フルコースの思い出 @ カウンターポスト
KIDSシェフをやるという旨の知らせがあったのは小5の春のことだったか。夏休みにそれに出すフルコースのレシピを書いてくる宿題があったから、少なくとも夏休み以前の話だったことは覚えている。
その知らせがあったあと、いろいろな食育の授業を受けた。ソースのたらし方だけで料理の見え方が変わったことはとても衝撃を受けたし、地引網で捕った魚も凄く美味しかった。
もちろん、他にもいろいろしたのだがここでは割愛しておき、とても心躍る体験だったとだけ追記しておく。
遅れたが、KIDSシェフとは、次代を担う子供のための味覚の授業である。
三國シェフの他にも日本でトップクラスのフレンチのシェフが何人も来てくれたし、僕たちが作る料理もアイデア段階とは比較にならないくらい良い材料や設備を使っていたはずだ。
さて、KIDSシェフ当日、料理を作る前に食育の授業を三國シェフじきじきに行ってくれて、そこで問いかけられた質問が「甘い、しょっぱい、酸っぱい、苦いの他にどんな味がある?」だったはずだ。細かいところはもう覚えていないが、大まかな問いとしてみた場合あっている。
正解は「うま味」だったのだが「辛み」と言って不正解になった後、いろいろな間違いを答えて最後には他の人に正解を奪われてしまったのを覚えている。
その後、世界三大珍味をそれぞれ料理して頂き一口ずつ食べたのだが、感想を一言で述べるとトリュフは「苦い」キャビアは「しょっぱい」フォアグラは「溶ける」になった。
それについて三國シェフは、子供のほうが舌の上にある味覚を感じる器官の味蕾の数が多いので、トリュフやキャビアを不味く感じるのかもしれません、というようなことを言っていたと思う。
ちなみに味蕾は加齢やたばこを吸うことで減るらしい。
そうして鈍感になった味覚で大人はトリュフやキャビアを食べるから美味しいと感じるのかもしれないと語っていた。
その後は、自分たちで作る料理の説明をした。
なんだかんだ詰まらずに答えられて、シェフからコックになったら?などというお世辞もいただいた。
そうして料理の説明が終わり料理をする段になって、僕が入っていた班は県の特産のトマトを使ったスープを作る班だった。主要作業はもちろん女子なので、おとなしく雑用でもしていようかと思った時に急きょ一人がアク取りの作業をするのに呼ばれてたまたま僕の手が空いていたのでその作業をすることになった。
今思えば凄い幸運だったと思う。なぜなら、その時のトップシェフの近くでブイヨンのアク取りをして、そのうえ味見までできたのだから。
そんなこんなで、作ったフルコースをシェフ達に食べていただいて無事表彰状をもらい(この表彰状を使えば三國シェフの店に予約せずとも入れるらしい)その後僕たちが食べる段になった。
フレンチなのでもちろんパンがあるのだが、その時の僕はパンが嫌いだった。
正直パンに期待など一かけらも抱いていなかったのだ。
しかし、目の前にあったパン(クロワッサンだったと思う)を一口かじった瞬間その気持ちが一変した。
美味しかったのだ。今までで一番美味しかったのだ。
いつものように噛んでいくほど舌に絡み付いて酸味を主張することもなければ、口に入れた途端に吐き気がするようなこともなかった。
むしろ、噛んでいけばいくほどうまみが口の中に浸透し、食欲を増していったのだ。
もちろん、僕たちが作った料理も美味しかった。
前菜のサラダはしゃきしゃきとした食感とかまぼこのむちむちとした食感がとてもよくマッチしていたし、スープはトマトの酸味が効いていて、思い出すだけで唾液が出てくる。
魚料理はエビをハンバーグのような形にするという発想とは裏腹に繊細な味とソースがよく合っていた。
肉料理は特産の豚肉をソテーにしてソースをかけたものだが、豚肉は柔らかく、ソースの味も絶妙だった。
デザートはアイスクリームが団子のもちもちと合っていていつもは嫌いな団子もサクサク食べられた。
食べ終わったあと、アク取りをしたときに近くにいたシェフからコック帽ももらった。
こうして、僕たちが準備に半年以上かけたKIDSシェフは幕を閉じた。
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レシピは紛失してしまい載せられないが、ネットで調べればその時に僕たちが作った料理の画像くらいはすぐに出てくるはずだ。
食べたいという人はそれを見て試行錯誤して作ってみてほしい。
コンセプトと美味しさは僕が保証する。