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第86話 自由の矛編4-09 「人外」

第86話を公開します。



20150819公開

   挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。

 王族との会見で満足すべき成果を得た外交団だったが、代わりに守春香を人身御供に差し出さざるを得なくなっていた。



11-09 『人外』 西暦2005年11月19日(土)昼


 佐藤静子三等陸佐は守春香の背中を見詰めていた。

 高校生に過ぎない少女の小さな背中は、この上もなく頼もしかった。

 その腰には2本の剣が太いベルトの様な腰帯に吊り下げられていた。


「佐藤三佐、あのは、自分達普通の大人の常識から外れています。でなければ、あれほどの戦闘力を持っていない筈です」


 そう言って、私に話し掛けて来たのは陸自最強部隊であろう特殊作戦群の小隊長、関根昌幸二等陸尉だった。


「私からしたら、化け物揃いに見えるあなた達が普通の大人だと? 謙遜に過ぎる気がしますよ?」


 私は視線をハルちゃんに貼り付けながら、関根二尉に言葉を返した。

 なんせ、数十㌔の荷物を背負いながらも『断崖』の縦穴を降り切った彼らの体力は、私から見たら化け物にしか思えなかった。


「我々は選抜されたエリートですから、自分で言うのもなんですが、それなりに優秀です。ですが、それはあくまでも現代人と云うカテゴリーの中での話です。人類史上と云うカテゴリーで見た場合、我々を遥かに凌駕した人間なんてゴロゴロしていますよ」


 私は軽く衝撃を受けた。

 “軍人さん”の言葉とは思えないほどスケールが大きい例え話だったからだ。


「先生、ノミが飛んだ瞬間を見た事が有りますか?」


 スケールが一気に縮んだ。


「小学生の頃、白い猫を飼っていた事が有ります。ノミ獲りは私の仕事でしたから、毎日の様にノミと格闘していました。その時の経験から言うと、猫を洗って溺れたノミを獲る方法が一番確実でした。普通にノミを獲るのはかなり神経を削る仕事だったし、飛んで行ったノミは必死に辺りを探さないと何処に飛んだかなんて分からなかったですね。見付けても、飛ぶ前に指で押し潰さないと殺すのが難しかったと記憶しています」

「あのは、飛んだノミさえも箸でつまめるそうですよ」


 色々な意味で突っ込まざるを得ない話だった。


「人間の反射速度や動体視力で為せる業とは思えない話ですね・・・」


 円形闘技場の観客席から歓声が急に沸いた。

 第五王子のアラフィス殿下が、直衛の部隊と共に闘技場に姿を現したのだ。

 彼らはハルちゃんから20㍍程離れた場所まで行進すると、アラフィス殿下が普段の様子からは想像も出来ない大きな声で、観客に向けて何かを宣言した様だった。

 またしても歓声が沸き起こる。

 更に何かを叫んだタイミングで、ハルちゃんが鞘の入ったままの剣を右手で掲げた。

 もう一度、同じ様な流れで左手の剣も掲げた。

 アラフィス殿下が1人でハルちゃんの方に歩いて行く間、殿下の直衛部隊をチラッと見ると直立不動で2列横隊で整列していた。数は20人程か? 槍を持っている兵士が前で、弓を持っている兵士が後ろに並んでいる。

 ハルちゃんと二言三言話した殿下が驚いた顔をした。

 だけど、すぐにドキッとするくらいに素敵な笑顔を浮かべた。

 直後に闘技場がざわついた。

 殿下の笑顔は部下たちのもとに戻る間も続いた。

 ハルちゃんが右手で剣を抜いて正面に剣を構えるのを見た殿下が何かを命令すると、前列の槍兵?が身を沈めた。その表情を見ると、実戦さながらの緊迫感を漲らせていた。

 再び、殿下が命令を下した。

 それに合わせて、弓兵?の1人が矢をつがえる。

 

「おい、まさか、飛んで来る矢を叩き落す気か?」


 誰が言った言葉だったのだろう?

 まさに直後に矢が放たれた、と思った瞬間には澄んだ金属音がした。


「おいおい、叩き落すなんてもんじゃねえぞ・・・ あの音はやじりに当てた音だぞ」


 アラフィス殿下の命令が下った。

 今度は2人の弓兵が矢を番えていた。

 私は息を止めて見詰めるだけだったが、この時にふと気付いた。

 何万という観客が同じ様に息を止めて見詰めている事に・・・

 結果は、先程と同じだった。違いは金属音が2つになっただけだった。

 その次は、金属音が3つになっただけだった。その次も、金属音が4つになっただけだった。

 ここで、一瞬の間が空いた。

 再び、観客席からざわつきが発生した。

 ハルちゃんが左手にも剣を持っていた。

 そして、弓兵全てが矢を番えようとしていた。


「まさか、二刀流? あのはいつも1本の剣しか使ってなかった筈だが?」


 関根二尉が思わずと云う感じで声を上げた。


「こっそりと練習をしていたのは知っていますけど、未だ人前で披露する程じゃないって言っていた筈・・・ 大丈夫かしら・・・」

「あのは無謀な事に挑まない性格だと思うので、大丈夫だと思いますが、さすがにこれは・・・」


 みんなの心配を払拭する為か、貴志君が言葉を発した。


「春香がやれると言ったら、必ずやり遂げますよ。少なくともいざとなった時の春香は、私たちとは時間の流れが違うみたいですから」

「貴志君、それってどういう意味?」

「我が社の仕事を手伝わせる為に、あいつの能力を応用して、生身で電子顕微鏡並みの解析力を持つ技を開発したんです。先生もペニシリンGを造る時にお世話になった技ですよ」

「カビを見る能力・・・」

「能力を開発する途中で、どうも開けてはいけない門を開けてしまった様で、その気になったら時間がゆっくり流れる感覚になるそうです」

「野球でも一流の選手はボールの縫い目が見えるというが、そんな感じなんかな?」

「もっとひどいですね。認識する領域内の全てのブラウン運動を感知するレベルです」


 もう、貴志君が何を言っているのか分からなかった・・・

 多分、関根二尉も同じだったのだろう。溜息を吐いた。

 そして、ぽそりと呟いた。


「人間として生活出来るのか?」


 貴志君の答えには、彼が初めて見せた感情がこもっていた。



「僕なら発狂しているかも知れませんね・・・・・・」 

 

 



 直後に、連続した金属音が闘技場に響いた。


 夥しい数の観客が居るにも拘らず、金属音が響いた後に聞こえた音は無かった。


 静寂の中、ハルちゃんがゆっくりとデュラフィス王に拝礼をした。

 その後、アラフィス殿下に向き直ると、同じ様に拝礼をした。

 アラフィス殿下の顔には再び、笑顔が浮かんでいた。

 彼が何かを宣言するかのように叫ぶと、観客席が爆発したかの様な歓声に包まれた。



 私たち現代人が、ラミス王国そのものに認められた瞬間だった。



デュラフィス王が立ち上がり、歓声が静まった後で、王が何かを宣言している光景を、私はぼんやりと見ていた。


 『双剣士』と云う二つ名を王自ら授けた事を知ったのは、ハルちゃんが控室に戻って来てからだった・・・・・・・・・・ 

如何でしたでしょうか?


 『開けてはいけない門』って、『真理の扉』だったりしませんよね(^^;)

 『四門』とも『死門』とも言われる門ではありませんよね?

 まさか異世界に繋がる門じゃないですよね(^^;)

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