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八重新雄のはなし


 静岡の夏は普通に熱い。山の方に行けば幾分か清涼な風も吹くのだろうが、海に比較的近かった我が町では生ぬるい潮風がびゅんびゅんうなり、それを全身で受け止めればもちろん汗だらだらだ。9月になれば多少は、いややっぱりまだ暑い。ヘルメット通学が恨めしい。そりゃ蒸れるよ、人間だもの。


 しかしながら、そんなことさえ懐かしい。ぼくは今、海の町限定のあの独特のにおいある熱風を顔面に受け止めたくてしかたがない。こんな気持ちになるのもしょうがないだろう。


 このコンクリートジャングル、東京においては。




 「今日からこのクラスに転入することになった、八重新雄くんです」


 「よろしくお願いします」




 そう、ぼくの名前は八重新雄。


 ぴっちぴちの小学校3年生をやっている。





 話せば長くなる。


 なんたって前世ではあれだけの冒険をしたのだ。途中婚約者のお姫様が敵国にさらわれて助けに行ったり、実はウン十年前に追放されていた王兄とガチンコバトルしたり、いろいろあったがなんとか魔王を倒したぼくは、真の意味で英雄となって故郷へ帰還したのだ。


 国はもちろんどんちゃん騒ぎ。戦争のせいであまり食べ物はなかったが、それでも脅威がなくなった事実は人々の心を潤し、活気づけた。




 そうだ、その戦争だが、世界共通の敵がいなくなったことで他国もフィーバー状態。別に戦う理由なんてとうの昔に忘れているわけだし、もうやる必要ないよねってことですぐに和睦。ここに終戦が宣言された。


 100年の被害は大きかった。しかし、人は強かった。希望に向かって皆が一致団結し、復興を推し進めていった。




 ぼくは世界を救った英雄として、平和の象徴として人々に迎えられた。


 こうして勇者の物語はハッピーエンドで幕を閉じるのでした。ちゃんちゃん。




 で、終わったらよかったのに。




 その後の勇者さまと言えば、平和大使としてどこへ出向いても国を挙げて歓迎された。そしたらさ、誰だって調子のるじゃん。酒だの食べ物だの女だの。物資が流通し軌道に乗りはじめるとそれら献上品はさらに増え、あっという間に酒池肉林におぼれたというわけ。ぼくも別に清廉潔白じゃないからね。


 というわけで、でっぷりぶくぶくのプー太郎となった勇者は、奥さんに見放され、荒れに荒れた挙句しまいにゃ酔った勢いでバルコニーから転落。あえなくこの世を去るのでした。




 そしたらなぜかこのざまだよ。


 体が地面に打ち付けられたと思ったら、次に気づいたときにゃおしめを変えられていたのだ。え、なにこれ怖い。





 というわけで、もう一回赤ん坊からやり直したぼくは現在、3年2組の教室にいる。


 この状況を一言で申し上げると、視線が痛い。この容赦のなさは子ども特有というか、私はあなたに興味ありますよというのがダダ漏れである。居心地はすこぶる悪いが、そういうもんだろう、転校生って。まぁこの髪色の所為でもあると思うけど。




 「ごめんね、うち36人だったから」


 そういって指差された方向を見ると、6かける6からきれいにはみ出た37個目の席があった。思わずガッツポーズしそうになる。一番後ろの上に隣がいないなんて最高じゃないか。全然気にしない節を伝えると担任は満足げににっこりして、


 「今日の放課後すぐに席替えしちゃうから、それまでがまんしてね」


 余計なお世話です、と口から出そうになるのをきゅっと耐えた。学期初めに席替えするのなんてよくあることだし、しょうがないか。




 少し早足でスタスタと席に向かうと、新しいクラスメイトたちが慎重にそれを目で追っているのが雰囲気で感じ取れた。それを黙って受け止めながら椅子に座る。別に何もしないからね。ちゃんと汲み取ってくれただろうか。

どのくらいで分割すればいいのか……ちょっと様子見です


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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