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第104話 新狭山市編1-10 「森の黒き死」

第104話を公開します。



20151021公開

       挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって5ヶ月が過ぎた。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為に自らの意志で変革しようとしていた。

 だが、新狭山市発足の日に新たな事態が起こり、望まぬ戦争に突入して行く。

 一方、今回の遠征に参加した巨人の兵にとっては、困難な道程の先に本当の苦難がいきなり訪れた。



12-10 『森の黒き死』 新星暦元年4月1日(土)午前



「プリンセス3よりベース、これからしばらくは連絡が取れなくなるのでよろしく」

『ベースよりプリンセス3、了解した』

 

 守春香は自衛隊から借りている携帯無線機1号の電源を落とし、森の中で目立たない1本の木の枝の上に隠した。

 春香はこれから行う襲撃を成功に導くべく、自然なままの森の一角のマッピングをほぼ終えていた。

 それは1辺が500㍍に及ぶ正方形の地形を3次元で把握するという、彼女でしか為し得ない規模だった。

 これから行われるのは、ある意味一方的な戦いになる。

 地形や木々の1本1本の形状を網羅した情報を基に、敵の部隊を翻弄するのだ。

 地の利が無い巨人たちにとって、このキルゾーンを無傷で抜ける事は至難の業となるだろう。


 彼女は大きく背伸びをすると、両肩の上やや後方に2つ、それとふくらはぎの外側に同じ出力のサブファンの計4つを形成して行った。これは飛行ユニットの開発をしていた頃に試した構成だった。

 最終的には、長時間の稼働と滞空性能を優先して肩の上にサブファンを配置せずに背中に背負う形に垂直・水平尾翼をパックにしたユニットをメインファン1つと組み合わせたバックパックと4枚の翼を形成する構成に落ち着いたのだが、この4つのサブファンを配置する構成は機動力を重視する時には使い勝手が良かった。更に今回は試作段階時よりも出力を上げたサブファンを形成するので、翼長も短く出来る。今の様に、枝や木が飛行の邪魔になる環境下に向いていると言えた。

 

「さあて、取敢えず、“警告”とやらをしないとねえ」


 そう呟いた彼女は、自身の肉体による加速とファンが与える推進力を使って、巨人の隊列に向かって加速した。4つのファンを身体の動きに同調する様に小刻みに噴射の向きを修正する。

 もし第三者が彼女の動きを見たら、一種のワイヤーアクションの様に見えただろう。

 あっという間に巨人が敷いている斥候ラインが迫る。

 そのラインを時速70㌔を超える速度で切り裂いた後で、全てのファンの動翼の回転を止めてファンの向きを前方下側に向ける。減速の為の逆噴射を3秒ほど掛けると腐葉土となっている地面に足が付いた。衝撃はそれほどでは無い。


 巨人たちは呆気にとられていた。

 それはそうだろう。

 彼ら自身の身体能力が高く、巨体にも拘らず人類史上で最速の走行能力を誇っていた。

 だが、それでも時速40㌔を少し超えるほどだ。

 地球最速のチーターが時速120㌔超を誇るが、木が生い茂っている森の中では発揮出来る筈も無い。

 甲高い音と共にやって来た春香を目視したと認識した直後には部隊の中に彼女が立っていた様なものだった。

 

「ここより先は我々の部族の領土となる! 立ち去れ!」


 春香が大声を張り上げた。

 呆気にとられていた巨人の一部が動きを見せた。

 

「もう一度言うぞ! ここより先は我々部族の領土となる! 立ち去れ!」


 指揮を執る巨人が部下に命令を下し始めた。

 20人の巨人が槍の穂先を覆っていた木製のカバーを外しながら、春香を囲むように動こうとしていた。

 

「これが最後だ! ここより先は我々部族の領土となる! 立ち去れ!」


 巨人の増援が彼らの後方から20人ほどやって来た。

 合計40人にも及ぶ巨人に包囲されている筈なのに、春香の表情に焦りの色は無かった。

 むしろ、満足そうな顔をすると、命令を下していた巨人の方に歩き出した。

 ダグリガの部隊にとって不幸だったのは、これまでに“弱人”と呼ばれるラミシィスと直接戦った経験が無かった事だった。

 故に・・・

 春香が放出する『主神の恩寵ケリャク』を殺意と認識してしまった。

 殺意を向けられたと感じた指揮官が攻撃の命令を出したとしても仕方が無かったとも言える。

 命令を理解した内側の槍兵が動き出すのに0.1秒が必要で、距離を詰めるのに更に0.4秒必要だった。

 0.5秒・・・ それだけの時間を与えられれば、春香が左右の腰に佩いている剣を抜く事は容易たやすいのだが、敢えて抜剣せずに身体を沈めた。その状態で4つのサブファンの回転を上げて自分の体重と同じだけの推力を発生させる。いきなり沈み込んだ彼女の動きに合わせて巨人たちは槍の突き出し角度を慌てて修正したが、重力加速度を打ち消したに等しい春香の垂直方向への跳躍には反応出来なかった。

 巨人たちの身長ほどの高度に達した春香は目を付けていた巨人に視線を向けると、ざっと計算した結果に基づいて1人の巨人の顔を踏み台にして今度は水平方向に跳躍した。

 突如目の前に現れたかの様な春香の機動に追い付けない巨人はあっさりと木製の鎧ごと右下腹部を斬り裂かれた。

 彼女がそのままファンの推進力を借りて加速して離脱した後には呆然とした39人の巨人が残された。


 


 春香が最初の木隊指揮官を斬ってから引き上げるまでの3時間で斬り殺した巨人の総数は32人に及んだ。

 



 その間に行われた、ダグリガの前衛部隊から本隊への伝令は都合23回に及ぶ。

 その全てが悲鳴の様な増援要請であった。

 その中に、後にダグリガで広く伝わる事になる名詞の原型が有った。

 伝令が伝えた内容を一部抜粋する。



【今すぐ増援を送られたし。敵勢力は1人の矮人少女なれど、当方にこれを阻止する術無し。装束は黒。体長3ツド(約150㌢)。両手に剣を持つ。少なくとも我らの倍ほどの速度で動く。奴は矮人の少女の姿をしているが人間に在らず。その本質は死そのものと認識されたし。再度増援を乞う】



 




 


如何でしたでしょうか?


 通常の飛行セットのイメージは第81部の『参考 春香嬢飛行セットイメージ』を見て頂ければ幸いです。

 通常のサブファンでは10㎏に満たない推力ですが、今回春香嬢が使用した仕様は12㎏を超えます。それを4つも展開しているのですから、加速度は通常の飛行セットの比では有りません。

 あ、そうそう、書き忘れていましたがサブファンとメインファンの特性の違いの1つに、サブファンは即応性重視という点が有ります。メインファンは口径も大きく出力も高いのですが安定性重視の“おっとり型”です。サブファンは口径も出力も小さいのですが瞬発性に優れた“瞬間湯沸かし器型”です。

 まあ、作中に出て来た様に長時間連続で使う前提では無いので、今回の様に迎撃に使うのに適した構成と言えます。

 うーん、強いて言うならば通常の飛行セットを零戦とするならば、今回の飛行セットは雷電といったところでしょうか?

 そうそう、実は今回の飛行セットは初出ではありません。

 『第20話 5-4 「黒尽くし」』で春香嬢が飛行した時にも使われています。もっとも、この時は小さいサブファン4つと通常の長さの翼を使った為に却ってコントロールが難しかった様で、こっち側に来てからサブファンの強化型を開発しています。

 しかし、春香嬢、ドンドンと人外と化して行きますねえ(^^;)

 ちなみに、作中にはこっそりと示唆されている能力も有るので、その内に新たな能力にスポットライトが当たるかも知れません(^^;)


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