パフェとパンドラ
「待たせたね」
そう言って教授の隣に腰を下ろす。
大の大人が、オレンジジュースとチョコレートパフェ。
かなりシュールではあったが、自分自身も甘いものは嫌いではない。
「ココアとチョコレートワッフルをください」
店員に声をかけるとお調子者が笑いながら
「甘党とは知らなかったな、夜更けの甘いものは毒だよ」
そんな話をしているところに、バナナパフェが運ばれてきた。
大人三人が夜のカフェで甘いもの、はたから見れば気味が悪いかもしれないが、ここのところのモヤモヤとストレスが少し解ける感覚をスプーンとグラスの音で感じていた。
「さてと、」
皆が食べ終わったタイミングで、教授は机の上にファイルを置いた。
その横に、六つ折りにしたA1サイズの地図。
「それは?」
「君が調べていたものと同じ、年季が違うけどね」
意味ありげにお調子者が笑う。
「感づいたとのことでお互い情報を交換しようと思いましてね」
にこやかではあるが殺気は十分伝わる。
「では、さきにこちらの違和感だけを伝えてよろしいでしょうか?」
そう切り出し、先に違和感だけを伝えた。
資産価値も目立ったブランドもない郊外で妙に農地の移転がスムーズに行われていること、売りに出された場合でもそこまで苦労せずに引き取り手が見つかること。場合によっては相場よりも高い取引の可能性があること。生産計画以上の農業実態を感じたこと。人員が妙に多すぎること、、、
教授とお調子者は目を閉じて聞いていた。
「まったく、本当に君は苦手だよ。この短期間でアウトラインまで掴んでしまうとはね」
笑いながらお調子者が先に口を開いた。
「確かに、概要だけならば私の調査とほとんど齟齬はありませんね。買い取った法人の情報までは?」
「法人名と登記までは把握していますが、そこまでですね。保険代理店程度では株主の情報までは」
「でしょうね。調べられないことはありませんが、それ以上は進んではいけませんしね」
そういうと、地図を開いた。
「わかる範囲で結構です。あなたの情報と違いはありますか?」
地図といっても公図を何枚も糊付けしたお手製のものだった。
「確かに、概、私のデータと違いはありません」
それを聞くと教授は優しく笑いながらファイルを開いた。
道路状況調査、交通量増大による公共サービスの懸念、駐車場データなど
「これは?アリーナの?」
「そうです。こちらのファイルは情報公開によって入手した資料になります。向かいの席の先生にずいぶんぼったくられましたよ」
愉快そうに笑うと、お調子者もつられて笑いながら
「なんだかんだで、議員やら様々な業者から嫌味を言われたんですから。何より、書類上の依頼人になってくれる人を探すのに苦労したんですよ」
と頭を掻きながら答えた。
「しかし、これだけの課題があれば現在の予定である総合公園に建設は無理筋になるのでは?」
「そうなるでしょうね。少なくとも公益性やインフラ整備を踏まえると洒落にならない金額になって実現は不可能でしょう。何より近隣住民の反対はほぼ確実です。」
「そういうことだよね」
お調子者がニヤリと笑いながら口を挟んだ。
「だから、比較的インフラ整備がしやすい地区に計画を」
「私が政治家ならばそうします。不動産を取り扱う者としての答えも同じです。道路拡張やインフラ整備に伴う立ち退き交渉なんて何十年かかるか」
「となると、アリーナに付属するチームの招聘が」
「白紙化するでしょうね」
「建設、インフラ関係だけでなく、私たち行政書士も甘い汁を吸えなくなる。なんて、副業である以上、おいしい話なんて回ってこないけど」
お調子者は笑っているが目だけは笑っていなかった。
教授はファイルを閉じながら一枚のA4封筒を机の上に置いた。
「なんですか?それ。」
そういいながら手を伸ばそうとした瞬間に封筒は引っ込められた。
「さて、このファイルの一番下ですが。これを見せることはできません。」
そういうと挟まれている封筒を裏返した。
確かに上、下、背面継ぎ目すべてに糊付けと封印がしてある。本物の諜報員でもない限り証拠を残さず中身を見ることはできないだろう。
「なんなんです?それ」
「あなた方二人にとってパンドラの箱よりも質の悪いものです。」
そういって地図にある農業法人名をペンの裏で叩いた。
「見ることはでき・・・」
言葉ができる前に、パンドラの箱の意味を意味を理解して喉が完全に乾燥した。
水を一口飲みながら教授に視線を向ける。
先刻の殺気は消え、かつての好々爺が見せた慈しむ表情だけがそこにはあった。




