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第一章25 蛇闘編『雷雲と暗雲』


 白髪の男は急いで後方に下がり、地面に落ちた短剣を拾って構えた。

 突然の出来事で頭が真っ白になる。

 なぜだ。なんでリアナがここにいるんだ。

 俺はリアナを巻き込まないようアリアに頼み込み、アリアを通してリアナにそれとなく俺の意図を伝えてもらっていた。

 俺にとってリアナは大切な友人だ。


 当時の俺はリーガが行方不明になり、自分が思うよりもずっと落ち込んでいた。

 リアナはそんなときに一緒にいてくれた唯一の人間だった。だからこそ、リアナまで居なくなれば自分を失う気がした。

 そんな俺が避けていたのは――リアナを巻き込むことだった。


「リアナさん。どうやってここに……!」


 アリアの声にはの困惑が混じっていた。その手には汗が滲んでいる。


「偶然、今日出掛けていて……大きな物音に気づいて、街中にいる魔物を倒していたら、魔術師の人がいて……魔術師の人と共に魔術協会に……それで、サラさんに話を聞いてジンさんもいると聞いたので……」


 リアナは息を切らしていた。魔術協会から王城までは距離がある。よほど急いで来たのだろう。

 リアナが来てくれたのは運が良かった。もし来ていなければ、俺は今頃、死んでいたかもしれない。


 本当に巻き込んでいいのか……?


 いや、もうここに来てしまった時点で既に当事者だ。ここにはアリアやレヲリさんもいる。

 何も、リアナに起こるはずはない。

 考えるな。考えるな……!

 今は目の前の敵を倒すことだけに集中するしかない。


「話は終わったのかな。待ってくれた僕に免じて、腹を切らせてくれてもいいんだよ」


 白髪の男は切先をアリアに向けた。


「戯言はいいです。あなたたちは下がって。レヲリと私で隙を作るからその隙に攻撃を仕掛けて」


 アリアは俺とリアナを後ろへ下がらせた。俺は剣を構え、リアナは光魔術を詠唱し始める。


「光よ。かのものに光の裁きを――」


光の裁き(ライト・ジャッジ)


 リアナは光魔術を俺の剣に付与した。剣には光の層が何重にもまとわりつく。

 アリアはほとんど同時に白髪の男へ攻撃を仕掛けた。


「行くわよ」


 白髪の男はアリアの掛け声が俺たちの耳に届くよりも早く姿を消した。

 音一つ立てずに。風の音だけが耳元で聞こえる。

 全員で警戒を強め、周囲を見渡したが、見当たらなかった。


「一体どこに……?」


 レヲリの声はアリアの声にかき消された。


「……! 上よ!」


 空から、白髪の男が短剣を下に向け猛スピードで落下してきた。短剣に夕陽が反射し、間合いを掴みにくい。

 だが、アリアは躊躇なく雷魔術を叩きつける。


「雷雲よ。かのものに神の怒りを――」


雷雲の一撃ヴォルティック・ボルト


 空がいきなり暗くなり、辺りの空気が痙攣したようにピリピリと震える。

 アリアは片手を天に掲げ、指先に青白い火花が散る。やがて頭上の雲が吸い寄せられるように渦を巻き、黒い渦の中から尖った雷が落ちてくる。

 天が一つの槍になったかのような閃光が白髪の男に落下した。


 見事に直撃した。

 白髪の男は空中で黒焦げになり、そのまま地面へ落ちた。焼けた匂いが鼻を突いた。


 これはやったのか……?


「雷魔術の最上級魔術のひとつよ。正直これで終わればいいのだけど」


 アリアの魔術は派手に直撃していた。普通であれば死んでいる。

 普通であれば、な。

 あれほど顔を損傷していても生きていた。人間かどうか怪しいほどに。まだ警戒は緩められない。


 次の瞬間、白髪の男が落下した地面に赤褐色の魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣は複雑な図形が重なり合い、構築されていた。

 男の腕に刻まれていた魔術刻印が赤く輝き始め、魔法陣も共鳴するようにどす黒く輝き、そこから光の届かない完全な暗闇の球体が現れた。

 

「くそが……いでぇ゛」


 嫌な感覚だ。その球体を見るだけで耳鳴りと頭痛がする。耳鳴りと痛みは頭の中で増幅されていく。

 その球体から目を離すことができない。


「なによ……これ」


 アリアとリアナはそれを見ているが不快そうにしている。レヲリは頭を抱えてうずくまっていた。

 全員、正気を保つことだけで精一杯だ。


 球体は白髪の男の腕を、脚を、頭を――闇で包み込むように広がり、男を飲み込んだ。

 やがて、完全に男は球体に飲み込まれた。その球体は白髪の男を赤子を産み出すように吐き出した。


「これ、毎回やるのしんどいんだよねぇ」


 黒焦げだったはずのその肉体は完全に元に戻り、顔の傷はそのままだが、より一層異様な雰囲気が増している。

 腕にあった魔術刻印は左半身へ広がり、大きくなっていた。

 球体は豆粒ほどの大きさまで収縮し、魔法陣の中へゆっくりと落ちて溶けるように消えた。


 その瞬間、先ほどまでの耳鳴りと頭痛はまるで最初からなかったかのように消えた。


 なんだったんだ……?

 それよりも、男の肉体が元通りになっている。どういうことだ。

 白髪の男は短剣を構え、刀身には蛇の紋様が浮かび上がっていた。

 

「それじゃあ。行くかぁ」


 驚異的な速さで距離を詰めてきた。やはり、何かが違う。

 速い……!

 アリアは再び雷魔術を放ち、レヲリも風魔術を放ったが、白髪の男はそれらを軽快に躱した。

 男の目を見据える。


「狙いは俺か……!」


 呼吸を整えた。無意識に『魔体強化』を行い、魔力を一点に集中させる。俺の剣が男に届くかは分からない。

 だが、今は己の剣を信じるしかない。


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