第三話 初めての喝采
「……できたぞ」
俺のノートには、ぎっしりと図や数式が書き込まれていた。
本来なら犯罪に使われかねない発想が、斎藤さんの助言で不思議と形を変えていく。
「侵入口を探すんじゃない。“安全に逃げる道”を考えるんだ」
「詐欺の仕組みを逆にすれば、人を守る仕組みになる」
その言葉に導かれ、俺は思考をひっくり返し続けた。
やがて生まれたのは、災害時の避難をシミュレーションできるアプリだった
犯罪思考な俺の発想が、人を救うために使われたのだ。
◇
数週間後、市の防災イベント
会場の大画面のスクリーンに、俺たちのアプリが映し出されていた。
「これなら子どもでも避難できる!」
「すごい……まるで本当に逃げてるみたいだ」
「役立つぞ、これは!」
人々が夢中になってタブレットを操作している。
その光景を見ながら、俺はただ立ち尽くしていた。
――俺の思考が、人を助けている。
「見ただろ」斎藤さんが低く笑う
「お前のアイデアは、壊すだけじゃない。救うこともできる」
◇
イベントの最後
司会者がマイクを掲げた
「今回のシステムを考案したのは――こちらの青年です!」
視線が一斉に俺へと集まる。
拍手やフラッシュ...歓声
震える声で「ありがとうございます」と呟き、俺は頭を下げた
――初めてだ。
この思考が、誰かに認められたのは...
お前は、生きていていいと認められた気がした
◇
だがその時――
人混みの奥に、一人の男性が立っていた
拍手もせず、ただ無表情で俺を見つめている
黒いコートに無駄のない姿勢で
冷たい眼差しが、俺の心臓を射抜いた
会ったことはない。だが直感で分かった。
――あれは、親父に繋がる人間だと...
◇
視線を外した瞬間、男性の姿はもうなかった。
残されたのは、歓声と拍手だけ。
その中で、俺の背筋だけが凍りついていた。




