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ネモの軌跡  作者: 桔梗
3/23

事情聴取と幹部会議

以降は淡々と業務をこなしての日々になった。例の生娘として生きる覚悟は想像以上にきつかった。

同僚、先輩、上司の金回りの良さに嫉妬もあった、しかし好々爺の手紙が呪いであり、励みにもなった。

ビッグプロジェクトには参加できない、談合案件にもアンダーグラウンドの案件とも距離は置いて目立たず内部では完全に空気だ。

とりあえず宅建士としては登録し、実務知識もついた。

この14年で得たものは何だろう、徹底した現実主義の研ぎ澄ましと宅建士の資格。部材会社のいい加減な営業担当とのパイプだけ、適当人間を絵に描いたような人間だがやらないことはやらない、妙に法律に詳しい割にはアホを演じているのが妙に怖い。恫喝でも威圧でもなく、静かな怖さ。

魔王のような不気味さはあるが危険は感じない。なんとなくシンパシーは感じるが何かが違う。

そしてとりあえずは家庭も持てた、小さいながら家も買った。

普通でよいことが幸せではあるが、目立つステージには行くこともない。

忖度もしない、違法は拒否する、昇進の話すらない。まぁ良いかと思い、今日も机に向かい図面と予算、建設計画に伴う課題の洗い出しを整理していた。

パソコンディスプレイにネットワーク回線が切れたとの警告

総務に相談をしようと内線を使うが使えない

どうなっている

とりあえず喫煙所にいって一休みと煙草に火をつけたタイミングで

「全員動くな、パソコンから手を離して、携帯スマホは机において触らないように」

表情のないスーツの集団が段ボールを持って入ってきた。

何なんだ?他人事のように見ていると喫煙所の扉が開き、

「早く席に戻り動くな」

怒鳴られる。

「まぁ火をつけたばかりですのでお待ちいただけます?」

話が終わる前に火を消され自席に連れらた。

とりあえず手持ち無沙汰で眺めていると机の中身まで持っていかれている。有無を言わさず持っていかれ呆然としていると

集団の一人に呼ばれる、、

「これについて説明してくれ」

手には件の好々爺からの手紙、もう、十数年前のものだ、今は知らないし、私は距離をっている、と説明も同行しての説明を求められた。

取り調べ室、流石にカツ丼は出ないか。なんて冗談を言う余裕もなく連れてこられた。

担当官、記録係か、あぁあれが録画か、映画やドラマとは多少違うが少なくとも何かしら疑われていることは分かった。

「なんの聴取ですか?」

「あくまで任意で伺いたいだけです」

机の中にしまってあったかつて私に期待をしてくれた好々爺からの手紙が捜査官の手元にある。

「はぁでその手紙と関係があるんですか?」

「いや、内容がね。ただもう十年以上前だし、この人もう亡くなっているしね。例の先輩とやらも亡くなっているしね」

「は?え?社長亡くなっているんです?先輩も?」

「本当に知らなかったの?確か弔問におたくの役員の名前があったけど」

「手紙の通り、会うどころか連絡もしていないので、絶縁状みたいなもんでしょ、私には呪いであり誇りではありましたが、先輩の件も初耳ですよ」

「あ?あんた新聞は読まないの?」

「業界紙と経済新聞だけですね。ニュースも全国のヘッドラインしか見ないですし」

「なるほどね。まずこの手紙の社長さんは10年前に病死だよ、癌による多臓器不全らしい、そして先輩は事故死になっているね。お宅のところを退職して1年後に交通事故、飲酒だよ」

「辞めたらしい、とは聞いていましたが本当だったんですね」

「あんた、本当に興味がないんだな」

「手紙はご覧になったのでしょう、私はこの業界で慣例や既存の悪しき習慣と断絶をした生娘として生きていくと決めてきたんです、だから距離をとっているし、完全に昼行燈なんです」

「それは無理がある、お前は死なない、目立たないギリギリにいる、だから我々はお前を疑う」

「だから何の話です?その手紙に書いてあるような背任ですか?だとしたら流石に時効では?」

「それが怪しいんだよ、素人は公訴時効なんて知らない」

「私は関わりたくないから距離を取った、そのために調べただけ、何なら今までの銀行口座を調べたらよい、100万以上の入出金なんて住宅ローンの時だけだ」

「知ってる、正直この件はどうでも良い、私たちが知りたいのは役所案件の担当者だ、あんたの机とパソコンから図面が出ている」

「不思議ではないでしょう、最低限の積算位はやれますし」

「それだけじゃない、落札率のデータと総合評価点数の推測データが入っていた」

「そんなのは暇つぶしのパズルだ、そもそも官庁担当は課長か次長でしょ、私は昇進ルートからとっくに外れている」

「知ってる、だからものは相談なんだけど、誰が業界の親玉か予想できるか?」

「できたとしてもあくまで憶測でしかない、だから言えない、しかし、あえて言えば営業に壮年が多い、身内に議員、転職先が官庁が多ければ可能性は高いでしょう、どうせ一番下の引き出しには鍵がないし、勝手に同僚たちにファイルをコピーされてる、ある意味共有知的ファイルだ」

「まぁそうだろうね、そんなに拗ねるなよ、君は多分近々昇進するから」

担当官か含みのある笑いをしたが目は笑っていなかった 解放されたのはよいがすっかり日が暮れていた。腹は減ったがあの気持ちが悪い笑いが脳裏に染み付いて離れなかった。 マナー違反とは分かっていたが瓶のウィスキーを帰りのバスで飲み干しながら、帰った。 暗さだけではなく、知った人が2人も消えた、消えたことを知らなかった、そこもあり、飲んでも酔った感覚はなかった


完全に忘れていた痛みで目を覚ました。のどは渇く、頭は痛い、胸焼けと胃の痛み。

間違いない、二日酔いだ。

脱衣入れに空き瓶が入っている。

どうやって帰ったのか、少なくとも靴下が破れているところを見るとまともなルートで帰っていないのだろう。ずいぶん歩いたのかもしれない。

分かっていることはだらしなく、ウィスキーを飲みながら帰ってきたことだけだ。

シャワーを浴びてもまだ酒臭さがが抜けていないようだったが着替えて出勤をする。

忘れていた現実に引き戻さる。

昨日の家宅捜索の後片付けに忙殺された。

現場が家宅捜索の片付けに忙殺され、メディア、関係先の対応に忙殺されている中で別室でも当然の事件があった。

「昨日の家宅捜索、情報の出どころは?」

いかにも役員らしい発言が飛ぶ

「いや、ここ三年は当社は幹事ではないもので」

幹事、というのは談合の取りまとめ業者を言う

「一斉に業界に捜査ならまだしも、実際どこに入ったんだ」

「本年幹事と昨年幹事のところです」

「ではなぜ幹事でもないうちに入る?」

「恐らく、新設市場建設の入札でまとまりきらなかったようで」

「分かった、幹事とはこちらで話をする、新設市場の案件は再入札に参加は難しい、代わりの案件はないのか」

「あるにはありますが、話に乗らなければ」

主催者らしい役員が机を叩く

「話ができなければ打ち合いしかないだろ、なんで我々だけが損をするんだ」

「しかし、この状況で話をしたら疑われます。利幅はなくとも暫くは話に乗らないか関係を絶つべきでは」

「そんな綺麗事で利益が出るのか」

再度怒号が飛ぶ

「ならば、関係ないやつを担当にしたらよいだろう、誰かいないのか」

「はぁおるにはおりますが、営業の例の昼行灯です」

「あいつか、優秀ではあるが要領の悪い、あのマージン関係から距離を置いている」

「そうです。あいつなら話には一切応じません。そして官庁案件は電子入札、建前の担当とするには良いのでは」

「分かった、ではそのように頼む。建前上、官庁担当は課長以上だったな、平から課長は急だがそれについてはこちらでやる、以上、今日の会議は存在していないことを徹底してくれ」

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