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第3話 聖女と付き人

村人たちが歓喜に包まれている中、スケルトンを消し去ったアイリスは、ようやく自分の役割を終えたと感じ、深く息をついた。目の前に広がるのは、ただただ彼女を見上げ、感謝を口にする村人たちの顔。少し前まで無職の追放者だった彼女には、この状況が信じられない。


「村を救ってくださった聖女様……どうかお名前を教えてください!」


一人の村人が勇気を出して声を上げると、周囲の人々も次々に声を合わせて感謝と称賛を送る。


アイリスは戸惑いながらも、その場にいる自分が「聖女」であることを意識し、凛とした表情で村人たちを見渡した。


「私は……ただの旅人です。名前など覚える必要はありません」


そう言って控えめに微笑むアイリス。だが、そこでまたもや声が聞こえてきた。


「聖女様、無事ですか?」


ゆっくりと人混みをかき分けながら現れたのは、ルーカスだった。彼は村人たちの前で、あえて憔悴したような表情を浮かべ、アイリスに歩み寄る。


「いきなりスケルトンの群れに飛び出されるなんて……心配しましたよ。聖女様」


「……!」


アイリスは心の中で驚いた。何の打ち合わせもなかったはずなのに、ルーカスはすでに「付き人」として完璧に振る舞っていた。彼の陰気な雰囲気は今では弱々しくも献身的な従者として見事に演出されている。


「……ああ、ありがとう。あなたのサポートがなければ、私はきっと……」


言葉を続けながらも、アイリスは彼の演技力に驚きを隠せなかった。あの冷酷で策略家なネクロマンサーが、こんなにも自然に「頼りなさそうな付き人」を演じるとは――。


「聖女様、どうかお休みになられてください。詳しい事情は後ほど村の皆さんにお伝えいたします。それまでは、どうか休息を……」


ルーカスは村人たちに向けて、弱々しい笑みを浮かべながら、深々と頭を下げた。まるで、彼がいなければアイリスが命を落としていたかのような演出だった。


「聖女様のことは私が守ります。どうか休む場所を……」


村人たちはその言葉に感動し、互いに顔を見合わせると、一人が声を上げた。


「もちろん、もちろんです! 聖女様、どうかお許しをいただけるなら、村の空き家をお使いください! 盗賊が出没する危険な場所ではありますが……」


「盗賊……」


アイリスは瞬時に反応した。盗賊の脅威があるという話は、ルーカスの計画の一部ではなかった。しかし、それが今、目の前に新たな障害として立ちはだかろうとしているのだ。


村人たちは怯えた様子で、盗賊のことを話題に出している。だが、ここでアイリスが聖女としてどう振る舞うかが試される瞬間だった。


「私がここにいるのは、皆さんをお守りするためです。か弱い人々が脅威にさらされている以上、私はここを去るわけにはいきません」


アイリスは、心の中で自分が何を言っているのかと少し驚いたが、ルーカスの演技に引っ張られて自然と口から言葉が出ていた。


「盗賊が現れるのであれば、その脅威に立ち向かいましょう。私は決して、皆さんを危険に晒しません」


その言葉を聞いた村人たちは一瞬驚いたが、すぐに感動の涙を流し始めた。


「聖女様……ありがとうございます! どうか、この村をお救いください!」


次々に村人たちが頭を下げ、感謝の言葉を口にする。アイリスは戸惑いつつも、彼らの信頼を得たことに、心のどこかで達成感を感じていた。


「ありがとうございます、聖女様。こちらにある空き家をお使いください」


村人たちは一軒の空き家を彼女たちに提供してくれた。アイリスとルーカスは、その家に案内され、中に入ると、アイリスは小さく息をついた。


「……うまくいったわね」


「お前の演技も悪くなかったぞ」


ルーカスは口元に微笑を浮かべながら、少し冗談めかして言った。


「……あなたの方こそ。まさかあそこまでうまく付き人を演じるとは思わなかったわ」


アイリスが正直な感想を口にすると、ルーカスは肩をすくめた。


「当然だ。俺も本気でやっているからな。お前が『聖女』として成功するために、全力でサポートするつもりだ」


その言葉に、アイリスは改めて気合を入れ直した。ルーカスは本気なのだ。この計画を成功させるために、彼はあらゆる手段を惜しまず使うつもりなのだ。


「……さて、問題は盗賊だな」


ルーカスがそう言うと、アイリスは頷いた。


「ええ。次はどうするつもり?」


「そうだな……まずは奴らの動きを把握する必要がある。夜のうちに少し探ってみるか」


「探る?」


ルーカスは意味ありげに微笑む。


「そうだ。俺の力を使ってな……盗賊たちが何をしているか、どこに潜んでいるかを調べるのは、俺にとっては朝飯前だ」


アイリスはまたもや驚きつつも、彼の計画に期待を寄せた。


「じゃあ、お願いするわ。私も準備をしておく」


「任せておけ。だが、お前も休んでおけよ。次に出番が来るのはすぐかもしれない」


ルーカスはそう言い残し、家を出ていった。彼がどのように盗賊を探るのか、アイリスには見当もつかなかったが、彼の実力を信じるしかないだろう。


彼女はしばらくの間、静かに椅子に腰掛け、次にやってくる試練に備えながら、心を落ち着けるのだった。


こうして、聖女とその付き人は、村に安息をもたらしたものの、次の脅威に立ち向かう準備を整えつつあった。次は盗賊との戦い――アイリスの新たな試練が待ち構えている。

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