田舎の御野菜 @ 鴉野兄貴
そいつは春と冬の合間に豪快に降りまくる霰を突っ切ってやってきた。
『○○さん! ○○さん! 受け取ってください?!』うっせ~な。眠いんだ。
夢で言われたのかと思ったらガチらしいので嫌々起床。
扉を開けたら雪だるまがいた。配達の兄さんである。
「あらぁ。この寒い中有難う御座います」私は田舎の野菜を手に入れた。
田舎の野菜と言う奴は素晴らしい。タダだし無農薬なのは確実だ。
しかしスーパーで手に入る自称無農薬と実家から送られてくる本当の無農薬野菜と言う奴は似て異なる別物であると断言できる。
しかし田舎の野菜と言う奴は独身者にとって怨敵である。
思いっきり純粋な善意で贈ってくれるのはとてもとても有難いしおろそかに出来ない。
故に恨めしい。人によっては送ってくるなとすら思う物件だ。
正直野菜なんてあればあるほど困らない。すっごく嬉しい。
あればめっちゃ食卓が潤い。栄養状態が劇的に改善する。
料理する手間がかかるならちょっと十分ほどかけて茹でておいてタッパーに放り込んでおきゃいい。
しかし純粋にこういう物を喜べる男は実に限られる。
料理の下ごしらえをちゃんとやってりゃ一週間の食事に困らない。
『少し早起きすれば良い』程度で結果的に時間の節約にもなることも理解できる。
冷蔵庫に収まらない野菜の山も少し茹でれば保存できる。
それは知っている。知っていない奴もいるが。
しかし独身者という奴は十分。否一分あったらその一分でもオフの日は寝たいのであるッ!!
普段人の都合を聞いてそれをカネにして日々を食いつないでいる人間にはたかが野菜一つであってもヒトの『こうすりゃ楽に出来るのに』は知っててもやりたくないのだッ?!
繰り返すが大量の野菜が実家から届いた場合。
玉ねぎジャガイモは冷暗所に保管。ミカンの類もカビだけ注意すりゃ素晴らしい保存食だ。
生野菜の類は左でティファール湯沸かし器ガンガン沸かして右のフライパンで少し塩入れた熱湯で細かくちぎった生野菜を茹でて小さくさせて次々タッパーに放り込んでお湯替えながら冷蔵庫に入れていきゃたいてい片付く。ダイコンとかはチョイと辛いが代わりに保存が効く。
デカくてどうしようもないが冬場なら新聞紙にくるんで雨に当たらない処においておけばいい。
ダイコンの菜っ葉は喰えるし意外と旨いというか栄養価高い。皮はキンピラにできる。
葉っぱは浅漬けにするととても美味しい。
多少手間かもしれんがちょっと休日に茹でりゃいいように親御さんだって休日狙いで贈ってくるはずだ。
だが繰り返す。何度も何度も言うが独身男にとっちゃその僅かな時間がありゃゲームしたり寝ているのである。あるいはパチンコうちに行ったり酒呑んだりする。
そもそも、実家から贈られた野菜を喜んで茹でて保存食に出来るちょっとでも長期的視野と計画性がある男ならとっくの昔に貴方の息子は嫁を貰っとるっ!!!!!!!!!!
何が言いたいのか。何と戦っているのか。白菜だ。
帰宅深夜一時から四時半までひたすら野菜を茹でる。
白菜と言う奴は厄介である。なかなか火が通らない。普通は生で食わない。
そして確実に冬場でも虫とナメクジがついている。泥もたっぷりついている。
これをそのまま食いかけコンビニ飯が大量に突っ込まれた独身男の冷蔵庫に入れようものならバイオハザート状態になるのは言うまでもない。ナメクジゴキブリ青虫を舐めてはいけない。舐めないが。
白菜が加わるだけで茹でのパーティータイムは激しくマックスハートになる(意味不明)。
剥いても剥いてもこやつの処理は終わらない。何で贈ってきた。
誠にありがたいのは親の存在である。
『ちょっと塩ゆですればずっと食べられるじゃないの』と親御さんは思うかもしれないが、一人田舎から離れて大量の野菜を送り付けられた独身男の心境はこうである。
『そう思うなら最初から塩ゆでしてタッパーに詰めてクール宅急便で送ってこい。コンビニ飯がパッケージごと大量に詰まった冷蔵庫に収まるちょっとの量で』
最初から思考や課程を自分で行う作業を放棄しているのだ。そこに創造性はない。
ちなみに、箱一杯のトウモロコシが加わるとまさに地獄になると追記しておく。
すぐ茹でて冷凍保存しないと目に見えて味が落ちるのだから。
都会に住む独身者に嫌がらせをする場合、義理チョコより新鮮な野菜を大量に送ることをお勧めする。確実に持て余す。最も田舎に住んでいる場合限定の手であるが。
人間は食事活動。
調理を通して必須栄養素を信じられないほど効率的に摂取し、脳の活動に充てる。
他の類人猿が人間と同じ脳みその活動を行うには一日まるまる食ってないとダメなのである。そして余裕が開いた脳みそをより旨いものを食うためにまた使うことで進化する。
時間『だけ』節約するならコンビニ飯でもイイかも知れないが。
それじゃ欲しい栄養を自分で考えて効率よく摂取するのは無理だ。そもそも食費がバカ高くなる。
夢を叶えよう、見ようと思うことは誰でも出来る。
「小説家になるぜ」といって毎日ポテチ食って尻かいててもいい。書かない限り実現することはないが。
『夢を追う人間には夢を叶える事よりその過程で何を成すか』が実際に本来実現不可能なことを成すために必要な事だと解る。
ブッチャケ普通のサラリーマンという奴はそこいらの自称夢追い人のニートよりデカい夢をバリバリ叶えて信じられないほど多くの人間に影響を与えている。本人には自覚があるかどうかは知らんけど。
もしサラリーマンとして成功する奴がいたら、恐らくそいつは実家から送られた野菜を喜んで茹でだすような奴であろう。
そして大部分の男はそういう特殊な奴には該当しないのである。