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ネモの軌跡  作者: 桔梗
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火の粉

朝礼の後、早速カエルを探した。

どうやら会議らしい、最近会議がやたらと多い。

例の盗難事件、談合事件、それ以外にも何か不穏な空気は感じている。

業界紙に目を通し、メールのチェックをする。

本日のタスクを改めて確認する。並行して既存顧客と関係の相関図を作る。

電話帳のデータをプリントして、今までの契約書台帳に付箋を貼っていると

「少しいいかな」

別部門の営業課長が声をかけてきた。

「なんです?」

「ここではあれだから、喫煙室に」

「わかりました」

なにか暗い感じはするが心当たりはない。課長は火をつけ、ひと息吐いてから口を開いた。

「君、昨日、あの不動産会社に行ってたでしょ?」

だから何だ?と少し眉間にしわが寄りそうになるのをこらえ

「はい、伺いました、あくまで個人として先代に線香を」

「出禁じゃなかったの?」

このひとは一々余計な一言が多い、流石、風見鶏で課長になっただけのことはある。立場が上と感じていれば一言一言が鼻につく

「出禁ではないですよ、双方合意の下で関係性を断っていただけです。数日前に先代が亡くなっていることをしったのでご挨拶の選考に伺っただけです」

「ほかには何も話していないの?」

あのマージンの件だろう。証拠はない。だから事実だけを言う。

「はい、それだけですが。若社長とも初めて面会しましたし。何より12年前に引き渡しをした案件の初期担当は私でしたから、なぜか担当から外されていましたが」

「外された理由も分かんなかったの」

「わからなかったですね、説明もありませんでしたし。もしもあるのならば担当者として謝罪の上で担当変更が道理ではないですか?」

「君のそういった態度が引き起こしたのでは・・・」

言い切られる前に口が開いた。

「何か隠していることがあるのですか?私が知ってはいけないことだとか?」

「まぁいい、この話は以上だ」

解放はされたが腹だけは妙に立った。間違いなく不正や不当は横行している。しかし私は裁く立場ではない。課長が出て行ってからもう一本目の煙草に火をつけた。

流石に煙草臭さが髪にまで染みついている。慌てて洗面所に駆け込み香水で誤魔化す。

事務所に戻ると、

「ここにいたんか」

カエルが相変わらずニヤニヤし猫なで声をかけてくる。

「はい、朝一番でお話をしようと思っておりましたが会議だったようで」

「その件もあるから、少し役員室まで来れんか」

「いえ、昇進は辞退いたします」

ここで役員室に行ってしまうと間違いなく、例の盗難案件にも巻き込まれる。確証はないが危険信号だけはしっかり鳴っていた。

「そうか、そうか、ありがとう・・・え、あ、辞退」

「はい、辞退いたします。私には荷が重いので、そしてマネジメントの経験もありません。中間管理職としての職責を担うには重すぎます。」

カエルの顔色がどんどん赤くなる。

「そんなに責任感がないとは」

「お言葉ですが、責任感はあります。ですからノルマですら小規模を積み上げて達成しています。一つ当たりの金額は小さいですが、私の担当地区は、事実上独占状態です」

「わかった、役員にはそのように報告する。」

肩を震わせ、役員フロアにカエルは消えていった。

疑惑は確信に変わった、間違いなく私はトカゲの尻尾だ。正直、常務の側近やゴマすり連中の営業はそれなりにいる。今回の談合案件で拘留中の次長ですら内内の処分は課長に降格らしい。昨年度からの受注金額、完工高もずいぶん下がっている。そこに新たな役職者となれば不信感しかわかない。

データ整理が終わり、既存客への定期訪問直前に総務部のスタッフから声を掛けられる。

「少しお茶でも、何ならベランダで」

奥歯にものが挟まったような言い方で声を掛けられる。

「10分程度なら」

「じゃいきましょう」

ベランダに誰もいないことを慎重すぎるほど確認してから口を開いた

「結構、借金あるんですか?」

流石に飲みかけのお茶を吐き出しそうになった。

「確かに、洒落にならない額の借金はあるよ。住宅ローンだけだけど」

「そうじゃなくて、パチンコだとかでキャッシングを繰り返しているとか」

「なんで?気になるなら信用情報調べてみたら?」

「やっぱりそうですか、ずいぶん乱暴な言い方だとは思いましたが」

「繰り返すけど住宅ローンしかないよ」

「わかっています。カードですら1枚だけ、しかも限度額20万円、資金ショートのしようがないじゃないですか?」

「何が言いたい?」

「さっき部長が、あなたのことを調べろと総務にやってきました。昨日の就業時間にパチンコ店にいたからだとか」

「昨日は午後から有給でしょ、有給で何をしようが個人の自由では?」

「もちろんそうです、ですから午後から有給申請が出ているとは伝えました。何より有給申請受理に部長の印もありましたから」

「見ず判子を押しているってことじゃないかな?そんなのは知らないよ」

「そこはむしろどうでもいいんです。問題なのはあなたがお金に困っているっていう既成事実を作られていることなんです」

「ずいぶん乱暴な話だね」

「資材倉庫から物がなくなっているのはご存じですか?」

知っている、とは言えなかった。情報はある、しかい内部では公式に発表されていない。何より情報は外部からだ。

「何のこと?」

「本当にご存じないんですか?あなたが最近納入業者とあっている所を何度か見られていますけど」

「それとこれとは関係ないんじゃないかな?仮にそうだとしてもどうつながる?」

あきらめた顔をして大きなため息をついた。

「単刀直入に言います。納入業者とあなたが癒着してキックバックを受けているんじゃないか?と部長は探っています。」

「今更、事実がどうといっても、決めたいストーリーは書かれているんでしょ?」

「恐らくそうです、でも私にできることはあなたに早く情報を伝えることしかできません。申し訳ありません」

あのカエル、談合のトカゲにできないとなれば、とのことも責任を被せようと。腹も立ち、殺意も沸いたが、おそらくお調子者はここまで予見していたのだろう。

「じゃぁさ、申し訳ないついでに一個お願いしていい?」

お願いを聞くと少し、罪悪感から解放されたような顔をして軽く頷いた。

その日の夕方早速個人メールに退職金概算金額と自己都合退職の書式が送られてきた。


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