第98話 新狭山市編1-04 「コテコテ」
一気に第97話と第98話を公開致します。
20150928公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって5ヶ月が経とうとしていた。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為の足場作りを進めていた。
そして遂に、その中の最大のピース、移民団が到着した。
12-04 『コテコテ』 西暦2006年3月15日(水)昼
宮野留美は、人形の様に可愛らしい異人類種(外見は外国人程度の違いだが、彼女の能力で見る限り明らかに違う精神構造をしている事が分かった。常に複数の感情が浮かぶのだがそれらは全て統制されている。恐るべき理性の持ち主だと思わざるを得なかった)の女の子の挨拶を固唾を飲んで待ち構えた。
外見の可愛らしさを裏切らない可愛らしい声が広場に拡がった。
「モウカリマッカ? ウチハボチボチデンナ。ホナ、サイナラ!」
一瞬、脳が理解を拒絶した。
もし、この展開を予想出来た者が居たとすれば、その人間は預言者と言っても良い。
それ程に、砦のみんなの予想を裏切る言葉だった。
日本語を喋るアメリカの軍人さんが噴き出した。
後は連鎖的だった。
周囲に笑いが湧き起った。
「吉●新喜劇じゃないんだから・・・」
「今日はこの辺にしといたろ、とか言われたら“神”認定だな・・・」
そんな声も聞えて来たが、それらの声を抑える様にハルの声が聞こえた。
さっきまで、理由も無くトランペットを吹いている真似をしていた筈だったけど、その声音は真剣なものが有った。
「あー、スミマセン、今のを通訳すると『みなさま、お元気ですか? 私は元気です』となります」
ああ、ハル、何故、あんたは追い打ちを掛ける?
再度爆笑が起きる。
「あれ? どうして笑うのか理解出来ませんが、挨拶の続きが有りますので、みなさま、ご静粛にお願いします」
遊んでいる・・・・・
この晴れの場で、ハルは遊んでいた。
それは彼女の周りの空気を見なくても分かった。
しかも、自分に向けられている恐怖の視線も軽減する事も考えている筈だ。
ラミス王国に行ってから、ハルは一皮剥けた様だった。
それからのラミス王国の王女(本当は違うらしいのだが、それでも私たちには王女としか思えなかった)の挨拶は真面目な内容だった。
時々、ハルは日本人には理解出来ないラミス王国の習慣や階級制度に関する解説を入れていた。
王女の挨拶が終わる頃には、彼女の人柄も分かった様な気にさえなっていた。
「守さん、凄いな。多分、この演出は彼女が考えたんだろうね。これで移民して来たラミス王国人に対する警戒感は薄れるだろうね」
高木良雄が留美に話し掛けて来た。
留美は慌てて言葉を返した。
「高木君もそう思う?」
「うん。まあ、守さんと付き合いが長い留美ちゃんなら分かると思うけど」
「うん。ちなみにハルは遊んでいるよ」
「だね。まあ、目の保養になったし、僕としては“王女様”も見れたし、満足したよ」
留美は何となく、良雄の言葉に違和感を覚えた。
「高木君、見ただけで満足なの?」
「そうだよ。“王女様”に釣り合う自信も無いし、釣り合う様に努力するのも僕のキャラじゃ無いからね。付き合うなら疲れない子の方がいいよ」
天は留美を見放していない様だった・・・・・
如何でしたでしょうか?
第97話を書いている最中に、これは2視点での話を同時公開しないとダメっぽい気がしたので、同時公開に踏み切りました。