第一章15 襲撃編『魔人とヨルアス』
教師陣はまず生徒の避難を優先した。圧倒的な強者から生徒を守ろうとするその行動に、魔人たちは淡々と名を名乗った。
「身を挺して弱きものを守ろうとする……素晴らしいですね。あなたたちに敬意を表し、名乗ることにしましょう。私は、ガレリア・オーウェンと申します。ぜひお見知りおきを」
「面倒だけど……私はギルデズナ」
「では、始めましょう」
二人の威圧は凄まじく、空気が重くのしかかる。教師たちは間を埋めるように魔術を放ち、場を守ろうとする。
だが、ガレリアは冷たく詠唱を紡いだ。
「時間がありませんので、早く終わらせましょう。闇の根源よ。――かの者どもに死を与えよ」
その詠唱は、耳には聞き慣れない、底の深い響きを持っていた。アリアは叫んだ。
「その詠唱は闇属性の最上級魔術よ! 全員、離れなさい!」
アリアは対抗の詠唱を始める。雷を纏わせ、刃のような光を呼び上げた。彼女の詠唱は切迫していた。
「雷よ、かの者に迅雷の裁きを」
(この魔術は一度きりだけど、同じ最上級魔術ならば、相殺できるはず……)
「迅雷の裁き」
「暗黒陽光」
声は張り詰め、迅雷の裁きの詠唱と、ガレリアの暗黒陽光がぶつかるはずだった。魔術が衝突し、空間が引き裂かれる――しかし……
衝突した魔術は、ガレリアのほうが力を上回った。雷は吸い込まれ、アリアへと制御不能の侵食が向かう。
その瞬間、轟音を伴って誰かが飛来した。校長だった。
「少し、学院を空けてしまったのは失敗だったか」
校長は飛来するや否やアリアに触れ、魔術の侵食を押さえ込んだ。彼の存在は場の空気を一変させる。圧倒的な魔力が地を震わした。ギルデズナはその正体を見てたじろいだ。
「ヨルアス……あなたは危険だ。ここで仕留める」
ギルデズナはそう告げると、鋭い尾をヨルアスへ向けて姿を消した。空間が歪み、次の瞬間にはギルデズナが一歩前まで迫っている。
だが、その尾が届くことはなかった。ヨルアスは無詠唱で光の斬撃を放ち、ギルデズナの四肢の一部を断ち切ったのだ。
ギルデズナは尾で自分を後方に吹き飛ばし、辛うじて体勢を立て直す。近くではガレリアが他の教師たちと戦い、激しい光と轟音が交錯している。しかし教師陣の多くは重傷を負っていた。
生徒たちは避難している。だが、ジンとリーガはまだその場に残されていた。
「このままでは、埒があきませんね。君たちを先に消すとしましょう」
ガレリアは俺たちに狙いを定め、殺意をもって襲いかかる。
俺は慌てて剣を抜き、ガレリアの手刀を受け止めようとした。手刀は重く、ジンの腕は軋む。刃が肌をかすめる音がした。
避けられない寸前、リーガが後方へ俺を引き、辛うじてかすり傷程度の被害で済んだ。
アリアはまだ動けず、魔力が枯渇しながらも懸命にを詠唱を続け、取るに足らぬ牽制を放つ。だがガレリアの視界にはそれが届かない。
俺に追撃の気配が走る。次は避けられない一撃が来る。
そのとき、遠方から甲高い声が響いた。騎士団の援軍だ。騎士たちの隊が攻勢に転じ、ギルデズナとガレリアの包囲を試みる。
「流石に分が悪いですね。ここは一旦引くことにしましょう。ギルデズナ」
ガレリアの額には、汗が浮んでいた。
「わかった」
二人は地面へ魔術で火級を放ち、煙と闇に紛れて姿をくらませた。その気配が消えると同時に、騎士団は追撃を仕掛けようとした。ヨルアスが声を上げた。
「追撃はやめておけ。私でも二人の相手は厳しい。一応、他に魔物がいるかもしれない。警戒態勢を引け」
「ヨルアス会長……いえ! 分かりました!」
騎士たちは倒れた教師を救護し、学院周辺を調査した。幸いにも死人は出なかったが、負傷者は多く、事態は深刻だった。
その後、俺たちは寮へ戻り、ヨルアスに明日、詳細を話を聞くことになった。身体の痛みがじわりと広がり、二人とも深い眠りに落ちていった。今日の出来事は、彼らの胸に長く残ることだろう。




