表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/33

第一章28 蛇闘編『夕陽と喪失』


 王都の第一騎士団本部にて、板金鎧プレートアーマーを着た二人の男が夜空を見上げていた。夜は深く、星々が美しく静かに煌めいている。


「最近は、物騒だってのに。空はいつまでも綺麗なままだな」


「お前、こんな夜中まで仕事って大丈夫か? 俺は別に家族がいるわけじゃねぇから、心配するもんも何もねぇんだけどよ。娘、3歳になるんだろ?」


「うーむ、そうだな……」


「別に見回りくらいなら俺一人で大丈夫だからよ。今日はもう上がりな。ま、その代わりに明日は頑張ってもらうが」


「すまない。上がらせてもらうよ」


「そうですカ」


 自分たち以外から発せられたその声は、全く聞き覚えがなかった。

 二人は瞬時に剣を鞘から抜き、声の主の方向を向こうとした瞬間、その二人の上半身が消し飛んだ。

 遅かった。そう思考する間もなく、二人の意識は途絶えた。


「まずは二人だネ」


◇◇◇◇◇


 夜が明け、朝の空気は冷たかった。ヨルアスはだるそうに朝食を摂り、訓練校へ向かう支度をした。


(眠い……)


 前日の疲労が取れていないせいか、いつもより眠気がする。


 訓練校へ向かう道中、普段以上に寒気がした。

 嫌な予感というのだろうか。

 ヨルアスは何かを感じ取っていた。


 訓練校に着き、朝の魔術の特訓に励んだ後、授業を受ける。

 普段と何ら変わらない日常のように思えたが、その日常は先生の言葉によって崩壊した。


「一応、知っている人もいるかもしれないけど、私からも注意喚起として言っておく。前日の夜、何者かによって第一騎士団本部が壊滅的な被害を受けた。もし、何かしら犯人に対して知っていることがあれば私を含め、訓練校の先生方に報告を。外出や帰宅はできるだけ一人で行動しないように」


 その言葉によって、教室内にほんの少しの動揺が生まれた。

 ヨルアスはメリアの方を向いた。メリアは少し暗い表情をしている。


 先生の連絡が終わり、放課後になった。

 夕陽の光が校舎に差している中、ヨルアスは、俯いたまま校舎を出ようとしたメリアを呼び止めた。


「メリアっ!」


 呼び止めた理由はヨルアスの内でメリアの暗い表情と先生の言葉が引っかかったからだ。

 ヨルアスはこのままメリアを行かせてはいけない気がした。

 メリアはヨルアスの呼びかけにビクッと反応したが、歩みは止めない。

 ヨルアスはそんなメリアの元へ駆け寄り、肩に手を置き、再び呼び止めた。


「メリアっ」


 メリアは振り返った。

 その顔はひどく目を泣き腫らし、瞳には光が無く、今にも死にそうな表情をしていた。


「メリア……? ……何があったの?」


 ヨルアスはメリアのことは知っているつもりだ。だが、メリアの周囲の事情まではよく知らなかった。


「お父さん……死んじゃった」


 ヨルアスはその返答に言葉が出なかった。慰めが正解なのか、何を言えばいいのか分からない。ヨルアス自身も父母を失っていて、そのときにかけられた言葉で気分が晴れた経験がなかったからだ。


(何を言えば……慰めたり憐れんだりしても、本人と同じ程度に悲しむことはできず、悲しみを平等に分かち合うことはできない)


 ――そう考えると、余計に言葉は出てこない。


「お父さん、第一騎士団で働いていてね……わたし、お母さんに……朝起きて……死んじゃったって聞かされて……でね……」


 メリアは必死に伝えようとするが、喉の奥が詰まり、うまく言葉が出てこない。


「なんで……なんで……上手く……声が……出ないの……?」


「メリアいいんだ。ごめん、聞くべきじゃなかった。整理がついたら話してくれていいから」


(整理がついたら? 俺は何を言ってるんだ……身内の死に整理がつくはずないじゃ無いか……俺もそうだったように)


 メリアは頷いた。ヨルアスとメリアはそのまま帰り道を歩き、一言も話さずに家に帰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ