表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
防国のファントム~弱虫勇者にベテラン幽霊のアドバイスを添えて~  作者: イノセス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

5話

 ユウキ君の体に憑依する事には成功した。気絶しているからか、案外すんなり言うことも聞いてくれる。

 だが、この子が持っている勇者の力と言うのが見当たらない。恐らく魔力みたいな物だと思うが、脳の人中や、腹下の丹田も探ってもそれらしい物は見つからなかった。

 これはきっと、本人が目覚めないと埒が明かないと思い、俺はユウキ君の心臓を殴り続けている。

 のだが、


【ギッシャァ!】

「うぉっと!」


 それを、殺人鬼が邪魔してくる。

 身体強化しているから、斧を振る速度が尋常じゃない。モーションに入ったと同時に回避行動を取らないと、頭と胴体が泣き別れしそうだ。

 冗談抜きで、一刻も早く目覚めてくれないと死んじまうぞ。


「おい!起きるんだユウキ君!ユウキ君?」


 …反応がない。まだ伸びているようだ。


「ユウキ!勇者!おい、起きろよ兄弟!AIBOOO(相棒)!主人格様よぉ!」 

【ぅん…】


 おっ、反応があったぞ?


「起きたかい?おはよう」

【あぁ…えっ!?なに、この状況!?】

「ばっ!」


 ユウキ君が驚いた反動で、俺と体のリンクが一瞬弱まる。そのせいで、殺人鬼の一刀を喰らいそうになった。盾で防いだけど、受け流せなかったので衝撃が全て手に来てしまった。

 くぅ〜…痺れるねぇ。


【なっ、なんで僕、こんなところに…ひぃ!バケモノが目の前に!?】

「オーケー、ユウキ。クールに行こうぜ」


 取り敢えず、彼を落ち着かせるのが先決だ。でないと、何時クリーンヒット打たれるか分かったもんじゃねぇ。

 俺は殺人鬼の攻撃を紙一重で避けながら、ユウキ君にこれまでの経緯を説明する。すると、彼も少し落ち着きを取り戻した。


【そ、そうなんだ。幽霊さんが僕を守ってくれているんだね。ありがとう】

「礼を言うには早いぞ。まだ、完遂しちゃいないからな。その為には、お前さんの力が必要なんだ」


 俺がそう提案すると、途端にユウキ君の魂が小さくなる。

 そして、


【無理だよ、僕には。こんなバケモノを倒す力なんて、僕にある訳ない。だって僕は、僕だから…】


 消え入りそうな声を絞り出す少年。

 その途端、彼の記憶が垣間見える。

 運動音痴で、人見知りで、失敗したり劣った結果を出してしまうと、周りから笑われていると感じて余計に殻に籠ってきた日々。何一つ上手く行かず、両親からも出来の良い兄からも見放されている気がして、何時からか自分なんてと卑下する毎日を過ごしていた。

 その裏で、認めて貰いたいと言う強い願望もある、と。


「悪いな」


 勝手に見ちまって。

 

【えっ?】

「何でもない。それより、やるだけやってみようぜ」

【だから、出来ないって言ってるじゃん!】

「それならそれで良い」


 俺が言い切ると、ユウキ君は【えっ?】と思念を漏らす。

 俺は笑みを浮かべる。


「出来なきゃそれで良いさ。出来ないって事が分かって、次のステップに行ける。出来るかどうかも分からずに、ただ留まっているより何倍も良い。だから、やるだけやってみようぜ。やらない後悔よりやる後悔って言うだろ?」

【でも、それじゃあ、幽霊さんが…】

「気にすんな。俺は最後まで付き合ってやるよ。この殺人鬼は俺に任しとけ。何時間でも、何日でも相手してやる。だから、お前さんはお前さんの事に集中しな。自分としっかり向き合って、自分の内側を見てみなよ」

【…うん…分かった】


 ユウキ君の魂が、また小さくなる。でも、今回はただ集中しているだけだ。

 俺は彼を信じて、もう少しだけ殺人鬼の攻撃に耐える。

 何日でも耐えると豪語したが、それは真っ赤な嘘だ。俺が必要以上に激しい動きをしているから、体中から悲鳴が上がっている。体力も限界だけど、それより先に関節がイカレちまう。いつ疲労骨折するかとヒヤヒヤ物だ。

 頼むぜユウキ。


【あっ】


 祈りが通じたのか、彼の存在が大きくなった。溢れそうな程の幸福感と共に。


【あった。あったよ!幽霊さん!】

「おおっ!良いぞ、ユウキ君。そいつを今、俺の右拳に流せるか?」

【やってみ…あっ、ごめん。足に行っちゃった】

「オーケー!十分だ。おりゃ!」


 右足に纏われた魔力を、そのまま殺人鬼目掛けて蹴り上げる。するとその一撃が殺人鬼の顎にクリーンヒットし、殺人鬼の動きが止まった。

 こいつは良い。効果抜群だ。


【よしっ、今度こそ右手に流せたよ!幽霊さん】

「ナイスだ!」


 纏われた魔力を、俺は殺人鬼の胸部に向けて放つ。顎を揺らされた殺人鬼は、それに反応出来ない。俺達の拳が、奴の装甲を破壊した。

 同時に、纏われていた魔力も消える。


「もう一回だ!」

【うん、分かった…良いよ!】


 剥き出しの胸に向けて、もう1発放つ。それで、肉の半分が弾け飛ぶ。

 もう1発、もう1発。

 俺が殴り、ユウキが魔力を補充する。

 そうして漸く、強化された殺人鬼の胸骨が弾け飛ぶ。目の前には、赤黒く光るレッドキャップの魔石が現れた。

 さっきは先っちょしか見えなかったけど、こうして完全に露出すると、魔石に文字が刻まれているのが見えた。

 これが、魔王の力か。

 

【行けるよ!幽霊さん!】

「ああ、終わりだ!殺人鬼!」


 俺達の渾身の一撃は、

 しかし、魔石の表面で弾かれた。

 くそっ。まだ威力が足りないのか?


【幽霊さん!下を見て!】


 ユウキ君に言われて気付く。広がっていた領域が、殺人鬼の元へと集まっていた。その魔力を吸って、赤黒かった魔石が真っ赤に輝いた。

 広げていた魔力を集めて、防御力を上げたか?確かに強固だ。

 だがな、


「そいつは悪手だぜ。なぁ、先生!」

「あい、分かった!」


 俺が叫ぶと、後ろから多くの足音がした。

 先生率いる魔術師部隊だ。

 彼らは駆け寄りながら、呪文を詠唱する。


「「「勇気ある物に戦神の祝福を。身体(サブスタンス)強化魔法(リインフォース)!!」」」


 俺の中に、みんなの魔力が満ちてくる。拳に集う魔力が、轟々と回り巡る。

 回転する。

 さぁ、行くぜ!


「砕けろぉおお!」

【行けぇえええ!】


 俺とユウキの声が重なる。2人の拳が魔石を削る。削りきる。

 真っ赤に光っていた魔石が、粉々に砕け散った。


【ギャァアアアア!!】


 断末魔。そして、レッドキャップの魔力が一気に膨れ上がる。爆発する。

 赤黒い魔力が、空気中に吹き荒れる。


【ぐっ!】


 その衝撃で、俺はユウキ君の体から吹き飛ばされ、彼も地面を転がる。

 その大嵐が終わると、辺りは静かになっていた。

 魔物達が動きを止め、戦意を失っている。

 総大将を討ち取ったからだ。


「勇者様が勝ったぞ!」

「魔物を掃討しろ!第一から第四部隊、突撃!」

「「「おおぉおおお!!」」」


 一気に盛り上がる王国軍。次々と魔物が討ち取られていき、周囲から喧噪が引いていく。

 そんな中、 


「勇者様!」

「勇者君!」


 地面に倒れるユウキ君の元に、魔術師と兵士達が駆け寄る。さっきまで倒れていた人達も、魔力の霧を浴びて魔力を取り戻したみたいだ。

 そんな人達に向けて、ユウキ君は弱々しく腕を上げる。


「あぁ…痛いよぉ…全身が、燃えてるみたいだよぉ…」

「ははっ。慣れぬのに、身体強化魔法なぞ使ったからだな」

「しかしそのお陰で、この国は救われました。ありがとうございます!勇者ユウキ様」

「「「ユウキ様!バンザイ!」」」


 皆から感謝を向けられるユウキ君は、痛みで顔を歪めながらも、満更でも無い顔で目を閉じた。

 そんな彼に、俺も親指を立てる。

 良い顔になったな、少年。いや、救国の勇者さん。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

続きは…ご要望がありましたら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
新シリーズ開始ですねめでたい 黒いの好きな人は今回は幽霊、てことは透明なんですか どうやって自分の趣味嗜好を満足させるのだろう 少年に黒一色のファッションさせるとか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ