第89話 自由の矛編4-12 「アラフィス第5王子の初恋」
第89話を公開します。
20150827公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。
応対するラミス王国の王族も一種の瀬戸際に立たされていた。
11-12 『アラフィス第5王子の初恋』 王暦1725巡期後穫期23日 昼
アラフィス・ラキビィス・ラミシィス第5王子は童顔と言う事も有り、武人としての本人の資質とは無関係に女性にとっては庇護欲を掻き立てる存在だった。
そのせいなのか、彼の幼少期以降の記憶の中では、女性というものは世話好きだという固定概念が出来ていた。
だが、ある少女は彼の常識を悉く覆した。
アラフィス第5王子は向い合せの椅子に座る少女をじっと見ていた。
外見上はパッと見た所、矮人そのものであり、強いて特徴を上げれば、女性にしては極端に短い頭髪と意志の強さが表れている瞳の異常なまでの黒さだった。
だが、『主神の恩寵』はその外見とは全く違う、彼女の本質を現していた。
王族の自分でさえ圧倒される量と質。
まさしく伝説の『ラミシィナ(主神に加護された一族による信徒たち)』そのものだとしか思えなかった。
「この金属の部品の半分は研究の為に実験に使った。結果、分かった事は明らかに我らよりも進んだ技術と未知の鉱物の存在だ。この容器に関しては想像も出来ん技術が使われている。アラフィスに渡したのも誘いだな?」
父であり、『主神に導かれ認められし一族代表』のデュラフィス王の言葉は、我々ラミシィスの苦境を如実に物語っていた。
我々は主神の御心に応えられていない・・・
永い永い戦いの最中とは言え、この世の理を解き明かす誓いを果たせていなかった。
確かに、軍事的な蓄積は膨大なものになっていた。
だが、主神が我らに託した行は、ほとんどラミシィナの世から進んでいない。
『王の言われる通り、こちらに興味を引くが為の餌です』
少女に比べれば劣るが、それでも我々王族並みの『主神の恩寵』を纏う矮人代表があっさりと答えた。
この男は危険だった。
彼はこちら側の情報をさほど握っていない筈なのに、打つ手がことごとく何かしらの意味を持たせていた。彼が持たせてくれた10個の部品と容器のおかげでアラフィスの立場が改善された事は事実だったが、それでも危険な人物と言う事実は変わらない。
会談は進み、矮人たちが繰り出す手札はこちらが興味を持たざるを得ないものばかりであった。
ほんの小さな傷でも、悪化した挙句にあっさりと手足を失う事が多いのは常識だったが、彼らはそれを克服していた。目の前で1人の矮人に実際に治療された跡を見せられた時に、感じた事は恐怖だった。
そして止めは1枚の絵だった。
どの様な者であろうと、これほどの細かさで風景を描く事は不可能であろう。
よく見ると、本当に微かだがグザリガの大地に線が見える。道らしい線を辿って行くと、グザリガの砦に行き着いた。この砦の存在はこれまで我々には知られていない、未知の砦だった。
我ら、『主神の恩寵』を持つ者でも辿り着けていない技術を持つ矮人たち・・・
その存在自体が、我々の『主神』対する信仰を価値の無いものだと感じざるを得ないほどに、刃を突き付けていた・・・
だが、デュラフィス王は、父は、その様な事をおくびにも出さず、交渉を進めた。
その結果、我々は十分な見返りを得る事が出来た。
勿論、その気になれば、矮人たちの本拠地となっているグザリガの砦は落とせる。
必要性が有れば、軍が『断崖』を越える方法など、いくらでもあるのだから。
問題は、矮人どもの知識を我が物に出来るか? であった。
無理であろう。
何故ならば、彼らの知識の全容を知らない我らは、いくら時間と手間を掛けても、表層的な知識しか得られないだろうから・・・
「お主とハルカは少し残れ。言っておく事が有る」
交渉の最後に、デュラフィス王が矮人の代表とハルカ様に声を掛けた。
臣と残りの矮人が退席した後、王が椅子に体重を掛けながら、あっさりと言い放った。
「ハルカよ、アラフィスと結婚せんか?」
いきなり出た自分の名に思わずアラフィスは、王の、父の顔を見た。
そこには先程までと違った顔があった。
「こいつはお主の事を好いておる。本人は隠している積りの様だが、誰が見ても分かるじゃろうて」
「父上!」
声を上げたが、半分はこれ以上の発言を止める為、半分は恥ずかしさ故だった。
「構いませんが、私はこちらに来る気は有りませんよ?」
アラフィスの思考は、余りの展開に嬉しさよりも驚きが勝っていた。
「だろうな。 構わん、くれてやる。その代り、子供が出来たら、顔を見せに来い」
「その程度でしたら、お約束致しましょう。ちなみに王位継承権はどうする気ですか?」
「第6位に落として、それ以上はこれからは上げん。子供に関してはそもそも王位継承権を継がせん」
『孫の世代の女の子を王族の嫁にして、ラミシィナの血を王家の血に取り込むのならば、落としどころとしては、そんなところでしょうね』
ハルカ様の実の兄があっさりと父の狙いを見破った。
「お主も大概だな。もう少し、遠回しに言っても良かろうに」
父は苦笑交じりで言った。
『王がラミシィスの行く末を考える様に、私も我らの行く末を考えておりますからね』
「そうか、ならば、もう1本の槍を受け取って貰おう。娘が3人おるが、14歳の1番下の娘をくれてやる」
『さすがにそれは受け取れませんね。春香は立場的に自由に出来ますが、私はこう見えても不自由な立場です』
「明日直接会って、判断しろ。母親に似て、可愛い子だぞ」
ラミシィナの血を王家に取り込む為の道具として使われるのだが、アラフィスには珍しく公よりも私に於ける喜びが心を占めていた。
ふと、相手がどう思っているのかと気になって少女の方を見た。
少女は満足そうな笑顔を浮かべて頷いていた・・・・・・・
その時点では気付かなかったが、本来、彼女が浮かべるべきは、嬉しさや恥ずかしさであるべきだった・・・・・・
後年、彼女からその時の思い出を教えられた彼は、失望を抱かなかった。
何故ならば、恐ろしい事に、彼の初恋はその後も継続していたからだった・・・・・
如何でしたでしょうか?
1話に収める予定でしたが、思ったよりも進まずにもう1回だけアラフィス君の話が続きます。
そう、闘技場のシーンです(^^)
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