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ネモの軌跡  作者: 桔梗
10/23

戦後処理、新しい戦場

終電で帰るなんていつぶりだろうか?

この定期ですら明日の日中までしか使えない。

それでもとりあえずは危機だけ回避した。最悪な事態だけは回避できたことが唯一の救いだった。

とりあえずお調子者にメールを入れる。

―今日、退職してきた

すぐに返信が来る

―随分早いな

―仕方ない、例の盗難事案私が主犯になりかけている

―最悪のケースだな。となると

―そう、このままだったら懲戒解雇になりかねない。早計かもしれないが自主退職にした。

―お宅の内部規定では一か月じゃなかった?

―総務部長が計らってくれた、精神科の診断書?だっけ

―あぁできるね。きわめて黒いけどね

―そうなの

―でも精神的なものは客観的な要素が薄いから、悪用するやつもいる、今回の行為そのものは黒に近いグレーだけど、これしかなかった、に近いから誰も責められない

―会社として何か嫌がらせが?

―間違いなくあると思うよ、事実は伏せて社内外で君に責任を押し付けた幕引きにするんじゃない?

―むかつくな

―まぁ次も決まってんだし、少しは休みな

―ありがとう、勉強頑張って

―任せておけ、再来年の花見には先生と呼ばせてやる

たわいないメッセージを送りあいながら家についた。

明日は保険代理店とのうち亜合わせ以外は保険証の返却だけだ。少し休めるのかもしれない。子供の寝顔を見ながらつかの間の平和に幸せを感じた。



久しぶりに忙しない朝ではなかった。ゆっくりした朝食、登校への見送り

これが平和なのか、しかし次の仕事が順調である保証はない。

しかし、今だけは幸せを満喫できる日常を楽しむだけだ。それが砂上の城だとしても何もないよりだいぶましだ。

久しぶりに掃除もできた。

気がつけば正午を回っていた。

さて、そろそろ保険証を返しに行くか、靴を履いたタイミングでお調子者からの着信があった。

「昨日は大変だったね」

「私は逃げ切れただけ、まぁ退職金が振り込まれるまでは安心できないけど」

「大丈夫だよ、昨日付けで退職手続きが終わっているんだし、何より懲戒処分にするには状況証拠が少なすぎるからね」

「なら安心だけど」

「それはいいけど退職した事を代理店に伝えた?」

「あ、まだ言ってない」

「あんたは変なとこで抜けてるからね」

「すぐに伝えるよ」

「そうしてあげて、じゃあ話が終わったら、、、いつもの店だと面倒だから、明日飲みにでも行こう」

「わかった」

本当にどこまで知っているのか底が知れない、ここまで切れ者で役職に就いていないのは恐らく危険因子として警戒されているからだろう。

13時を少し回ったタイミングで保険代理店の代表に連絡を入れた。

割とドライな反応で

「意外に早い決着でしたね、それでしたら保険証返却したら連絡をいただけますか?」

この人も見抜いている。あまり切れ者がいなかった、というより周りを見ていなかったのかも知れない。

意外に保険証と定期の返却はスムーズだった。今更内部がどうなろうが知ったことではない。

気にならないと言ったら嘘になるが知ったら知ったら知ったならば腹が立つだけだろう。

15時に保険代理店の事務所に着いた。意外にも立派な建物で驚いた。

「いらっしゃい、はじめまして」

電話の印象以上に典型的な営業職を絵に描いたような印象ではあるが、身につけているもの、事務所調度品全てが実用的だった。

質素ではあるが安っぽくない、むしろ安いのかもしれないが上品だ

諜報員のような印象だ、何か違うが決定的に違うわけではない、しかし溶け込む

これが保険の世界なのか

表情は変えずに応接室に座った。

「とりあえず、便宜上住民票の写しと身分証明の取得委任状に署名もらえます?」

「え、履歴書とかは?」

「あぁそれですか、今からタブレットに入力してください、正直、学歴や職歴なんかより正直であればそれで良いんです。写真もここで撮影します。」

「はぁ」

完全に意表を突かれた。

「住民票と身分証明は?」

「保険は人様の財産を取り扱うので、登記されていない。つまり特に行為能力、つまり普通の判断ができる事と自己破産歴が、ないことが分かれば良いんです。」

「そんなものですか」

「そうです。何より件の不動産会社の先代が気に入ったこと、その奥様もあなたを気に入っている、何より例のお調子者があなたを推薦している、これ以上の証明は要りませんがね」

「意外ですね」

「意外ではありませんよ、それはあなたが今まで積み上げてきた資産です。とりあえず念の為知能テストだけは受けていただきたいのですが、明日中にオンラインで行ってください、URLはメールで送ります。」

「かしこまりました」

「そんなに固くならなくても良いですよ、一緒に働く仲間なんですから、あなたは信用できますから3ヶ月、みっちり教えます。よろしくお願い致します。」

「条件は前の書類通りですか?」

「そうですね、しかし希望があれば独立についてサポート致します。インセンティブ比率は低いですがその分基本給は高めです。それだけ期待しているんですよ」

「そこまでしてくれるのですか?」

「私は保険業界に稼ぎたい、以外のモチベーションで来てくださる方がいることが嬉しい、それだけなんです、可能ならば再来週月曜日から出社していただけますか?」

「はい、ありがとう御座います」

拍子抜けするくらい転職が決まった。


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