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第一章8 入学編『試験の前触れ』


 試験の日はいつもより登校が遅めであり、通常より二時間後である。


「それまでは訓練場に行って実力を高めるように」


 とアリアに言われていたため、俺は訓練場へと向かう。


 訓練場は石床の広い円形アリーナだ。中央に的が並び、端には動く練習用ゴーレムが鎮座している。


 屋根の陰からは多くの声が飛び、鉄と魔力が混ざった匂いが鼻をつく。剣がぶつかる金属音、遠くで魔術の詠唱が低く震え、床に伝わる振動が手首に残った。

 人でごった返すその中に、ひときわ目を引く二人がいた。黒髪の大柄な奴は大剣を軽々と振り回していて、振るたびに風が唸る。


 金髪の小柄な少女は――あの壇上のリアナだ。彼女の掌から放たれる魔力の塊が、標的を砕くように炸裂している。


「すげえな……」


 思わず口にしたら、リアナがこっちを見てにっこりした。


「ええと……君は確か同じクラスのジン君ですか?」


 彼女は首を傾げ、小さく笑う。魔力の粒がまだ掌にちらついている。


「ああ」


 内心覚えてくれていたことに歓喜する。


「これは魔術じゃないです。ただ私の魔力を塊にしてぶつけてるだけですよ」


「…………………?」


 何を言っているのか理解するのに時間を要した。魔力を飛ばすこと自体あまりにも自分にとって新鮮で分からないことなのだ。


「あまり使い勝手の良いモノではないので知らなくても大丈夫です。豆知識程度の技ですから」


「すまない……少し知識が足りなくて」


 俺は少し落ち込んだ。


「いえ、大丈夫ですよ。よければ一緒に訓練しませんか?」


 俺が言葉を返すと、リアナは肩をすくめて提案してきた。

 その提案を俺は了承し、二人で訓練する。リアナの魔術は素晴らしく火、水、風、雷、光の五種ではあるが、その全てを中級以上に習得しているようだ。


「ちなみに属性魔術の種類は幾つか知っていますか?」


「確か……水、火、風、光、雷、地、闇、氷の八つかな……」


 合間合間に魔術を詠唱し放ちながら俺は答えた。


「当たりです」


「それなら良かった」


 俺たちは互いに技を確認し合い、短い反復を重ねた。リアナの魔術は強力だが、その分制御のブレが致命的になる瞬間がある。

 俺は自分の魔力制御を慎重に試した。周りのざわめきが続く。誰かの歓声、誰かの叱咤。訓練場の音は止まらない。

 俺は掌に魔力を集中し、小さな防御魔術を作って、リアナの放つ魔術を受け流す練習を始めた。


 リアナの魔術を防御魔術で受け流すが、威力が高く、少しでも当たるだけで防御魔術は砕ける。


「ジンさん、防御魔術を展開する時は相手の放つ魔術の威力によって掌に込める魔力量を変えたら良いですよ。防御魔術は込める魔力量によって耐久値が変わりますから」


「教えてくれてありがとう。やってみる」


 リアナは簡単そうに話していたが、中々に難しい。向かってくる魔術の威力の大小に対して、変則的に対応するなんて、容易にできることではない。


「少し、難しいな」


 昼の光が少し傾き始め、俺の腕には薄い筋と汗が刻まれていた。短い反復を何度も繰り返し、気づけば訓練場は試験の合図を待つ空気に変わっていた。

 

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