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第94話 自由の矛編4-17 「ハルちゃんの記憶」

第94話を公開します。



20150910公開

   挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって25日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。

 王族との交渉で満足すべき成果を得た外交団は、王族との私的な昼食会に臨んだ。



11-17 『ハルちゃんの記憶』 西暦2005年11月20日(日)昼



 佐藤静子三等陸佐は、一旦宿泊している王城の離れに戻る馬車の中で、初めて経験した王族との食事が思ったよりも和やかに済んだことに安堵の息をついた。

 なんといっても、ラミス王国は砦の命綱になるファクターだ。

 もし粗相でもして、印象が悪くなった場合の影響が大きいと思わざるを得ないからだった。


「来て頂く日はまた改めて詰める予定ですので、何度かこちらに来る予定です。その際には春香を訪れさせます」

「お待ちしておりますわ・・・」


 会食が終わり、お別れを言う場で、プリちゃんはハルちゃんが通訳し終ったタイミングでいたずらっぽい笑顔を浮かべて言葉を続けた。


「タカニイ?」


 ハルちゃんが噴き出しながら通訳した。


「愛しの、貴志お兄様」

「おい! 今のは、愛しの、は言っていないだろ!」


 こうしてデュラフィス王の3女プリ姫との顔合わせは無事に終了した。

 デュラフィス王が考えていた貴志君を籠絡するという目的は潰えたが、ハルちゃんに入れ込み過ぎている気もしないではないが、本人の性格は素直そうだし、サバイバル経験もあるので不自由な砦でも生きて行けるだろう。何といってもハルちゃんと実際に話した結果、益々砦に来たくなったと言っていたので、きっと良い結果になる筈だ。

 


 宿舎でそれぞれの成果を話し合っていると、迎えの使者がやって来た。

 ルクフィス・ラキビィス・ラミシィス第1王子が司令を務めているラミス王国最大の兵力を持つ第一方面軍の閲兵式に招かれているのだ。

 これまた閲兵式なぞ初めての経験だったが、はっきりと言って、閲兵式に参加している時に感じた気持ちは、緊張が1/4、感心が1/4、退屈が1/4、安堵が1/4だった。

 1万人以上としか認識出来ない兵士による一糸乱れぬ行進から始まった閲兵式はデュラフィス王の訓示、2つに分かれての選抜された数千人規模の模擬戦へと続いた。

 いくら鏃(やじり)や刃の部分を皮革で包んであるとはいえ、本物の弓矢、槍、剣を使った模擬戦はなかなか見応えがあった。

 もしかすれば、この何倍もの戦力で私たちは侵攻されていたかも知れなかったのだ。

 交渉が上手く行って、本当に良かったと思う。

 その後に行われた私たちが主賓のパーティもつつがなく終わった。

 一言で言えば、疲れた・・・・・

 延々と続く挨拶・・・・・

 さすがに何百人もの人間と挨拶を交わせば、もう何が何やら分からなくなる。

 でもここで、またハルちゃんの異常ぶりが明らかになった。

 挨拶を受けた全員の名前と顔と役職や身分を全て記憶していたのだ。

 私の専攻は心理学でも臨床神経医学でも無いが、記憶に関する簡単な知識くらいはある。

 その知識からすれば、ハルちゃんの記憶力は有り得ないのだ。

 アメリカの映画で有名になった『サヴァン症候群』絡みの驚異的な記憶力かと一瞬は疑ったが、ハルちゃんが『サヴァン症候群』の筈が無かった。

 では、ただ単に記憶力が良いのか? となるのだが、パーティ後に質問しまくった結果は記憶の常識を覆す能力の存在を浮き彫りにした。

 彼女は、エピソード記憶と意味記憶を関連付けて記憶していた。

 具体的には、謁見の間の何処に居たという記憶と先ほど言ったデータベースとでも言うべき記憶が一体となっていた。

 例えば、リンゴという言葉を聞いた時に思い浮かべるイメージは、普通はそれぞれ大して変わらないだろう。赤くて甘い果物というイメージだろう。

 でも、そのイメージを形作る元となった記憶は残っているだろうか?

 百科事典で見たのか、テレビで見たのか、絵本で見たのか、実際に初めて食べた時の記憶か、正確に思い出せる人は居ないだろう。反復して積み重なって残ったイメージ、それがデータベースとでも言うべき意味記憶の本来の姿だ。

 でも、もし、そのイメージの基となる記憶を全て覚えていたとすれば?

 リンゴと言う一つの物体から連想される記憶はとんでもないモノになってしまう。

 確かに人間の長期記憶に収まる容量は計り知れない。

 だが、脳の処理能力を超えかねない記憶を平気で制御し切るなぞ、人間の領域を超えている・・・




 もう一度言うけど、人間の領域を超えている・・・・・




 結論として、私はハルちゃんに対して考える事を諦めた。

 ハルちゃんがする事、ハルちゃんが示す能力、全てはハルちゃんだから仕方ないと・・・・・



 ハルちゃんは、ハルちゃんと云う独自の進化を遂げた人類種『ホモ・ハルカ』なのだと考える事にした・・・・・

 

 



如何でしたでしょうか?


 もう、何が何やら・・・(^^;)


 取敢えず、あと数話で自由の矛編が終了する予定です(^^)

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