第一章10 試験編『第一回実技試験ゴーレム戦』
二年生の試験が終わり、ついに一年生の番だ。大半の者が二体目のゴーレムで苦戦し、約半数がそこで敗れた。やがて、俺の番が来た。
「ジンさん頑張ってください」
リアナがにっこり笑いかける。胸の奥がちょっと温かくなった。
「ちなみにリーガとリアナはいつなんだ?」
「私はジンさんの次です」
「僕は、リアナさんの二つ後だよ」
◇◇◇◇◇
試験の時が近づき、控え室で心身を整えた。孤児院で譲り受けた剣を携えている。スピーカーから先生の呼び出しが聞こえた。
「一年B組、ジン入場してください」
会場に立ち、呼吸を整えた。目の前には小さなゴーレムが立っている。俺はこれからあれと戦う。再び息を整えたところで――開始の合図が鳴り響く。
「始め!!」
ゴーレムは凄まじい速さで真正面に向かってくる。腕を刃に変形させ迫ってくる。剣を構える。だが、その瞬間ゴーレムが視界から消えた。
足音がしない。首が不自然に回る。俺の目は追うだけで精一杯だ。掌の汗が冷たくなる。
「まずい」
――呟く前に動いてきた。刃先が俺の脇をかすめる。風を切る音、耳を掠めていく。
ゴーレムの速さに翻弄されるがそこには規則性がある。俺は軌道を読むため、防戦一方に回る。
一拍。二拍。軌道がわかった。切っ先が一度、胸の前で小さく引っかかる。間合いを詰めるクセだ。本で読んだ。
速い相手は「戻り」を作る。戻りを見たら、次は必ず同じ線を通る。
俺は足を滑らせず、膝を沈める。防御魔術を練る。小さな盾だ。掌に残る冷え。詠唱は短く、息は吐き切るように。
刃が来る。盾で受け止める。痛みは来ない。だが受け流すと同時、相手の脚関節が僅かに露出した。わずかな隙だ。
「今だ!」
心の中で叫ぶ。詠唱を解き、体重を前に移す。剣が軋み、剣先が関節を捉えた。金属の音――短い。ゴーレムが後方に崩れる。
会場からどよめきと拍手。
俺は息を整え、肩を震わせながら立っている。勝った。だが胸はまだ張れない。次が来る。
一体目と二体目の間に十分ほどの休憩があり、俺は三年や二年の戦いを思い出し、対策を練った。二体目は射程が長い代わりに懐に入られると弱い。その「懐」を取るための方法を反芻する。
休憩が終わり、二体目が姿を現した。長い手足を持つ、歩くたびに地が震む巨躯だ。
「ゴーレムは遅い。射程を正確に読めば勝てるはずだ」
俺はまず後方に飛び退き、距離を取りながら防御陣を張ろうとした。
――だが、その射程は想定外に長く、ゴーレムの振り回した腕の攻撃が魔術を展開する前に当たってしまう。その結果、後方へ弾かれ、会場の壁に叩きつけられた。
かろうじて衝突までに剣を差し込み、攻撃を軽減したが、肩に痛みが走る。
(射程を見誤った。甘かった)
なんとか持ち直し、正確に射程を読み取った。
立て直した俺は、魔術を組み合わせる作戦に切り替えた。まずは視界を切るための魔術だ。
「火よ、燃え盛れ――水よ、溢れよ」
短く二つの詠唱を放つ。火と水を同時に発動させ、瞬間的に水蒸気を立ち上らせた。蒸気が視界を曇らせるうちに、俺は横を抜けてゴーレムの背後へ回り込むつもりだった。
しかし相手は単純ではなかった。
全方向に腕を振り回し、背後に回れないように範囲攻撃で牽制してくる。しかも腕の揺れは不規則で、隙を作らせない。
「今だ――」
攻撃が収まった一瞬、俺は剣を握り締め、全身の力を一点に込めて踏み込み、間合いに飛び込んだ。
――剣を力強く振り、ゴーレムを一刀両断することに成功する。会場は拍手に溢れ、戦いを終えた。
心は一旦の安静を取り戻し、会場を後にして座席に戻る。次はリアナの戦いだ。




