第87話 自由の矛編4-10 「ムビラ君の暴露」
第87話を公開します。
20150820公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。
王族との会見で満足すべき成果を得た外交団だったが、最後に守春香が全てを掻っ攫って行った。
11-10 『ムビラ君の暴露』 西暦2005年11月19日(土)夕方
お披露目会場は熱気に満ち溢れていた。
ネキフィス第3王子とアラフィス第5王子の王都帰還に合わせて行われた凱旋式典にいきなり登場した挙句、人間業(これは人類種を超えてという意味だが)とも思えないパフォーマンスを披露した新たな二つ名持ちが居るのだ。
主役を掻っ攫ったハルちゃんは会場のどこかに居るのだろうが、ずっと姿を見ていなかった。
そして、代わりに主役を掻っ攫われた立場のネキフィス第3王子とアラフィス第5王子が連れ立ってやって来るのが見えた。
えーと、言葉が分かんないだけど、どうしよう?
あ、そう言えば、ムビラ君、ちょっとだけどラミス王国の言葉を喋れるとハルちゃんが言っていた・・・
「ムビラ君、通訳頼める?」
ムビラ君はこっちを見上げた。
「センセイ、ツウヤクトハ、ナンデショウカ?」
「ラミス王国の言葉を日本語に変えたりする事だけど、お願いしていいかしら?」
「カンタンナ、コトバナラ」
「うん、それで良いわ」
2人の王子は私たち外交団の手前で止まって、左手で持っている金属製のカップを少し持ち上げた。
多分、乾杯の挨拶か、それとも飲んでいるのかの確認だろう。
私たちも同じ仕草をした。
王子が2人とも頷いたので、多分、返礼としては正しかったのだろう。
というか、こういう場では頼りになる筈の貴志君が居ないのはちょっと心細い。
おっと、ムビラ君が王子達に何か話し掛けている。
今回の訪問で分かったが、ムビラ君ってかなり賢い。
しかも、年齢の割に堂々としているというか、物怖じしないというか、意外と大物だと思う。
あれ、なんか、ムビラ君、滅茶苦茶流暢に喋っていない?
でも、なんか、王国の言葉とは違う気もするのだけど?
王子達の反応は驚きだった。そして、いきなり左足を地面に着けて頭を垂れた。
そんな王子達にムビラ君が少し言葉を掛けると、王子達がやっと立ち上がった。
「ムビラ君、今、何が起こったの?」
「カレラニ、ラミノシュクフクヲ、サズケルギシキヲ、シマシタ」
「あ、そうか、ムビラ君、使徒の司祭だもんね。忘れてた。そう言えば言葉がスラスラと出てたみたいだけど?」
「ワレラノコトバ、デスカラ。フタリトモ、ワレラノコトバヲ、ハナセマス」
どうやら、ラミス神国の言葉を王族は喋る事が出来るみたいだった。
私たちの会話が終わるの待って、ネキフィス第3王子が園田副団長に話し掛けた。
それをムビラ君が日本語に訳してくれた。
「フクダンチョウ、キズノ、ガイハ、ナイノカヲ、キイテイマス」
「雨が降ると少し疼くし、変な方向に力を入れると痛いけど、それ位かな? まあ、一旦切断された筋肉と皮膚を繋ぎ合わせた訳だから、ある程度の違和感は仕方ないかな」
ムビラ君の言葉に頷いたネキフィス殿下は今度は私に言葉を掛けた。
「イチニチニ、ナンニンノ、リョウリガ、カノウカ、キイテイマス」
料理? 何人? 意味が分からず、答えられずにいると、助け船が出された。
ロバート・J・ウィルソン大尉だった。
「佐藤先生、多分、料理と言うのは手術の事では?」
「あ、なるほど! 大尉、天才ですね」
「いや、私も日本語の言い回しで失敗した経験が有りますから」
「ムビラ君、通訳お願い。多い時で20人くらいだけど、難しい手術ばかりだと10人も行かないって」
私の答えにネキフィス殿下は頷いた後、再度質問をした。
「フクダンチョウノ、リョウリハ、ドレホド、カカッタカ? ト、イッテイマス」
ふと、手術台の上に寝ている園田副団長に塩コショウを振り掛けている自分の姿が脳裏を過った。その想像を強引に封じ込めて答えた。
「1時間くらいかな」
ネキフィス殿下はまた頷いて、再び左手のグラスを掲げた後で、アラフィス殿下と共に隣のグループに移動して行った。
やはり、王族相手の対応は精神的に疲れるのか、みんなの雰囲気が緩んだ。
本日一番の爆弾はその直後に投下された。
「ソウイエバ、ハルカ様モ、タカシ様モ、ミナ様ニ、イッテイナカッタ、デスガ、サキホドイタ、あらふぃす様ト、ハルカ様ガ、ムスバレル、ヨウデス。タタカイノ、バデ、あらふぃす様ガ、イッテ、イマシタ」
なんですと?!?
如何でしたでしょうか?
夏風邪でボーとしながら書いたので、なんだかいつもの文章と違う気がしないでも無かったり・・・・・