに難しくないかい? 向こうが納得するとは思えないのだが?」
声を上げたのは金澤達也市長だった。
「ですから、僕が出向きます。春香は通訳兼護衛として連れて行きますけど」
「確かに守君なら交渉に適任だが、君を危険な目に合わせるのは避けたい」
「仕方ありませんよ。どっちにしろ、同時に2つの敵を相手取る余裕は無いのですから、これ以上の戦線拡大は避けたいですからね。なんとしてでも交渉を纏めざるを得ません」
彼は一拍置いた後で、更に言葉を続けた。
「もし、交渉が纏まらなければ、相手が譲歩せざるを得ない状況を作り出します」
「どうする気だね?」
貴志の答えを聞いた金澤市長は呆れた顔をしながら呟いた。
「えぐい・・・ えぐいな、守君・・・・・」
もっとも、彼だけでなく、そこに居た全員が同じ表情をしていた。
「さて、次の問題はラミス王国にどの辺りまで情報を伝えるかですけど・・・」
現在、新狭山市には、ラミス王国のルクフィス・ラキビィス・ラミシィス第一方面軍司令が王の名代として訪れていた。
この会合も晩餐会前の慌ただしい時間を割いて行われていた。
「こちらの能力を除いて、話せる分は話しておいた方がいいと思いますね。隠してもばれるでしょうし」
「そうだな。状況は伝えておいた方がいいだろう」
ダグリガの前衛部隊が警戒心を最大にしながら前進を始めて2中時長(約18分)ほど過ぎた頃に、彼らの前進は止まった。
ちょっと開けた空き地で、昨日の矮人の少女と男の矮人が彼らを出迎えていた。
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只今、『ムカムカして書けない病』発症中ですが、何とか106話を更新しました。もう少しで完治する様な気もしないでもない今日この頃ですm(_ _)m