第100話 新狭山市編1-06 「トツゼンヘンイ」
第100話を公開致します。
20151001公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって5ヶ月が経とうとしていた。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為の足場作りを進めていた。
現代人が整備し直しつつある砦に到着したラミス王国からの移民団の日常が始まろうとしていた。
12-06 『トツゼンヘンイ』 西暦2006年3月16日(木)昼
私たちの朝食は『ショクドウ』と呼ばれる建物で摂ったけど、昼食(『キュウショク』と言うらしい)は『キョウシツ』と呼ばれるこの部屋で摂るみたいだった。
『ショクドウ』での光景は私たちの常識を崩した。
『新現部族』の方達と矮人奴隷が一緒に食事をしている・・・
勿論、事前にラミシィスと違って、『家』という階層による区別が無いとは聞いていた・・・
だけど、もっと根源的なところで違う事を思い知らされた。
『新現部族』の方達も矮人奴隷たちと変らない服装をしているので、ともすれば外見だけで見分ける為には、幾つか小さな刺青を入れているか?という点と、僅かな顔の造形の違いと体格差が頼りだった。
もっとも、私たち『主神に導かれて認められし一族による信徒たち』ならば『主神の恩寵』の有無で区別は付くし、私自身は更に王家の女性だけに伝わる能力で更に細かい部分まで分かる。
それにしても、『新現部族』の方達は変わっていると思う。
そう言えば、今、配られている食事も変わっていた。
お肉はラミシィスと同じなのに、初めて味わう風味が特徴だった。
「あれ、プリ-チャン、口に合わないの?」
「いえ、そういう訳では無いのですが・・・ 変わった風味だなと思いまして」
「うーん、口に合わないかぁ」
「いえ、そんな事は決してありません、美味しいです。でも、どうやってこの味を出しているのか分からないのです」
『キュウショク』は6人分の『ツクエ』を合わせて『テーブル』にして集団で食べる、というのが『ガッコウ』でのやり方だった。
ハルカ様も予備の『ツクエ』を持って来て、私と同じ『テーブル』の向かい側に座っていた。
「その風味を出しているのは『ショウユ』という調味料なの。『ニホン』で1番普及しているかな」
「『ショウユ』ですか・・・ どんな植物から取れるのですか?」
「麦よ」
「え? 麦って、麦ですよね?」
「そう。『ハッコウ』という方法で麦から『ショウユ』を作るの。もし、興味が有るなら作っている所を見てみる?」
「是非ともお願いします」
「じゃあ、午後の授業が終わったら、見に行きましょう」
その時、ハルカ様の横に居た子が恐る恐ると言う感じで声を掛けた。
「あの、私も見に行っても良いですか?」
「うん、いいよ」
その返事に、あっという間に『テーブル』の残り全員が希望したので、結局、ハルカ様の案内で全員が行く事が決まった。
『キュウショク』後の授業は午前と違う殿方(『センセイ』という身分らしい)が『ニホンゴ』を教えてくれた。
ぎこちないながらも、私たちの言葉を話せる『新現部族』の方が居る事は予想していなかっただけに驚きであった。
質問をする機会が来て、真っ先にされた質問が、どうしてラミシィスの言葉が話せるのか? だったのは当然だろう。
「モリ-クン、が、『センセイ』。彼女、ラミシィスの言葉、話せる」
そう言えば、アラフィス兄様がハルカ様と初めて会った時の事を教えてくれたけど、ラミシィナの言葉で話し掛けて来たと仰っていた。でも、すぐにラミシィスの言葉も話せるようになったとも・・・
本当にそんな事が可能ならば、ハルカ様に出来ない事は少ないのでは?
午後は居られなかったハルカ様が戻って来たのは、授業が終わる直前だった。
ハルカ様の案内で、『ガッコウ』と同じ並びに在る建物に向かった私たちを、幼児を含めた数人の『新現部族』の方が迎えてくれた。
その建物に入る前に仰られた言葉がハルカ様の異常さを増した。
「ようこそ、私の研究室に」
そこでは、『ショウユ』は勿論、『オミソ』、『オス』と言った色々な調味料を作っていた。
その他、『ビール』というラミシィスで言う昇水の一種や、変わった食べ物も作っていた。
「これなんか、奇跡の一品よ!」
と言って興奮気味のハルカ様から渡されたのは、堅いのに簡単に割れる食べ物だった。色は茶色い。
全員が一口食べると、『ショウユ』の味と香りがして、ほのかに甘みが感じられた。
「いやあ、まさか『モチムギ』が自生しているなんて思ってもみなかったわ。今は未だそんなに採れないけど、将来はこの砦の主食になるよ、きっと。しかし、どんだけ『トツゼンヘンイ』したら、理想的な『モチムギ』になるのか、驚きだよ」
いえ、ハルカ様こそ、驚きです・・・・・
次の日に、『センセイ』に『トツゼンヘンイ』という言葉の意味を訊いてみた所、『センセイ』はしばらく悩んだ後でポツリと言った。
「モリ-クンノヨウナソンザイガソウナンダロウナァ・・・・・」
『ニホンゴ』だったので、その時は分からなかったが、『センセイ』の様子に違和感を覚えた私は一字一句欠ける事無く覚えてしまった。
後日、全ての意味、そしてヤマシタセンセイがこの言葉を漏らした時の気持ちを理解した時に、私は泣いた・・・・
ハルカ・モリという女性が背負っているものの重さがどれ程のものかを知ったからだ。
如何でしたでしょうか?
記念すべき100話でしたが、何も起こる事無く終わってしまいました(^^;)
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