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2.緊急事態

 機内の部屋は全部で三つ、楕円体の機体を丁度三等分する形で存在する。

 まず一つが機体の先頭部にある制御室だ。扉から入った正面奥にでかいモニターがあって、そのすぐ下にミニモニターと制御パネルが並んでいる。椅子は三つあって、最大三人まで同時にパネルを操作できる。

 しかしながら、今回の任務中に遠夜達がこの制御盤を操作することはない。艦の操作は全てこの機体に搭載されたAIが行ってくれる。一応先程の手動制御マニュアルでざっくりと説明は受けているが、遠夜達素人がいじるより機械に任せた方が遥かに正確かつ安全に動作するだろう。

 二つ目の部屋は機体の一番後方、物資保管庫だ。武器や弾薬、あとは水と食料に応急キット、サバイバルに必要な道具が一通り揃っている。水と食料は五人で五日分、任務期間の倍近くあるし、食料に困ることは無さそうだ。

 そして三つ目は機体の中心部の部屋、今遠夜たちがいる部屋だ。三部屋の中で一番広い造りで、真中のテーブルを囲うようにソファーが設置されている。部屋のサイドにはシャワーにトイレ、反対側には小さな流し台がある。


「だぁ〜しっかしこの中は何でこんなに暑いんだ」


 黒人のアメリカ兵、ダスが額の汗を拭って背中から倒れ込むようにソファーにバフンと座った。


「しょうがないでしょ、転移中は機内温度が上昇するって言ってたじゃない」


 サーファがシャツを第二ボタンまで開けて、胸元をヒラヒラさせている。

 恐らく室内温度は三十度を超えているだろう。

 転移中は膨大なエネルギーを動かす影響で機内の温度が上昇する。

 次元転移に要する時間は約三十二分。この間、機体エネルギーの殆どを次元転移に割いているためエアコンは使えないのだ。


「リーダー、あとどれ位で目標地点に到達するんだ?」

「そうだな、あと二十四分てとこだ、すぐに着く。サウナだと思って耐えるんだな。一応武器はすぐ構えられるようにしておけよ。到着後すぐにエイリアンに襲われる可能性だってあるんだ」


 ダスの問に本作戦部隊のリーダー、ケイネスが答えた。


「まだ時間もあるみたいだし、彼の為にもう一度自己紹介でもしましょう」


 サーファがこちらを一瞥して提案した。


「それもそうだな。俺はケイネス、ご存知この班のリーダーだ。分からないことは何でも聞いてくれ」


 ケイネスはさっぱりした笑顔で握手をくれた。


「ああ、よろしく。日本軍アルターフォースの明橋遠夜だ」

「トーヤか、いい名前だ」

「次は私、サーファ・グラナーよ。横にいるダスとは違って心の広い人間だから、気さくに話しかけてちょうだい」

「ついでにケツもデカい」


 横から一言付け足したダスの腹をサーファがシバいた。


「次はあんたよ」

「はっ、心の狭い男ダスネス・ウィルソンだ。怪物と三日も寝泊まり出来るとは光栄だね」

「よ、よろしく……」


 ダスが逐一突っかかってくるのには何か理由があるのだろうかと思う。いずれにせよ信用はされていないみたいだ。


「最後、おいハンデリー」


 ケイネスが呼ぶと少し離れたところで壁に取り付いたパネルを操作していた男がこちらを向いた。


「ああ、ごめんごめん。僕はハンデリー・コールマン。機械系は任せて」

「彼器用なの。機械の操作が苦手なら彼に頼ればいいわ」

「モニターが恋人の変態だろ」


 ダスが憎まれ口を叩くが、ハンデリーは気にせず笑っている。彼も良い奴そうだ。


「それよりみんな資料は見たか?あっちの世界では恐竜が出るらしいぞ?」

「ほんとかよケイネス? ついに俺達兵士やめてモンスターハンターになるのか?」

「原生生物との接触はなるべく避ける決まりでしょ」

「向こうから襲ってくるんじゃ仕方ねえ」

「でも僕らの銃が効果あるのか試してみたい気持ちはあるね」

「あとはそいつの肉を食う。もも肉をこう〜丸焼きにして」

「支給された食糧以外の摂取も原則禁止でしょ。て言うか、未知の生物でバーベキューなんてゴメンだわ」


 会話が進むにつれ、皆の表情が解れてきた。どうやら先程の緊張感は無くなってきたらしい。

 話を続けてている内に、遠夜も何とか彼らと上手くやれそうな気がしてきた。


「馬鹿言え、火の起こし方なんて訓練兵の時に嫌ってほどやったぜ」

「ふふっ、ねえトーヤ、あなたまだ若いけどサバイバル訓練はちゃんと受けてるの?」

「ああ、子供の頃に」

「そもそも一体いつから軍人になったんだ?」

「訓練を受け始めたのは六歳の頃、正式に入隊したのは十二歳だ」

「へえ……そりゃまた、最高にクソな幼少期だな」

「ワケありで入隊する奴はゴロゴロいるが、そんな歳から拳銃握りたがる物好きはあんまり聞かないな」

「まあ、色々あってね。心配しなくても火の起こし方はわかる」

「はーもうその話はいいぜ、ただでさえ暑いのによー、火の話なんて」


 汗だくのダスがうんざりした顔で言った。確かにこの熱気の中でする話じゃなかった。

 しかし、何だろうか。

 顎先から汗が垂れ落ちた。

 何だか。


「なあ、気のせいかな……暑くないか?」


 ケイネスが言った。


「だから、さっきからそう言ってんだろ」

「いや、わかってる。けどさ、少し暑すぎやしないか?」

「確かに……さっきから異様に暑いわね……この部屋いま一体何度なの?」

「待って、調べてみるよ」


 ハンデリーが壁に付いたパネルを操作して、


「あれ、でもそんな……ろ、六十二度……?」

「はあ!?」

「六十二度……それホントなの?」

「ああ間違いない」

「マジのサウナじゃねえかよ! 何でそんなことに……てか何で誰も気が付かなかったんだよ!」

「とにかく室内温度を下げなきゃ」

「ハンデリー、何とか出来るか?」

「もうやってる」


 突如舞い込んだ問題にその場の空気が一変する。


「ダメだ、やっぱり今は機体のエネルギーをメイン以外に動かせない」

「クソ!どうすれば」


 次元転移には凄まじいエネルギーを要する。その際に発生する熱は冷却装置によって抑えられるはずなのだが、何らかの原因で冷却装置が上手く作動していない可能性があった。どうやら室内温度の調整に回せるだけのエネルギーは機体に残っていないようだし、転移中機内は密閉されているため室内温度は上昇し続ける。

 何か対策をうたねばまずい状況だった。


「通風口を開けろ! 換気すりゃマシになるだろ!」

「ダメよ! 転移中は通風口を開けるのもダメって言われたでしょ!」

「じゃあどーすんだよ! このまま温度が上がり続けたら全員蒸し焼きだぞ!」


 全員冷静さを欠いている。

 このままではダメだとそう思い、


「制御室だ!」


 遠夜が大声を上げると空気が一瞬固まったあと、全員がこちらへ視線を向けた。


「一度制御室に向かおう。こんな状況なのにAIが何の対策も講じないってことは、システム自体がダメージを受けてる可能性がある。もしそうならメインの制御盤から手動操作でどうにかするしかない。正直機械は苦手だし、ハンデリーに頼むことになるけど」

「あ、ああ……そうだね。やってみるよ」

「よし急ごう」


 そうして遠夜達がすぐさま制御室へ向かおうとした、そのときだ。突如どこからから爆発音が響き、機体が大きく揺れ、同時に警報ブザーが機内全体に鳴り響いた。

 全員が悲鳴を上げ、近くの物にしがみつく。しかし機体の揺れが止むことはなく、立つことすら難しい程の激しい揺れが全員を襲い続けた。


「きゃぁああっ」

「どうなってるんだ!?」

「ハンデリー何とかしろッ!!」

「うわぁあっ、無茶言わないでくれっ!」

「くそっ、」


 警報音は鳴り続け、機体の揺れは高まり続ける。

 そして機内の悲鳴が最高潮に達し、ついに遠夜達はとてつもない衝撃と暗闇に呑み込まれた。





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