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第84話 自由の矛編4-07 「絶滅の淵」

こんにちは mrtkです。


 第84話を公開します。



20150813公開


   挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。

 王族との会見で主導権を握った外交団は、要求を具体化させる。



11-07 『絶滅の淵』 西暦2005年11月19日(土)昼


 人間の生活に不可欠な『衣食住』を最低限ながらも確保した現代人たちであったが、長期で見た場合に幾つもの致命的な弱点を抱えていた。

 現代技術の継承もその1つであり、その為にもラミス王国の製鉄技術導入は必須であった。

 占領した砦にも製鉄能力は有ったが、それは人力でふいごを吹かすごく小規模なものだった。

 簡単な鉄製品を作ったり、修繕したりという目的で作られた施設だったが、将来的には生産力を高める予定だった様で、鍛冶場としての建物自体は大きく造られていた。砦占領時に働かされていた矮人は現在も同じ仕事に就いていた。現代人が砦の主となり、格段に良くなった待遇を考えると、逃げるという選択肢は無かったのだ。

 湖沿いに行った先に在る、採掘が始まったばかりの鉄鉱石の鉱床を調査した資源地質科学の宮本勉教授によれば、規模は不明だがそこそこ良質な鉱床という報告が為されていた。



「正直に言いますと、我々の砦に有る炉は余りにも貧弱で、より効率の良い炉に作り替えたいというのが本音です。もちろん自分達で作り替える事は可能ですが、貴国の製鉄技術を導入した方が早いと判断しています」


 デュラフィス王はちらりと89式小銃の空薬莢を見た。

 自分達でも製鉄用の炉を造れるという貴志君の発言が嘘では無い事は、その空薬莢が証明している。

 問題は、自分達で炉を造る為に割く時間と人材だった。

 ラミス王国に大規模な製鉄所が在る事は、ハルちゃんが11月初めに実施した高高度偵察飛行によって分かっていた。その時に得られた写真から製鉄所の造りと詳しい製鉄能力も推測されていた。

 その規模までは要らないが、小型でも高炉は必要だった。


「だが、資材をどうするのだ? 『断崖』のせいで搬送は不可能だぞ?」

「技術者を送って頂ければ、共同で造ります。その際に貴国が得られるであろう我々が持っている新たな知識や技術は技術者をお返しする際に全て持たせましょう」

「ほう・・・ えらく譲歩したな」

「あくまでも、製鉄炉を早く完成させたいだけですから。少なくとも貴国の技術を導入すれば2年から3年で完成すると見ています。それだけの譲歩をする価値が有ります」


 デュラフィス王の決断は早かった。


「その条件で良いだろう。それと、移民の提供だが、具体的な条件は何だ?」



 市民には伏せられていたが、今回の外交団の最大の目的は移民の確保だった。

 一部の人間だけが貴志君から指摘されて気付いたが、私たちは今のままでは長くもっても子供の世代で絶滅する運命だった。

 圧倒的に女性が少ないのだ。

 女性の医官として判断した場合、砦内で出産可能な女性は100人に満たなかった。

 1000人を超える人口で、1割にも満たない・・・・・

 理想的な環境下なら、若ければ頑張って生んで貰えれば1人の女性で4人の出産は可能だろう。これは戦後の第一次ベビーブームの時の合計特殊出生率が4.3人だった事からも妥当だろう。

 だが、出産可能な女性が全て若い訳では無い。私よりも年齢が上の女性も含めた数でさえ100人に満たないのだ。

 ましてや、『羊水検査』や『母体血清マーカーテスト』、『超音波検査』が出来ないのだ。

 死産の発生率や母体が出産時に晒される危険度は日本の比では無い。

 多分、頑張っても200人の次世代が生まれれば良い方だろう。

 1000人を超える人口が次世代では一気に5分の1になるとすれば、この過酷なこの地で待っているのは絶滅だけだった。 

 多分、市民は未だこの事実まで気付いていない。

 だって、今日を生きるのに精一杯なのに、10年、20年、30年後の事など想像出来ないからだ。

 更に悲惨な予測が貴志君から出されていた。

 貴志君の予測では、男性陣の反応として、最初の内の『異性との交流が無いなあ』と云う漠然とした不満が1年以内に『誰でも良いから確保しなきゃ』になるらしい。

 そう、たった1割と云う少数の女性を争う事態に発展するのだ。

 ましてや男性陣の大多数は生命の危険に晒される体力有り余る自衛官たちだ。

 自分の子孫を残したいという希望というよりも本能を否定する事は出来なかった。


 次世代どころでは無かった・・・・・・・

 1年で崩壊する可能性も有るのだ・・・・・・・・



「貴国の年齢で16歳の女子を最低でも5年間は100名以上を移民として受け入れたいと考えています」


 ラミス王国側の反応は戸惑いだった。

 それはデュラフィス王が発した言葉からも明らかだった。


「何故、女だけなのだ? 奴隷として働かせるのならば、男の方が良いのではないか? いや、普通に考えれば、男女同数の方が良かろう?」

「受け入れた女子を奴隷として扱う気は有りません。それに・・・・・・」


 ここで、貴志君は間を開けた。

 次に発する言葉を強調する為だろう。


「我々を貴国が縛り付ける為にも、必要な事です」


 ラミス王国側の戸惑いは更に深くなった。


「我らは貴国との交流が唯一のものになると考えています。まあ、情勢は流動的ですから、絶対ではありませんが・・・ もし王の仰る通りに奴隷のみを移民として受け入れた場合、我々に影響を与えるでしょうか? 有り得ません。少ない出費で便利な労働力が来たとしか思わないでしょう。第一、我々は上手く奴隷を使う技術は持っていませんし、その様な文化では無いのです。最終的には消化吸収するでしょうが、影響はさほど受けません。吸収するだけです。ですが、もし奴隷以外の女子が大量に来ればどうでしょうか? ラミス王国の影響力は確実に我々を絡め取るでしょう。何故ならば、彼女たちは我らの地で母親になるのですから」

「子供を産ませる為だけに女を寄越せというのか? それがお主らにとっての足枷になるとしても」

「その足枷こそが、我らが貴国と真剣に向き合うという保証となりましょう」


 何とかして、ラミス王国の王様を交渉の場に引きずり出した目的は、この一言を直接言う為に有った。

 臣下に提案しても、王に辿り着く頃には其々の利害関係で歪められる可能性が高かった。

 だが、トップダウンで動く王政では、王に直接訴える方が得られる成果は大きかった。


 この提案は、私たちにとっては諸刃の剣でも有ったが、ラミス王国にとっても同じであった。

 技術の進んだ隣国が人口と云う弱点を克服する手助けをするのと同義なのだ。



 たっぷり1分を超える時間を熟考に費やして、デュラフィス王は結論を出した。



「お主、我が王国に仕える気は無いか? いや、やはりお主たちのに仕えておいた方が我らの益となるか・・・ お主たちのを乗っ取る気概の有る女子おなごを送り込んでやるとするか」


 

 私たちの未来が絶望に彩られた暗黒から、微かな一条の希望の光が差し込む未来に切り替わった瞬間だった。

 



如何でしたでしょうか?


 平成26年度の日本の合計特殊出生率は1.42です・・・・・・

 異世界の話とは関係無く、日本も絶滅の淵に近付いていますね(--;)

 ただ、今話は女性の人権を蔑にするという批判を受ける可能性も有ります。

 ですが、自分達が大切にしている自分達の価値観を守りつつも生き残る為に足掻いている貴ニィたちにとっては死活問題でも有ります。

 批判するにしても、その辺りを考慮して頂ければ幸いです。

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