5話
ユウキ君の体に憑依する事には成功した。気絶しているからか、案外すんなり言うことも聞いてくれる。
だが、この子が持っている勇者の力と言うのが見当たらない。恐らく魔力みたいな物だと思うが、脳の人中や、腹下の丹田も探ってもそれらしい物は見つからなかった。
これはきっと、本人が目覚めないと埒が明かないと思い、俺はユウキ君の心臓を殴り続けている。
のだが、
【ギッシャァ!】
「うぉっと!」
それを、殺人鬼が邪魔してくる。
身体強化しているから、斧を振る速度が尋常じゃない。モーションに入ったと同時に回避行動を取らないと、頭と胴体が泣き別れしそうだ。
冗談抜きで、一刻も早く目覚めてくれないと死んじまうぞ。
「おい!起きるんだユウキ君!ユウキ君?」
…反応がない。まだ伸びているようだ。
「ユウキ!勇者!おい、起きろよ兄弟!AIBOOO!主人格様よぉ!」
【ぅん…】
おっ、反応があったぞ?
「起きたかい?おはよう」
【あぁ…えっ!?なに、この状況!?】
「ばっ!」
ユウキ君が驚いた反動で、俺と体のリンクが一瞬弱まる。そのせいで、殺人鬼の一刀を喰らいそうになった。盾で防いだけど、受け流せなかったので衝撃が全て手に来てしまった。
くぅ〜…痺れるねぇ。
【なっ、なんで僕、こんなところに…ひぃ!バケモノが目の前に!?】
「オーケー、ユウキ。クールに行こうぜ」
取り敢えず、彼を落ち着かせるのが先決だ。でないと、何時クリーンヒット打たれるか分かったもんじゃねぇ。
俺は殺人鬼の攻撃を紙一重で避けながら、ユウキ君にこれまでの経緯を説明する。すると、彼も少し落ち着きを取り戻した。
【そ、そうなんだ。幽霊さんが僕を守ってくれているんだね。ありがとう】
「礼を言うには早いぞ。まだ、完遂しちゃいないからな。その為には、お前さんの力が必要なんだ」
俺がそう提案すると、途端にユウキ君の魂が小さくなる。
そして、
【無理だよ、僕には。こんなバケモノを倒す力なんて、僕にある訳ない。だって僕は、僕だから…】
消え入りそうな声を絞り出す少年。
その途端、彼の記憶が垣間見える。
運動音痴で、人見知りで、失敗したり劣った結果を出してしまうと、周りから笑われていると感じて余計に殻に籠ってきた日々。何一つ上手く行かず、両親からも出来の良い兄からも見放されている気がして、何時からか自分なんてと卑下する毎日を過ごしていた。
その裏で、認めて貰いたいと言う強い願望もある、と。
「悪いな」
勝手に見ちまって。
【えっ?】
「何でもない。それより、やるだけやってみようぜ」
【だから、出来ないって言ってるじゃん!】
「それならそれで良い」
俺が言い切ると、ユウキ君は【えっ?】と思念を漏らす。
俺は笑みを浮かべる。
「出来なきゃそれで良いさ。出来ないって事が分かって、次のステップに行ける。出来るかどうかも分からずに、ただ留まっているより何倍も良い。だから、やるだけやってみようぜ。やらない後悔よりやる後悔って言うだろ?」
【でも、それじゃあ、幽霊さんが…】
「気にすんな。俺は最後まで付き合ってやるよ。この殺人鬼は俺に任しとけ。何時間でも、何日でも相手してやる。だから、お前さんはお前さんの事に集中しな。自分としっかり向き合って、自分の内側を見てみなよ」
【…うん…分かった】
ユウキ君の魂が、また小さくなる。でも、今回はただ集中しているだけだ。
俺は彼を信じて、もう少しだけ殺人鬼の攻撃に耐える。
何日でも耐えると豪語したが、それは真っ赤な嘘だ。俺が必要以上に激しい動きをしているから、体中から悲鳴が上がっている。体力も限界だけど、それより先に関節がイカレちまう。いつ疲労骨折するかとヒヤヒヤ物だ。
頼むぜユウキ。
【あっ】
祈りが通じたのか、彼の存在が大きくなった。溢れそうな程の幸福感と共に。
【あった。あったよ!幽霊さん!】
「おおっ!良いぞ、ユウキ君。そいつを今、俺の右拳に流せるか?」
【やってみ…あっ、ごめん。足に行っちゃった】
「オーケー!十分だ。おりゃ!」
右足に纏われた魔力を、そのまま殺人鬼目掛けて蹴り上げる。するとその一撃が殺人鬼の顎にクリーンヒットし、殺人鬼の動きが止まった。
こいつは良い。効果抜群だ。
【よしっ、今度こそ右手に流せたよ!幽霊さん】
「ナイスだ!」
纏われた魔力を、俺は殺人鬼の胸部に向けて放つ。顎を揺らされた殺人鬼は、それに反応出来ない。俺達の拳が、奴の装甲を破壊した。
同時に、纏われていた魔力も消える。
「もう一回だ!」
【うん、分かった…良いよ!】
剥き出しの胸に向けて、もう1発放つ。それで、肉の半分が弾け飛ぶ。
もう1発、もう1発。
俺が殴り、ユウキが魔力を補充する。
そうして漸く、強化された殺人鬼の胸骨が弾け飛ぶ。目の前には、赤黒く光るレッドキャップの魔石が現れた。
さっきは先っちょしか見えなかったけど、こうして完全に露出すると、魔石に文字が刻まれているのが見えた。
これが、魔王の力か。
【行けるよ!幽霊さん!】
「ああ、終わりだ!殺人鬼!」
俺達の渾身の一撃は、
しかし、魔石の表面で弾かれた。
くそっ。まだ威力が足りないのか?
【幽霊さん!下を見て!】
ユウキ君に言われて気付く。広がっていた領域が、殺人鬼の元へと集まっていた。その魔力を吸って、赤黒かった魔石が真っ赤に輝いた。
広げていた魔力を集めて、防御力を上げたか?確かに強固だ。
だがな、
「そいつは悪手だぜ。なぁ、先生!」
「あい、分かった!」
俺が叫ぶと、後ろから多くの足音がした。
先生率いる魔術師部隊だ。
彼らは駆け寄りながら、呪文を詠唱する。
「「「勇気ある物に戦神の祝福を。身体強化魔法!!」」」
俺の中に、みんなの魔力が満ちてくる。拳に集う魔力が、轟々と回り巡る。
回転する。
さぁ、行くぜ!
「砕けろぉおお!」
【行けぇえええ!】
俺とユウキの声が重なる。2人の拳が魔石を削る。削りきる。
真っ赤に光っていた魔石が、粉々に砕け散った。
【ギャァアアアア!!】
断末魔。そして、レッドキャップの魔力が一気に膨れ上がる。爆発する。
赤黒い魔力が、空気中に吹き荒れる。
【ぐっ!】
その衝撃で、俺はユウキ君の体から吹き飛ばされ、彼も地面を転がる。
その大嵐が終わると、辺りは静かになっていた。
魔物達が動きを止め、戦意を失っている。
総大将を討ち取ったからだ。
「勇者様が勝ったぞ!」
「魔物を掃討しろ!第一から第四部隊、突撃!」
「「「おおぉおおお!!」」」
一気に盛り上がる王国軍。次々と魔物が討ち取られていき、周囲から喧噪が引いていく。
そんな中、
「勇者様!」
「勇者君!」
地面に倒れるユウキ君の元に、魔術師と兵士達が駆け寄る。さっきまで倒れていた人達も、魔力の霧を浴びて魔力を取り戻したみたいだ。
そんな人達に向けて、ユウキ君は弱々しく腕を上げる。
「あぁ…痛いよぉ…全身が、燃えてるみたいだよぉ…」
「ははっ。慣れぬのに、身体強化魔法なぞ使ったからだな」
「しかしそのお陰で、この国は救われました。ありがとうございます!勇者ユウキ様」
「「「ユウキ様!バンザイ!」」」
皆から感謝を向けられるユウキ君は、痛みで顔を歪めながらも、満更でも無い顔で目を閉じた。
そんな彼に、俺も親指を立てる。
良い顔になったな、少年。いや、救国の勇者さん。
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