第一章16 襲撃編『結界と赤髪の女性』
魔王城にて、ガレリア、ギルデズナが魔王に報告していた。
「申し訳ありません……魔王様。貴方様から命を受けたのにも関わらず、失敗してしまいました。私、ガレリア・オーウェンは……責任を取り、死を受け入れます」
ガレリアは魔王への忠誠心が強く、魔王のためならば命さえ投げ出す覚悟を見せる。
「魔王様、ごめんなさい。失敗してしまった。私も責任を取る」
ギルデズナもまた、命を捧げる覚悟を示した。
「ガレリア、ギルデズナ良いんだ。君たちは今後のため必要となる。その時のため、魔力を温存しておけ」
魔王は不敵に笑ったが、その声に温度は感じられなかった。
「承知いたしました。感謝いたします」
「分かった。ありがとう」
ふたりは安堵のような表情を浮かべ、報告を続けた。勇者の子の現状、学院の教師の被害、そしてヨルアスの強さについて――
「ギルデズナ。ヨルアスの実力は変わっていたか」
魔王が問いかける。
「私が以前戦ったときに比べて、少し弱くなっていた。少なくとも全盛期の私と互角程度にまで落ちている。魔王様には及ばない」
ギルデズナは淡々と述べた。
「ならば良い。下がりたまえ」
魔王は報告に満足した表情を見せ、ふたりはその場を下がって戻っていった。
◇◇◇◇◇
学院は前日の襲撃を受け、一週間の休校措置が敷かれていた。教師の半数近くが重傷で、一部は意識が戻っていないが、治療が進めば一か月ほどで復帰できる見込みだという。
だが、魔人の実力を知った今、ただ立っているだけでは誰も守れない。強くならねばならない――そう改めて思った生徒は多かった。
俺たちは、結界の件についてヨルアスに聞きに行った。
「ああ……君たちか」
ヨルアスは少し疲れているように見える。
「結界の話を聞きに来ました」
「そうか。いや……すまないが話すことはできない。今現在、色々立て込んでいてな忙しいんだ。調査はしているが、有益な情報はない」
「なら結界はどうするんですか?」
リーガが問い詰めるように聞く。
「結界は壊せないんだ。結界を張っている魔法陣の場所さえわかればいいのだが……」
結界を張っている魔法陣を見つけて解除するか、結界そのものを破壊すれば解除できる。
「破壊する手段は取れないのですか?」
俺は疑問を解消するため問いかけた。
「破壊は可能だ。だが、何者かによって結界自体にも破壊と同時に爆発する魔術が組み込まれていたんだ。その威力がわからない以上下手に壊せない」
俺たちは納得できない表情を見せるものの、解除が不可能な現状を受け入れるほかなかった。言葉少なに寮へ戻る二人。だが、帰り道で背後から声をかけられた。
「君たちは……医務室で確か会ったよね。あの後、何事もなく治ったのね」
赤い髪が夕陽に強く照らされている。医務室でリーガに治療を施した女性だった。
「あなたはあの時の……!」
「ジン、この人は誰なの?」
リーガは眠っていたため、あのとき誰が手当てしてくれたのか覚えていなかった。俺はリーガに説明する。
「リーガに治療を施してくれた人だよ」
「ああ……! あなたがそうなんですね! あの時はありがとうございました」
リーガは深く礼を言う。女性は肩をすくめ、にっこりと笑った。
「いやいや。当然のこと。そういえば……まだ名乗っていなかったね」
「私の名前はサラ・リヒエル。最上級魔術師よ」
――サラ・リヒエル。頭のどこかで、その名に聞き覚えが浮かんだ。
「サラ・リヒエル……"火焔の女王"……?」
リーガが小声で呟く。
「知っているの。あれは昔の二つ名よ。冒険者時代の呼び名だったかな?」
彼女は嬉しそうに言い、腕時計に目をやると急にそわそわした。
「もうこんな時間……行くね。またね」
そう言うや否や、サラは飛行魔術で魔術協会の方向へ飛び去った。赤い外套の裾が風を切り、香るような熱気だけを残して――
俺はリーガに、その二つ名の由来を尋ねた。
「リーガ、その名の意味ってなんなんだ?」
「サラさんって、昔、魔物が森に現れたときに森ごと焼き払ったらしいんだ。それで、その場所は二度と草木が生えなくなったとか……そんな由来だった気がする」
リーガは嬉しそうに話す。俺は少し身を引いた。
「サラさんはこの国にいる火属性魔術を主に使う魔術師の中で一番強いって聞いたことがあるよ」
「よく知っていたな」
「僕は火属性魔術が得意分野だからね。そういう情報とかも集めてるんだ」
「も……?」
リーガはその指摘を待っていたかのように饒舌に話し始めた。
「気になる? 例えば、剣術を極めた者たちの話とかなんだけど、剣狂い《つるぎぐるい》の話とか――」
俺はリーガの止まるところを知らない話を少し聞き流しながら寮へ戻った。ベッドに入り、瞼を閉じると、今日は少しだけ疲れているのを感じた。




