表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

佐藤正和はかく語りき。

作者: 才能の無かった人。
掲載日:2026/07/07



佐藤正和(サトウマサカズ)は、己の名が嫌いであった。



27歳。男性。家族は母が一人。

友人は数人。趣味は少ない。


平均的で凡庸であり。

標準的な生活水準を保ち。

中央値なりの幸せを享受している。


不平を探す事も出来るのであろうが。

その労力の方が、より不満を産みそうな。

嘆くにも値せぬ、つまらない人生だと自覚はしていた。



そんな彼は、唯一。

己の名前だけが嫌いであった。



先ず、"佐藤"とはなんだ。


ありふれた名前である故に、彼は嫌悪を向けていた。

ナントカ(イン)、ナントカ(ミヤ)、そんな洒落た名前がいい。


苗字とは、その者に付けられたラベルである。

故に、それが平々凡々極まりない"佐藤"だなんて。


ああ、なんと自分は不幸な人間か。


彼は、そう本気で。

いや、少なくとも、そう信じようとしていた。



次に、"正和"。これがより嫌いであった。


母曰く、同じ読みの名を持つ祖父がいたらしい。

その祖父が立派な人だった故に、お前もそうなれと。


故に、ただの模倣であると彼は思った。

独創性に欠ける。ただの()()()である。



己の名が呼ばれた時。

もう冷たい土の下に眠った筈の、祖父が浮かぶ。

己の名と存在が、何かの触媒に思えてしまう。


ああ、呪いだ。

父母は俺に、呪いを寄越しやがったのだ。

生まれたコンマ1秒で、俺は呪われたのだと。


そう、彼は信じていた。

少なくとも、信じようともがいていた。



ぽり、と。頭を掻いた。

抜けた毛髪が、糸と因縁のように指に絡まる。


ばり、と。頬を掻いた。

()()()()が2つ、3つと潰れ、汁を吹いた。


爪を立てられれば楽になれように。

彼はこうして、表層を(いたず)らに撫でるばかり。


骨と肉を傷付けるにも満たず。

名と親と、目に見えぬモノを呪うばかり。



閉ざされた窓掛(カーテン)から朝日が差し込む。

佐藤正和は、また今日を、明日を生き続ける。


故に、物語は途切れる事なく。

無分別で、無思慮で、無道徳な怨嗟は続く。


嗚呼、これぞ人の生。

佐藤正和は、かく語りき。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ