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第一章20 蛇闘編『咆哮の正体』


 その姿は、鹿の頭蓋骨を思わせる頭部を持ち、胴は黒い霞のように渦を巻いていた。周囲にはどす黒い球体が浮遊し、魔物とは違う気配を放っていた。リーガのようなものはその存在に飲み込まれ、同化しそれはさらに気配を強めた。


 俺たちは、戦闘体制をとる。本能がそれからは逃げられないと言っていたように感じたからだ。


蛇黒(だこく)、殺せ」


 黒ローブの男は呟き、路地裏へと姿を消した。


「××××××××××……」


 蛇黒が何を話しているのかわからない。その声と同時に放たれた黒い球体の一つが、俺たちに向かってきた。リアナは短剣を鞘から抜き、短剣に宿る光魔術を球体に向けて放つ。


「光魔術で消えるのか?」


「これで、もし消えたとしたら相手の使う魔術は闇魔術でしょう。試す価値はあります」


 球体と光は反発し合いリアナの魔術がそれを打ち消した。


「闇魔術なら……光で対処しましょう!」


 俺は後方で光魔術を詠唱し、リアナは短剣を持って蛇黒との間合いを詰める。蛇黒は球体を全て、刃に変え、リアナへと放つ。弾道は不規則で読みにくい。


「リアナ!」


 ジンは叫び、光魔術を放つ。


「光剣よ……打ち払え!」


 短剣の刀身が光に包まれ、短剣は長剣へと変わった。リアナは刃を打ち払い、蛇黒へと長剣を向ける。そう簡単には行かず、蛇黒から無数に刃が生成され、俺たちに放たれる。


 リアナは長剣で応戦し、俺は防御魔術を展開して、刃群の一部をはね返す。だが完全には防げなかった。刃のひとつがリアナの腕を掠め、彼女は痛いのか顔をしかめる。


 数分後、刃の雨が止んだが、俺たちの魔力はあまり残っていない。蛇黒は剣を作り出し、二人が感知するよりも早くその場から消えた。


 次の瞬間、冷たい痛みが脇腹を貫いた。息が抜け、鋭い衝撃で体が悲鳴をあげる。後ろを向くと、黒い影の刃が一本、じっとこちらに突き出ていた。気づけば蛇黒がそこにいる。


「ジン! 光剣よ! 貫け!」


 リアナは蛇黒に向けて長剣をかざす。刀身が伸び、蛇黒の身体を貫いたように見えた。だが、一瞬にして身体は修復された。まるで影から再生しているかのような…リアナは何かに気づく。


「影……!」


 蛇黒はまたもやその場から姿を消した。俺は自身に簡易的な治癒魔術を施し、なんとか立ち上がる。リアナは長剣を自身の影に向け、俺はその意図を読み取り、光魔術を詠唱する。


「かのものに光の刃を――」


光輝なる刃(ライトソード)……」


 蛇黒はリアナの影から現れる。リアナに俺は合図を送り、光魔術を放つ。リアナは合図とともに光の長剣を自身の影に突き刺した。その直後、蛇黒の頭部が欠け、胴体の半分が消え失せた。


 俺たちは最後のとどめとして光魔術を放ち、蛇黒は咆哮を上げるとともに完全に消滅した。同時に黒球も消散した。蛇黒の咆哮は街中に響き、俺は咄嗟に耳を塞ぐ。咆哮に気づいた魔術協会の者が向かってきた。


 気づけば地面に膝をついていた。魔力を使い果たし、身体が重い。耳に残るのは遠くで誰かが発する叫びと、足音だ。


「君たち! だいじょ……ぶ……か……………」


 周りの声が遠のき、意識は深く落ちていく。



◇◇◇◇◇



 白い蛍光のような天井に目を覚ますと、ここは医務室だった。カレンダーを見ると、二日ほど意識を失っていたらしい。隣にはリアナが椅子に座っていた。


「おはようございます」


 リアナは疲れた顔でも微笑む。


「おはよう……あの後何があったんだ?」


「私も昨日目覚めたばかりだから、分かりません。ただ、リーガさんが行方不明になっているという話を聞きました」


 リアナの表情は少し薄暗く見える。


「アリア先生がお見舞いに来て、ジンさんが目覚めた時に今回の件に関して詳しく話すらしいです」


 俺は喉を鳴らし、手を伸ばして脇腹のあたりを確かめる。軽い傷はあるが、致命的ではない。胸に冷たい不安が残っている。


 扉がノックされ、アリア先生の声が廊下から聞こえた。


「ジンくん、リアナさん、目を覚ましたわね。事情を説明するから、別室に来てちょうだい」


 リアナは小さく頷き、俺も力を振り絞って立ち上がり、リアナに支えられながら別室へと向かう。俺たちが部屋に入ると、椅子に座るアリアの表情はいつになく真剣だった。


「話すことが多いの。まずは落ち着いて。リーガさんのこと、そして蛇の紋章に関して、私の方で新しい情報を得ました」


 アリアの口ぶりに、俺たちは覚悟を決める。問いは山積みだが、今はただ彼女の言葉を待つしかない――



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