罠と疑念
とりあえず、捜査という名のテロ行為の片づけだけはどうにか済まし帰路に就くことになった。
カエルはカエルで課長になるんだから少しは自覚を
なんて言っていたようだが、過剰なサービス残業は私の性分ではない。
何より、労務の対価としての一担当である以上それ以上は言われる筋合いもない。
乗換口の喫茶店に入るとお調子者がいた。
「意外に早かったね」
「待たせてごめん、で先にあんたの話から聞くよ」
「そう?わかった、昨日の立ち入りの件なんだけど、きっかけはお宅の常務らしいんだ」
「まさか、あの爺様、同族だよ?裏切る要素なんて」
「違法の事実を告発して正しい方向に戻すことが裏切りなら、世の中報復だらけになるよ」
「そうだね、ということは?」
「わかっていると思うけど今回の件、談合についてはお宅の幹部ほとんどが関係している。むしろ、業界全体で非公認ながら常識だ。ただ正確な情報までは掴んでない、でも各社の情報をつなげると、常務が暗黙のルールを無視して市場の案件を強引に取ったらしい、あれが取れなければ降格の可能性があったみたいなんだ」
「内部より情報持ってるね」
「あんたが内部に興味なさすぎるだけ」
「その通り、ぐうの音も出ないよ、しかし、何のために?」
「また未確定だけど、たぶんお宅の資材倉庫の一部、外部に転売されてるよ」
「まさか、しかしどうやって?」
「単純な話だよ、未着工の工事でも使用予定現場に事前搬入にしたら表面上は問題ない」
「しかし、なぜそれを?」
「これはこっちの話なんだけどね、不良債権化しているお客が一気に売掛残金を払ってきたんだよ。そいつはお宅の下請け業者だよ」
「まさか、ということはこっちの倉庫から持ち出した備品を売却してそれを売掛代金に回したってこと」
「そう、そしてそれを隠ぺいするためにお宅の常務が強引に市場案件にねじりこんだ」
「憶測の域を出ないよね」
「そう、今日の午前まではね、しかし、午後にその証拠をつかんだ、これを見て」
そういうとスマートフォンの写真を見せてきた。確かに会社で使っているガードフェンスだ、センターラインに引かれた黄土色のマーク、間違いない
「つまり、紛失の線から目を逸らさせるために、談合の方を燃やしたってこと?」
「十中八九間違いない、そして、その売却金額の一部は常務に還流している」
「しかし、談合事件と売却は関係ないよね?」
「あんた、本当に平和だね、談合事件で甘い汁に慣れてしまって、飲み屋に使い込んだ。談合担当同士の金銭のやり取りだって珍しくない。そのための金が必要だとしたら帳尻は会う、そして私なら、キャッシングを使ったらばれる可能性がある家庭持ちに責任を擦り付ける」
先に話を聞くつもりだったが、それだけで点と点がつながりすべてが腑に落ちた。
「あのさ、午前に部長から公共関係の担当になるにあたり来週から課長にならないかと打診されたんだけど」
「まさかと思うけど、即答はしてないよね」
「実はさ、談合案件の情報を知りたかったことと、昇進が舞い込んできたことの相談をしたかったんだよ」
「行くも、引くも地獄だけど、うまく昇進を固辞しないと、つぶされるね。ただでさえ昼行燈なのに」
声は相変わらず笑ってはいるが目だけは笑っていなかった。
「まぁ明日の夕方にでも、ゆっくり答えを聞かせてよ。
私も、できる範囲の手は打っておくから」
そう言い残し、街灯のない通りへ歩いていった。




