第二話 例の件
一話では安東家の不穏な空気を感じたと思いますが
第二話ではその不穏な空気の正体。それがわかります
この物語の映像化は、動画でさらに臨場感を楽しめます。
小説では伝えきれなかった戦場の迫力やキャラクターたちの表情も、動画なら感じることができます。
動画の#1は、本作の第1~4話に相当します。
公開後にURLを掲載しますので、よろしければぜひ映像でも物語を体験してみてください。
夜更けの屋敷は、雪に閉ざされていた。
――先ほどの音の正体は、結局分からなかった。
風はなく、音という音が吸い込まれたように静まり返っている。白く積もった雪が月明かりを反射し、 闇の中に淡い光だけが浮かんでいた。
玲夢は廊下を歩きながら、胸の奥にわずかな苛立ちを覚えていた。
――また、この時間だ。
角を曲がった先、人目を避けるように立つ男の影があった。灯りの届かぬ場所に身を置き、こちらを待っていたかのように一歩前に出る。
「……玲夢」
低く抑えた声。
名を呼ばれただけで、彼女の表情はわずかに強張った。
その呼び方に、覚えがあったからだ。
「やめてください。ここで、あなたと私が話す理由はありません」
突き放すような口調だった。
それでも男は引かない。むしろ、言葉を選ぶように一瞬だけ視線を伏せた。
「例の件だ。何とかしてもらえないか」
玲夢は足を止めた。
振り返らずに答える。
「また、その話ですか。前にも言いました。私にはどうしようもありません」
「だが――」
「できないものは、できません」
きっぱりと言い切る。
その声音には、迷いよりも拒絶が勝っていた。
男は言葉を失ったまま、しばらく沈黙した。雪を踏む音すら聞こえない。やがて、絞り出すように続ける。
「……大殿の容体が、良くない」
その一言で、空気が変わった。
玲夢はゆっくりと振り返った。月明かりに照らされた男の顔は、疲労と焦燥に染まっている。
「……それは、本当ですか」
声がわずかに低くなる。
男はうなずいた。
「医師は、はっきりとは言わない。ただ……時間がないのは確からしい」
そこまで言わせて、玲夢は片手を上げた。
「それ以上は、聞かなくていい」
彼女は目を閉じ、短く息を吐く。
教育係として、安東家に仕えてきた年月が脳裏をよぎった。戦を嫌い、民を思い、争いを避け続けてきた若き当主。その在り方を、誰よりも近くで見てきたのは、他ならぬ彼女だった。
だからこそ、早く当主の座に就いてほしいと、誰よりも願っている。
だが、本人にはその気がない。逃げ道がある限り、決して自ら前に出ようとはしない。
分かっている。それでも――。
「……分かりました」
静かな声だった。
男が息をのむのが分かる。
「ただし、約束してください。これは私のためでも、あなたのためでもありません。安東家のためだけに動きます」
男は深く頭を下げた。
「感謝する」
玲夢はそれ以上言葉を交わさず、踵を返した。
奥へと続く廊下。その先に、大殿がいる。
そして――先ほど、音がした場所でもあった。
雪は、まだ溶けない。
だが、この静かな夜が、何かの終わりと始まりの境目であることだけは、はっきりと感じられた。
第二話お読み頂き有難うございます
さて今回ついに不穏な空気の正体がわかりましたね
安東のお家騒動が長く続くと思いきや……
実はそんなに長くは続きません
第四話にはとんでもない事件(出来事)が起こります
新たな新当主の誕生。そして謎の男の正体
それらはすべて第四話でわかります。
それでは公開までしばらくお待ちください




