第一章9 試験編『第一回実技試験』
試験会場は学院の上一帯とは別の区画に設けられていた。訓練場とは空気が違う――土の匂いではなく、古い魔力と金属の匂いが混じる。
リーガは訓練中に顔色を取り戻しており、リアナと三人で日没前の広場へと向かった。
「リーガ、大丈夫なのか?」
「うん。元気いっぱいだよ。ありがとう」
そう話し、リーガ、俺、リアナは試験会場へと向かう。歩幅を合わせながら、俺は胸の奥で小さく安堵した。
だが、遠くに見えるドームの外縁が近づくにつれて、胸の奥の緊張は消えなかった。
今日は試験だ。ルールが勝敗を決める。
*
会場は半透明の巨大ドーム状。床は壊れないよう魔術で鋼のように硬化され、踏むたびに低い振動が足裏に伝わる。
観客席からはひそやかなざわめきと緊張した息遣いが届いた。
校長が現れ、低い声でルール説明を始める。
「これから三体のゴーレムと対峙してもらう。機動重視、火力重視、魔術重視――それぞれ性能が異なる」
「二体を倒した者たちはペアを組み、最後の一体と戦ってもらう。評価点は『技術』ではない。『判断』だ。派手さより連携を重視する」
「三体のゴーレム、まず一つ目はこれだ」
校長の手の合図で、魔術が立ち上る。無詠唱。空間がねじれ、光の粒が集まって一体目が形を成す。
大人の腰ほどの高さしかない、半人型の小さなゴーレムだ。
会場から軽い笑いが漏れる。校長はにやりと笑う。
「小さいだろう。だが、それには理由がある」
その速さは猫のような俊敏さで、音もなく間合いを詰める。
「見かけによらず速い。小ささを侮るな」
「次に二体目だ」
二体目は、空気を引き裂くような重さを伴って出現した。身長は三メートルを越え、長く伸びた手足は鉄骨のように硬い。
歩くたびに床が僅かにへこみ、ゴーレムは一撃で地面に深い溝を刻む。だがその動きは鈍重で、射程と打撃力に特化している。
「これはほとんど動けないが、代わりに射程を伸ばしている。その分、力はとても強い」
そう言い、校長はゴーレムを動かす。硬いはずの床に悠々と大きな穴を開けた。その瞬間床はみるみると再生し、穴が塞がった。
「次が最後だよ」
三体目は黒い外衣をまとった人型で、掌に紫の刻紋が浮くや否や一瞬の爆発が起き、煙が会場を満たす。
煙が晴れると、腕には複雑な魔術刻印が走っていた。校長は肩をすくめて言った。
「すまない。少し張り切り過ぎてしまったよ。簡単に説明すると上級魔術師を元に作っているんだ。実力も劣っていない」
「だが、弱点を一つ挙げるなら使える魔術が火系統しかないということかな」
一見配慮があるように聞こえるが、実際はかなり厳しい試験だ。
観客席からはどよめきが起こる。俺は手のひらに汗を感じ、遠くで他の人が低く呻くのを聞いた。
試験の鐘が一つ、鋭く鳴る。時間だ。
「では諸君。三年、二年、一年の順に戦ってもらおう。これより、第一回実技試験を開始する!」
実技試験が開催され、一年生では、その内容に不安を覚える者もいる中、三年が戦う姿を見て分析する者もいた。
「リアナ、リーガあれどう思う」
「一体目、二体目はともかく三体目は少し突破するのが難しく感じます。詠唱がなく、魔術の発動速度が速い。困難を極めるでしょう」
そう話している内に会場が大きな声援に包まれる。
「なんだ?」
「凄い……見てよ! 見てよ!」
リーガが珍しく興奮した様子を見せていた。
黒髪の大柄な男が飛び出し、魔術を自身の肉体に纏わせて大剣を振り翳した。相手の術式を大剣で跳ね返すと、一閃でゴーレムの胴体を真っ二つに断った。会場からは驚嘆の声が上がる。
「すごいな……一体あれは誰だ?」
俺は驚きを隠せなかった。
「いえ……わかりませんね。あの大剣は魔鉱石製でしょう。魔鉱石は魔術に干渉できると聞きます。」
盛り上がりの中、ついに一年生の番がやってきた。




