表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/151

第90話 自由の矛編4-13 「ラミシィナの双剣士」

第90話を公開します。



20150831公開

   挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。

 王子凱旋記念式典でラミス王は現代人最強の剣士を臣民に披露する。



11-13 『ラミシィナの双剣士』 王暦1725巡期後穫期23日 昼



 守兄妹が室外に出るのをボウとしながら見送っていたアラフィス・ラキビィス・ラミシィス第5王子は背中を叩かれて、やっと我に返った。


「アル、良かったな!」


 元々仲が良くて、現在はアラフィスの直属の上司のネキフィス第3王子だった。

 彼らが小さい頃に使っていたあだ名を使っている事が、この場が王家の私的な場と言う事を表していた。


「ですが、ネキ兄さん、本当にいいのでしょうか? 僕は嬉しいのですが、貴重な駒の僕を彼らに与えて?」

「構わん。普通に王国内で使うよりも見返りは大きい」


 答えは父親のデュラフィス王から帰って来た。

 彼には今も生きている兄弟は居なかった。本来であれば兄が1人と弟が1人居たが、2人とも病弱で成人前に病死していた。王族の『主神の恩寵ケリャク』を守る為にどうしても血が近い婚姻を繰り返して来た影響が出たのだ。

 だから彼は敢えて王家の血が薄い家から妻と側室を娶っていた。


「お前たちは有り難い事に全員が大きくなったが、いつまた病弱な子孫が生まれるか分からん。新たな血を王族に入れるのに、あの娘の血は魅力的だ。そうだろう、アラフィス?」

「そういう意味であれば、確かに仰る通りです。なにせ、ラミシィナ(主神に加護された一族)の血を引くのですから」

「アル、本当にあの娘はラミシィナの血を引く者なのか? 俺には信じられんのだが?」


 そう言って来たのは次兄のキラフィス第2王子だった。


「キラ兄さん、ハルカ様が最初に発した言葉はいにしえの言葉でしたよ。それも流暢な・・・。それに見たでしょ、あの『主神の恩寵ケリャク』を?」

「確かに呆れるほど凄いのは確かだが、血を分けた兄の方はそこまで凄く無かったのも事実だ」

「凄く無くても我々と変らないとも言えます。それにタグィリラル砦で披露した『主神の恩寵ケリャク』を見れば、信じざるを得ませんよ」

「ああ、あれは強烈だったな。あんなのを見せられれば、信じざるを得ませんよ、キラ兄さん」


 ネキフィス第3王子もアラフィスの味方をした。


「なんにしろ、全く繋がっていない血脈を取り込む事は長い目で見た時に大きな利益になる」


 デュラフィス王の言葉で、アラフィスの結婚は既定路線となった。



 凱旋式典は熱気に包まれた。一時は存続が危ぶまれた王家が子宝に恵まれたおかげで、再び盤石になった影響だった。

 特に第5王子のアラフィスは兄弟の中でも人気が高かった。

 その理由は、彼が剣の才に恵まれている事が広く知られていたからだ。デュラフィス王が剣の腕前を見込んで王直属の護衛兼剣術指導役に抜擢したタカザラ・ラルがその才能を認め、鍛え上げた事でラミス王国有数の剣士に育っていた。

  

 式典は遂に、新たに交流を持つ事になった部族の紹介の段になった。


「我が臣民よ! 我らに心強い味方が現れた事を宣言する! グザリガどもの砦を僅か20人の犠牲で落として見せたほどの強者つわものだ! その中でも、一番のつわものを紹介する!」


 アラフィスは直属の兵の内、20人の弓兵と槍兵を背後に従えて闘技場に向かった。この事は事前に矮人たちには伝えられていない。

 デュラフィス王の紹介で、闘技場に現れたのは矮人の少女だった。ざわめく会場の空気を全く無視して、少女は堂々と闘技場の中心に歩いて行った。

 しばらくしてアラフィスが闘技場に姿を現した時の歓声は大きかった。人気の高い王国有数の剣士のアラフィス第5王子がわざわざ登場した事で、なにか凄い事が起こると期待されたのだろう。

 ハルカの力量を知っているアラフィスは、敢えて臣民の期待を高める事にした。


えあるラミシィスの臣民よ! 新たな伝説をとくと見よ!」


 会場の歓声は更に熱気が増した。


「この少女が持ちし剣は、我が兄、ネキフィス・ラキビィス・ラミシィスが贈りたる剣である!」


 ハルカが右手の剣を掲げた。


「更に、我、アラフィス・ラキビィス・ラミシィスもこの剣士に剣を贈った!」


 ハルカが左手の剣を掲げた。

 会場の反応は戸惑いだった。王族2人からそれぞれの剣を贈られる事など有り得ないからだ。 

 アラフィスがハルカの許に歩いて行く間、彼女は苦笑いを浮かべていた。


「殿下、さすがに煽り過ぎです」

「なに、ハルカ様なら期待に応えてくれると信じているだけです」

「ならば、その期待に応えましょう。弓兵全員の弓を射かけて下さい」


 さすがにアラフィスは自分の顔が強張るのが分かった。

 だが、目の前の少女が小さく呟いた言葉が彼の表情を笑顔に変えた。

 直後にハルカが『主神の恩寵ケリャク』を身に纏った。

 会場の空気が変わった。

 アラフィスが部下の許に戻る間も彼の笑顔は消える事はなかった。

 彼女はこう呟いたのだ。


「未来の旦那様に恥を掛かせる訳ないでしょ?」


 ならば、彼女を信じるのみだった。

 アラフィスは未来の妻の凄さを会場に居る臣民全ての目に焼き付ける為、矢を放つ弓兵の数を順に増やす事にした。

 結果は、あまりの凄さに呆然とした観衆故の静寂だった。

 彼女がたった今披露した武芸を真似する事など誰にも出来ない。

 アラフィス自身も不可能だし、剣の師匠のタカザラ・ラルでさえ、あっさりと不可能だと言うだろう。


 静寂に包まれる中、ハルカがデュラフィス王に向かって、ゆっくりと拝礼を終えた。

 そして、彼女は優雅に向きを変えて、アラフィスにも拝礼をした。

 アラフィスは自然と浮かぶ笑みを自覚しながら、湧き起る衝動に身を委ねる事にした。


「我が妻となるつわものの名はハルカと言う!」


 反応は爆発的な歓声であった。

 長い戦争に疲れつつも、それでも戦い続けるしかない王国では、『武』は半ば正義であった。

 もちろん、個の力など、戦局をそうそう変える事は出来ない事も知っている。

 だが、その常識を覆すかもしれない光景をたった今見た臣民は、熱狂してしまった。

 更に、デュラフィス王がその熱狂に輪を掛けた。

 王はハルカに自ら二つ名を与えたのだ。



 ラミシィス王国で末代まで語り継がれる『ラミシィナの双剣士』誕生の瞬間だった。

 

 

如何でしたでしょうか?


 2話に亘ってしまったアラフィス殿下視点ですが、次回はまたシズちゃん先生視点に戻ります。


現時点累計アクセス 45,870PV  累計ユニーク訪問数 11,457人

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ