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UFO館にて

 苦し紛れに出したアイディアが採用され、なにか変な気持ちではあるが悪くはない心境。苦味の強いペットボトルのクラフトコーヒーで一服していると空に鱗雲。「なんでなんだろう」みたいな、久しぶりにもの思う日。髪型を変えようと、雑誌を眺めていて目に留まった男性に高校時代の同級生の面影があった。


<彼は今何をしているのだろう>


 なんて思うのは大分時が過ぎたからなのかもなと思う。物理の授業中に親しげに解法を教えてくれた彼はマイペースを貫いていた自分を気に入ってくれたのか、やたら笑顔だったのが印象に残っている。日々、躓きもあるにせよ、喜びもあるということを象徴しているのかも知れない。



 そんなこんなでやってきた連休。さっそく行きつけの理容院に出かけて思い切って短めをお願いした。



「連休中はどこかお出掛けの予定あるんですか?」



 どこか上機嫌に思えるトーンで幾らか年上の店主が話しかけてくれて、「うーん、迷ってるところなんですよ」と素直に答えた。『何か思い出を残そう』と考えた末に、結局近場で済ましてしまおうかという発想になりかけている。ここで意外にも店主が、



「UFO館なんてどうですか?この間行ってみたんですけど、結構すごかったですよ」



と謎の提案をしてくれた。近年のUFOもとい「UPA」ブームの折、県内に存在するUFOスポットが世間を賑わせていると聴く。理系なので正直そういうものには眉唾ではあるが、多様な『地域おこし』の一つとしてはビジネスマン的には好意的に受け取れる。この間テレビで特集された際、在住する町民達も半分くらい本気にしているのかも知れないという微笑ましい「危うさ」を感じたが、それはそれとして朝のゴミ出しの際に未確認飛行物体を目撃したという素朴なエピソードには堪えきれなくなって吹いた。



「UFO見たことあるんですか?」



流れで店主に質問してみたら、



「UFOかどうかは分かりませんが、夜空で動いている光を見たことはあります」



と返ってきた。その場でそういう話をされると何となくあるのかなという不思議な感覚にはなる。



<だからといって態々出向くのか?>



と何度も自問しているうちに散髪が無事完了した。想像していたよりもずっと短くはなったが、『これはこれでいい』という心境に。


 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 すっきりした毛量も盆にはすっかり元通り。日々の何事かに対する迷いがそうさせたのか、その一ヶ月ほど前に普段は視聴しないようなテレビの特番で某県のUFOの目撃談を取り上げた部分を何となく見てしまう。番組では、複数存在する目撃者が自らの精神を疑われないように、目撃した事実について長らく公表せずにいたという説明があった。



その時には『まあその気持ちも分かるな』とは思ったのだが、以来、頭の片隅に…具体的には猛暑で熱が籠る後頭部あたりにモヤモヤしたものが残り、それをすっきりさせたい一心で盆休みの初日に車を走らせて綺麗な三角形の形をした山を目指していた。店主の話していた『UFO館』はその山の上部に存在するのだ。曇りがちな天気であったからかも知れないが県内在住でもなかなか通らない道は山に近づいてゆくにつれ、だんだんと静かではあるが独特の雰囲気を漂わせる。



 道中の案内を頼りに駐車場にたどり着いた際、県外ナンバーの先客がゾロゾロといたことに幾らか驚愕していた。先に本館ではなく物産館の様子をちらっと覗いたが、ラーメンが食べられるとか、普通の食堂のようでありながら『グッズ』が特殊すぎた。



<お子さんを連れてきていらっしゃる!?>



小学生くらいの家族連れの客が一見すると何でもない二階建ての建物の前で入れ違いになった。表情から察するにだいぶ満足して館内から出てきた様子。自分でも説明できない期待感のままに入り口で入館料を支払った職員の女性は、いたって『普通』だった。超常現象を狂信するような人ばかりが運営している施設だったら逃げていたかも知れない。いや、『見た目』に変わったところはなかったという意味だから、本当はどうか分からない。



 入り口付近に並んでいる有名人のサインとか、多分図書館などでは絶対にお目にかかれない蔵書…昭和のある時代の雰囲気を漂わせたUFO関連の本。そのタイトルを眺めているだけで頭がクラクラしてくるのだが、怯まず施設内を突き進む事にする。




…語りはするが、展示物はご自分の目で確かめられた方が良いと思う。正常な現実感が揺らぐような宇宙人の像とか、入念に解説されたUFOの目撃写真の数々、そして完全に『昭和』時代のメカニカルな模型。薄暗い空間では不気味さを増し、子供の頃に感じていたこの世界に対する漠然とした不安が思い起こされる。



「何だこれは…」


思わず呟いてしまった自分に職員が「5分後に『上映会』ですがどうしますか?」と呼び掛けた。時代的に少し前に作られたと思われる、当地が「UFOスポット」である理由を考察した動画だった。やや人工的に見えてしまう三角形の形をした山の周辺ではUFOの目撃談が多く存在するらしい。確かに写真があったように記憶している。



しきりに登場する『ジバ』…『磁場』という語句によって、その山がUFOを呼び寄せる理由が説明される。




こういったものは一歩間違うと『狂気』と見られかねないが、最近のアメリカなどの発表を聞くと一概にそうとも言ってられないという感覚になってくる。そう『感覚』である。




磁場によってなのか、それとも展示物によってなのか、不思議な方向に感覚がシフトしてゆくのを感じた。それらは一時的なものではあったが、「インピーダンスっていうのは」と物理の公式を当てはめてスラスラと問題を解いていた同級生だったら、どういう見解を示すものか訊ねてみたくなってくる。施設の二階に銭湯が存在するというギャップにも驚かされた。




建物を出て、あのモヤモヤしていた感覚は今新たなものに変貌しつつある。



「興味深い」



それはまるで某ドラマの主人公のようなセリフだったと思う。決して不快なものではない。停滞していた思考は猛烈に回転し始める。一言で言えばそれは『ロマン』なのかも知れない。雲間から光が差し込む光景がどこか神々しくて、振り向きざまに観た建物の外観はやっぱり素朴だった。




『猛暑を凌ぐため、今一度理容院に向かわねばならぬ』




 そんな言葉が浮かんだ。盆明けには店主に報告も兼ねて。

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― 新着の感想 ―
きっかけはほんの些細なことから。 なんてことのない日常から、なにかの発端があって。 UFO館での心の変わり方がとてもいい感じでなんかにんまりもしちゃいますね。 常識的な気持ちでいようと思いつつも、なん…
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