異動とお調子者の交付式前夜
調査部門は割とストレスではなかった。唯一のストレスは担当者が一線を越えた発言の火消しに言葉を選ぶことくらいだった。 経営方針が良いせいなのか不正な手段を用いた契約は皆無だった。しかし切り替え案件についてはその限りではなかった。 損保案件は特に顕著で非弁行為を平気で行う代理店営業は珍しくなかった。生保や医療ですら未だに自爆営業の痕跡がある事も珍しくなかった。
(全く)
大きな溜息を付きながら駐車場脇の喫煙所に向かう 現実逃避からか最近、煙草の量が増えている。 唯一の楽しみは夜の試験勉強だった。親が勉強しているのを見ているせいか子供も自発的に勉強している。 まだ2月だが第一週の週末には模試や過去問、月末まではウィークポイントの洗い出しをしている。
梅が散り桜の蕾が膨らむ頃お調子者から電話があった。
「頑張ってる?」
「まぁそこそこ、多分今年は行けるよ」
「そっか、とりあえず4月から登録、連休前に交付式だよ」
電話越しでも声が弾んでいるのが分かった。
「先生、頑張って」
冗談めかして言うと、悪魔のような声で返ってきた
「まだ違う、正式に登録、交付を受けるまでは名乗れないよ」
「どういう事?」
「まだ法律マニアの域を出ていないが縛られてはいる、一番つらい状態かな?何よりへそくりが全部溶けてしまったからね」
「何?祝いすぎて使いすぎた?」
乾いた笑い声の後続いた。
「少なからず影響はしているけど、登録初期費用がね」
話を聞くと随分とかかるらしい。入会金、登録印紙、専用パソコン、プリンタ、事務用品、関連書籍、書庫などなど、、
「しかし、まだ会社員も続けるんでしょ?」
「そうだね、暫くはね。依頼の安定と報酬が入るまでかな?」
気がついたらいつものお調子者の口調に戻っていた。
「まぁ問題は前科かな?前歴と合わせると3つはあるはずだから」
「そうなの?」
「まぁね、若い頃酔った勢いで河に飛び込んだり、停止無視だったり、、、」
前科、前歴という言葉で驚きはしたが、第三者に危害を加えているわけでもなく、悪質な行為でないことに安心はした。
「まぁとりあえずは、何をやるか、専門をどうするか?暫く考えてみるよ」
そう言うと電話は切れた。 ただ、知識と合格だけではなく、どのように使うのか?宅建士のような、業務と関係があり、資格手当が自動で着く装置とは違うことを感じながら、士気だけは上がった。
相変わらず調査部門の仕事は単純ではあった。しかし妙に試験勉強と相性が良いのも事実ではあった。 詐害行為 代理弁済 配信的悪意者 昨年、民法で忘れていたところも実務で思い起こされる。
不動産だけでなく、顧客の事業立ち上げや家賃補助金の相談も行政内部を観察するにはよい教材だった。 日に日に実力が付いていることを認識はしながら、
・・・仮に合格をしてもどのように使うのか?
それが新たな悩みとなってきていた。 ゴールデンウィークにはいる少し前にお調子者から会社に手紙が来た
ー過日、4月1日より行政書士登録となり開業致しました。ご用命の際はぜひお願い致します。 ー
ユリの挿絵以外は無機質な手紙だった。 せっかくなので、電話をしてみる
「おめでとう」
「もう着いちゃったか、明日交付式なんだよ」
「そうなんだ。じゃあ明日は忙しいだろうから明後日の夜にでも行こうか?」
「まだ暫くは会社員やりながらだからね、それは助かるよ」
間違いなく、電話の向こうでは苦笑いをしている。そして疲れた感じもあった。 翌日、仕事を定時に終わらせて酒屋に向かう。 何にしようか?財布と価格を睨みながら祝いを探す。
そのまま事務所とされる住所に向かうがそれらしい建物はない。 しかしよく見ると小さな分譲住宅のポストに自作したであろう看板が掛かっている。名前を見ると確かに代表にお調子者の名前があった。




