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第4話 家の主の無念

アイリスが家の中で休息を取っていると、ルーカスが静かに家の扉を開け、部屋に入ってきた。彼の表情は冷静で、何かをしっかりと確認してきた様子が伺える。


「アイリス、準備が整った。盗賊たちは小規模な集団だが、村を襲うつもりらしい。数時間後にはここに到着するだろう」


アイリスはベッドに腰掛けたまま顔を上げた。


「……そう、そんなに早いのね」


「そうだ。おまけに、今回は少し手を貸してくれる者もいる」


「手を貸してくれる者?」


アイリスが首をかしげると、ルーカスは少し悪戯っぽい微笑みを浮かべた。


「この家の元の住人だよ。実はここ、空き家になった理由は、盗賊に襲われて住人が殺されたからだ。その無念が魂となって、この家にまだ残っていた」


「……何ですって?」


アイリスは思わず立ち上がった。空気が一気に冷たく感じる。しかし、ルーカスはあくまで淡々としている。


「俺がその魂を探りに使ったんだ。彼の魂は盗賊たちに強い執着を持っていて、連中の動きを探るのに協力してくれたよ。今や、彼も俺たちの仲間だ」


「……あなた、本当にそんなことを……」


アイリスはルーカスの冷酷さに驚きつつも、同時に彼の策士ぶりに感心せずにはいられなかった。死者を利用して情報を集めるなど、常人には到底思いつかない手段だ。


「盗賊たちを始末するのは容易だが、ただ倒すだけでは意味がない。お前の『聖女』としての立場を強固にするためにも、もっと劇的な演出が必要だろう」


「演出ね……」


アイリスは考え込んだ。確かに、単純に盗賊を撃退するだけでは、村人たちに強い印象を残せない。もっと象徴的な何かが必要だ。


「せっかくだから、この家の元の持ち主にも手伝ってもらったらどうかしら?」


「ほう……それはいい考えだ」


ルーカスはにやりと笑い、手を顎に当てて少し考え込んだ。


「彼の無念を晴らす場を演出し、盗賊たちを倒した後に彼の魂を成仏させる。それを村人たちの前で行えば、間違いなくお前は『聖女』として崇められるだろう」


「そうね……どうやって彼を利用するの?」


アイリスの質問に、ルーカスは指を軽く弾いた。すると、家の片隅にひんやりとした気配が漂い、ぼんやりとした人影が現れた。家の元の住人――盗賊に殺された男の霊だ。


「彼を守護霊として、村を守らせる。そして、その霊を『聖女』であるお前が鎮める。そうすれば、村人たちはお前を神聖な存在として信じるだろう」


「……守護霊、か」


アイリスは慎重にその言葉を反芻した。死者を味方につけ、盗賊を撃退する――確かに、それは強力な「演出」になる。さらに、村人たちに対してのインパクトは計り知れない。


「そして、盗賊たちを撃退した後に、彼の魂を天に送る儀式を見せる。まるでお前が彼を解放し、昇天させたかのように」


ルーカスは無感情に話しているが、その計画は周到で完璧だった。アイリスは少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。


「わかったわ……やってみる。彼の無念を晴らし、盗賊たちを討つ。そして彼を成仏させる演技をする」


「それでいい。村人たちは感動の涙を流すだろうさ」


ルーカスはまた一つ微笑んだ。彼の目は、全てが計算通りに進んでいるかのようだった。


――――――――――


夜が更け、村は静けさに包まれていた。盗賊たちが村に迫っていることなど、まだ誰も知らない。しかし、アイリスとルーカスは、その到来を待ち構えていた。


「盗賊たちが来たら、彼の霊を村の入口に立たせ、守護者として見せる。俺のスケルトンも少し加えてやるといい。アンデッドの軍勢が村を守っていると思わせるんだ」


「アンデッドの軍勢を守護霊に……村人たちが驚くわね」


「それが狙いだ。村人たちは恐れ、同時にお前に感謝する。全てはお前の奇跡だと信じるだろう」


アイリスは内心、少し緊張していた。だが、それ以上に、この計画が成功するかもしれないという高揚感があった。


「準備はできている。あとはお前が決めることだ」


ルーカスは静かに彼女に問いかける。


「……やるわ」


アイリスはきっぱりと答えた。


こうして、聖女とネクロマンサーによる次の計画が動き出した。家の元の持ち主の霊は、彼らの計画の中でどう役割を果たすのか――それは、次の盗賊襲撃で明らかになるだろう。

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