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防国のファントム~弱虫勇者にベテラン幽霊のアドバイスを添えて~  作者: イノセス


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1/5

1話

※諸注意※


「」…人の発言

【】…人外の発言

「勇者様。お目覚め下さい、勇者様」


 そんな声が聞こえて、俺の意識が引き戻される。

 目覚めて真っ先に見えたのは、高く見覚えのない天井。周囲を見回すと、ロウソクが幾つも並ぶ白亜の壁と、大きなステンドグラス。そして、そのステンドグラスから降り注ぐ光を浴びた、大きく真っ白な彫像が鎮座していた。彫像は背中から翼を生やした女性の形をしており、さっきまで会話していた大天使様を思い起こさせるものだった。

 と言う事は、ここは…教会かな?


「勇者様」


 状況確認していると、頭上から再度呼びかけられる。でも…。

 勇者って、まさか俺のこと?


【済みません。まさかその勇者って、私の事ではありませんよね?そんな器じゃありませんよ?】


 そう言いながらも、俺は起き上がろうとした。でもそこで、違和感を覚えた。

 体がとても軽いのだ。つい先日に再発した腰痛も、曲げるだけで違和感を感じていた膝もスムーズに動く。まるで若返ったのかと思えるくらい、体の調子がすこぶる良かった。

 まさか、転移じゃなくて転生させられたのか?と思って体を見てみると…。

 体が透けていた。

 

【ふぁっ!?なんじゃこりゃ?】


 俺は驚き、飛び起きる。その瞬間、ちょっとだけ体が浮かんだ。


 何が何だか、全く分からん。

 それなのに、


「勇者様…うぅむ。目覚めぬか」

「息はされているのですが…」


 目の前のおじさん達は、変わらずにこちらへ話しかけてくる。

 …いや、これは俺にじゃないな。

 

 俺は彼らの視線を追って足元を見る。するとそこには、床に仰向けで倒れる少年の姿があった。少年は学生服を来ているが、顔はまだ幼い。背格好から中学生くらいと思われる。

 そして、俺達の周りには幾何学模様のサークルが描かれていた。そのサークルの端には見慣れぬ文字が並び、四方に祭壇の様な物が設置されていた。

 こいつは…。


【魔法陣…つまり、貴方達が我々を召喚…勇者召喚されたと言う事ですね?】


 俺が問いかけても、おじさん達は無反応だ。勇者に回復魔法を、とか言って慌ただしくしているだけ。試しに彼らの肩を掴もうとすると、手がすり抜けてしまった。

 ははーん。そう言う事か。


【つまり俺は、幽霊になったって事だな?】


 腕組みして、1番偉そうな大司祭らしき人の目の前で立つ。それでも、彼の目は倒れた少年しか見ていない。

 やはり、俺の姿が見えないようだ。

 俺はため息を吐き、大天使風の彫刻を見上げる。


【大天使様よ。転生させるまでは良かったが、体作るの忘れてんぞ、おい】


 つい、荒い口調になってしまったが、彫刻は微笑んで見下ろすだけ。誠意の欠片もない。

 …彫刻だから、仕方ないけど。


「ぅん…」


 どうしたものかと唸っていると、後ろで小さな声がして、周りの神官達が「「おおぉ…」」と一斉に声を漏らした。

 少年が目覚めたみたいだ。


「あれ?ここは?」


 少年は上半身を起こして、驚いた様子で周囲を眺める。

 しかし、その言葉に答えてくれる者は居ない。神官達は互いに抱き合い。成功だなんだと喜ぶばかり。大司祭も「急ぎ国王様に…」と忙しそうだ。

 そんな大人達を、少年はただ戸惑うばかり。いきなり知らない場所で寝かされて、知らないおじさん達が右往左往している状況に、体が委縮してしまっている。

 ちょっと可哀そうだな。


【ここは、何処かの教会みたいだぞ。俺達は、異世界転移したみたいだな】


 チワワみたいになっている少年に、俺はつい言葉を掛けていた。聞こえないと分かってはいるが、何かしたいと思ったのだ。

 分かっている。こんなの、ただの自己満足でしかない。

 そう思っていたのだが、


「異世界転移?あっ、そうか。僕は神様に…」


 なんと、聞こえていた。


【あら?お前さん、俺の声が聞こえるのか?】

「えっ?あっ、はい。普通に聞こえます…けど?と言うより、なんか貴方の体、透けてませんか?」


 少年の指摘に、俺は大きく頷いてクルリと回って見せた。

 

【いや、そうなんだよ。俺も君と同じで転移したみたいなんだけどさ、天界が体を作り忘れたらしくて、魂だけの存在になっちまったみたいなんだ。所謂(いわゆる)、幽霊って奴だな】

「えっ!?ゆ、幽霊?」


 少年が大きな声で驚くと、周りの大人達は喜ぶのをやめて少年を凝視する。大司祭のお爺さんが首を傾げる。


「どうかされましたかな?」

「いや、あの、この人が幽霊だって聞いて、驚いちゃって…」

「この人?とは、何方(どなた)のことでしょう?」

「えっ?」

【ああ、みんなには見えてないぞ。俺の姿】


 少年がキョトンとしていたので、俺はそう教えた。ついでに、先ほどの会話も。


【あと、お前さんを勇者と呼んでいた。どうやら君は、剣と魔法の異世界に勇者召喚されたみたいだな】


 おじさんの1人が回復魔法とか使っていたし、そこは確定だ。

 俺の報告を聞くと、少年は口をパクパクするだけになってしまった。ショックが大きかったのだろう。

 そんな彼に、大司祭が近付く。


「勇者様。国王陛下がお待ちです。どうぞ、こちらへ」

「えっ?へいかって?」


 何が何だか分からないという顔のまま、少年は大司祭に引きずられていく。

 俺も彼らに付いて教会を出ると、目の前には白亜の王宮が聳え立っていた。その大きな門を潜ると、城へと続く幅広い石畳が真っ直ぐに伸びていた。石畳の両脇には広い芝生が広がっており、その上を兵士達が慌ただしく行き来している。そのせいで、折角整えられていた庭園も台無しだ。でも、誰も咎めようとしない。

 これがこの世界の常識なら、まだ良い。でも問題は、これがこの世界でも非常識だった場合だ。もしも後者であるなら、この国の状況が最悪と言う証拠である。


【少年。もしかしたら俺達は、最悪のタイミングで呼ばれた可能性があるぞ】

「えっ?」


 俺が少年の耳元で囁くと、彼は驚いた顔を向けてくる。

 それに、俺は横を通り過ぎた兵士を指さした。


【周りを見てみろ。戦場でもないのに、兵士がフル装備で走り回っている。目もやけにギラついているし、かなり切羽詰まった状況と見える】

「ど、どう言う、こと?」

【つまりだ、君はいきなり実戦投入される恐れがあるって事だ。それが戦争なのか魔物退治なのかは分からんが、ある程度の覚悟はしておく必要があるぞ】

「ええっ!?そんな、そんなの無理だよ!」

「どうかされましたか?勇者様」


 少年が大声を出すから、大司祭が不思議そうに彼を振り返る。

 そんな大司祭を、少年は見上げる。


「あの、僕、どうなっちゃうんですか?」

「今から陛下にお会いして頂きます。そこで、ご説明があるでしょう」


 大司祭はそう言って、作った笑みを浮かべる。そして「さぁ、こちらです」と言って先を急いだ。

 そんな彼の背中を、少年はただ、青い顔で付いて行くのだった。

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