第88話 自由の矛編4-11 「ハルちゃんの初恋」
第88話を公開します。
20150824公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。
王族との会見で満足すべき成果を得た外交団だったが、最後に守春香が全てを掻っ攫って行った。
11-11 『ハルちゃんの初恋』 西暦2005年11月19日(土)夜
佐藤静子三等陸佐を筆頭として、守春香に突如持ち上がった結婚話の真相を問い詰めようとしていた外交団だったが、守兄妹と再会したのはネキフィス第3王子とアラフィス第5王子の凱旋記念会が終了した後だった。
「で、ハルちゃん、どういう事かな?」
今は外交団だけでなく、護衛の特殊作戦群の選抜チームも私の部屋に集まっていた。
さすがに15人も集まると、狭い・・・
全員が立ったままで守兄妹を取り囲んでいた。
「どうもこうも無いけど、私の婿様が決まったよ」
ハルちゃんがあっけらかんと言い放った。
「いつ決まったのよ? そんな兆候、どこにも無かったと思うけど?」
「ほら、王様との会談が終わった後、ちょっとだけ貴ニィと残ったでしょ? あの時に決まったんだけど?」
私は、思わず溜息を吐いた。
有り得ない・・・
あの時、この兄妹が会談していた部屋に残ったのはほんの数分だった・・・
そんな時間で一生を左右する様な重大な事が決まったなんて、有り得ない・・・
「でも、向こうも譲歩したよ? アラフィス君に加えて、王様の3女の14歳の女の子も付けてくれるってさ」
まるで八百屋でタマネギを買ったら、ニンジンもおまけしてくれたみたいなノリでハルちゃんが言い放った・・・
いや、深夜に放送されている(いや、放送されていたが正しいのかな?)テレビ通販で常套手段の『この大人気のクリーナーに、更に今なら布団ブラシもお付けして! お値段据え置きのイチ・キュ・パ! でご奉仕!』のノリに近い気がする・・・
「あんた、自分の一生を左右するかも知れない事を、あっさり決めていいの?」
ハルちゃんの反応は予想外だった。
「いやいや、想定の内では一番高く私は売れたよ? だって、ラミス王国では人気の有る第5王子が婿入りして来るんだよ? 下手すりゃあ、嫁入りしなきゃならなかったんだから、上出来だと思うけど?」
うん、この子はおかしい!
自分をその辺の野菜かなんかと思っているのだろう。
「佐藤先生、春香の言う通りですよ。ほぼ満点の成果です。特に3女まで付けてくれたのは想定以上ですからね」
はい、確定しました! 貴志君もおかしい!
「あんたら、兄妹揃って、結婚を何だと思っているの?」
「一から説明すると長くなるけど、構わない? まあ、普通は恋愛なりして結婚するのが当然なんでしょうけど、私って恋愛出来そうに無いから、当然結婚も出来ない可能性が高かったと思う。それに、私を恋愛対象に出来る男の人って居ないと思うし」
「いや、そこは好きな人が出来たら押しの一手で」
「うーん、やっぱり好きという感情がいまいち分かんないな? まあ、血が繋がっている一族には愛着が有るんだけど、自慢じゃないけど人生17年、これまで1度も異性にときめいた事なし!」
何故、そこで腰に手を当て、胸を張るの、ハルちゃん?
「だから、実は結婚は諦めていたんだよね。それこそ好きでも無い相手と一緒に暮らすのも味気ないし。でも、まあ、アラフィス君は血が繋がって無いけど、一応同じ人種だからか、親近感は有るの。そういう意味では、出汁くらいには味が有ると言える、かな? しかも向こうがこっちを好きって分かっているから、関西風のうどんの汁並みの味は期待出来るし。なら、貰えるなら貰っちゃおうかなって」
余りにもツッコミどころが多過ぎて、反論が咄嗟に言葉にならなかった。
「えーと、いいかな?」
援軍はロバート・J・ウィルソン大尉だった。
よし、恋愛に情熱を捧げるアメリカ人男性なら、ズバリと指摘してくれる筈。
「やっぱり関西風のうどん汁の方が好きなの?」
違う! そこじゃない! ツッコミどころはそこじゃない!
「だって、関東風って醤油が強過ぎて微妙な出汁の味が楽しめないから」
どうして、ハルちゃんの結婚話がうどんの汁の話になっているの?
「ハルちゃん、まだ17歳なんだから、きっとこれから素敵な異性に出会うと思うよ。性急に決めなくてもいいと思うのだけど?」
「んー、アラフィス君以上? んー、んー、想像つかないな。 あれ、意外と私、彼の事が好きかも知れない? もしかして、これって初恋?」
そう言ったハルちゃんは私が知る限り、初めて顔を赤らめた。
「おー、新鮮だ! よし、今のを分析したら、恋愛ってものをシミュレーション用に数値化が出来るかもしんない。 早速、分析しようっと」
“可愛らしくて初々しいハルちゃん”の寿命は秒単位だった。
そこには、いつものハルちゃんが居た。
「シズさん、なんか知らないけど、私、恋愛結婚が出来るみたい。ありがとう」
なんか、馬鹿らしくなって来た・・・
「どう致しまして。で、王女様も一緒に来るの?」
「あ、それは違うよ、シズさん。王国には王女様は居ないの。王様の娘の公的な扱いは、王位継承権を全く持たない私的な家族と言う扱いになるの。まあ、この国では女性の地位が低いから」
「え? それって跡継ぎに関して問題が出ない?」
「その辺は、いざとなれば養子を取るとか、色々とやり方があるみたい」
「ふーん」
「あ、ちなみに、その子は明日、外交団と顔合わせをする予定。王様の狙いは、その子を旗頭にして、私らの砦を乗っ取る為の女の子軍団を送り込む積りだからね。まあ、第一優先は貴ニィの取り込みだけどね」
「やはり王族はやり方がエグイね」
「そう? これくらいは普通だと思うよ。第一、王家から2人もこっちに送り込むのは、砦もそうだけど、私と貴ニィを取り込む意味が強いから。前にも言ったでしょ、ラミシィスにとってラミシィナは特別だって。ユリネェは知られていないから、私たち兄妹が確認出来ているラミシィナだから手を打ったってだけで、別にエグくは無いよ。むしろ、貴ニィの方がエグイ。許嫁が居るのに、何食わぬ顔で王様の娘を受け取るんだから」
「おい、春香、何を言っているんだ」
「貴ニィ、ユリネェと結婚する約束をしている事なんて、私も真理ネェも分かっているんだから。今更否定しても遅いよ。ユリネェを泣かしたら、流石に私も切れると言っておくね」
兄妹揃って、バクハツシロ・・・・・・
あ、でも、この兄妹が大人しく爆発する筈はない。多分、周囲を巻き添えにするに違いない。
結局、私に出来た事は・・・
「はあ、バツイチの私の前で、惚気るのはそれくらいにして」
という何とも自虐的なセリフを吐きだす事だけだった。
その時のハルちゃんの笑顔は忘れることが出来ないだろう。
「シズさん、まだ若いんだから、きっとこれから素敵な異性に出会うと思うよ」
彼女は満面の笑顔で言った。
如何でしたでしょうか?
いや、まあ、誰でも一度は思った事が有りますよね?
『バクハツシロ』って・・・・・
電車の中でイチャイチャしているカップルとか、歩きながらイチャイチャしているカップルとか?
無いと言い切れるとすれば、貴方は理性と理解に溢れる善い人です(^^)/
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