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第2話 聖女の初仕事

「すぐに行動するぞ、アイリス。準備はできている」


ルーカスが淡々と告げると、アイリスは驚きに眉をひそめた。


「いきなりすぎない? まだ『聖女』としての準備なんて……」


彼女は自分の薄汚れた服に視線を落とす。まさか、この状態で聖女のフリをしろと言うのか? だが、ルーカスは気にも留めず、まるで予定通りとでも言いたげな表情を浮かべている。


「むしろ、そのままでいい。辺境の村を救う『聖女』は完璧に着飾る必要はない。泥にまみれた姿こそが、民衆には現実感を与えるんだ」


「……そんなもん?」


アイリスは半信半疑だったが、ルーカスは構わず先を続ける。


「俺が目をつけていた村がある。そこは盗賊に脅かされている。あまり大きな村ではないが、小規模な盗賊団でも彼らにとっては脅威だ。さらに、俺が仕掛けるスケルトンを見れば、村は間違いなくパニックになる。そこで、お前が『聖女』として登場するんだ」


「スケルトン……ね」


ルーカスのやり方は冷酷だが、確かに効果的だ。アイリスは内心の動揺を隠しながらも、話に耳を傾け続けた。


「お前ならすぐにでも聖女として振舞えるはずだ。魔法の力で『奇跡』を見せつけ、スケルトンを倒せば、村はお前を聖女と崇めるだろう。俺がうまくタイミングを合わせてスケルトンを消すから、そこは安心しろ」


「そう簡単に言わないでよ……」


アイリスはため息をつきながらも、内心に決意が生まれていくのを感じた。確かに、これは一世一代のチャンスだ。聖女としての初めての舞台。それを成功させれば、民衆の信頼を得る第一歩となるかもしれない。


「……やるわ」


「いい返事だ。行動は早いほうがいい」


ルーカスは口元に微笑を浮かべ、すぐに準備を整えた。彼の指が不気味に動き、暗い魔力が周囲の空気を震わせる。彼が操る死者――スケルトンたちは、すでに目標の村へ向かって動き出していた。


――――――――――


その頃、辺境の小さな村「グレイヒル」では、不安な空気が漂っていた。近くを拠点とする盗賊団が、再び村に向かってくるという噂が広まっていたからだ。村人たちは日々の生活に疲れ果て、力なき者ばかりが集まるこの村では、抵抗する術も限られていた。


「どうするんだ、今度こそ村は……」


「助けを求めるにしても、王都は遠すぎる……」


そんな中、突然、村の外れから悲鳴が上がった。


「アンデッドだ! スケルトンが来たぞ!」


村人たちは慌てふためき、家の中に逃げ込む者、子供を連れて走り出す者――村全体が恐怖に包まれた。誰もが、ただ絶望的にその場に立ち尽くすばかりだった。


すると、その時、村の入口に一人の女性が現れた。


薄汚れた服に身を包んだ女性――アイリスだ。彼女は冷静な表情を保ちながら、ゆっくりとスケルトンたちに向かって歩を進めた。


「誰だ……? あれは……」


「旅の者か?」


村人たちがざわめく中、アイリスはスケルトンたちの前で立ち止まり、深く息を吸い込んだ。彼女の心臓が激しく高鳴る――この瞬間、彼女は今までの自分を捨て、「聖女」として新たな人生を始めなければならない。


「これが……私の第一歩よ」


アイリスは静かに呟き、目を閉じて魔力を解放した。彼女が選んだのは派手な攻撃魔法ではなく、優しい光が空中を舞う癒しの魔法だった。


「光よ、全ての命に安息を――」


光の粒がスケルトンたちの周囲に漂い、まるで天使の羽が降り注ぐかのような幻想的な光景を作り出す。それは戦うための魔法ではないが、スケルトンたちは動きを止めた。


「なんだ……?」


村人たちも、その神聖な光に驚きを隠せず、目を見張った。


次の瞬間――ルーカスが待っていたかのように、スケルトンたちは消え去った。まるで光に浄化されたかのように、一瞬でその姿を消す。村に残ったのは、ただ柔らかな光と、聖女の姿だけだった。


「聖女様だ……! あの女性が村を救ってくれた!」


「聖女が降臨したんだ!」


村人たちは一斉に歓喜の声を上げ、アイリスに向かって感謝の祈りを捧げ始めた。


アイリスは静かに村人たちを見つめながら、自分が演じる「聖女」という役割に思いを馳せていた。そして、今はそれでいいと決意を新たにする。


「これが……私の始まりか」


遠くから彼女を見守っていたルーカスは、満足げにうなずいた。


「いいぞ、アイリス。お前は今日から本物の『聖女』だ」


こうして、無職の魔女は聖女としての第一歩を踏み出した。だが、これはまだ始まりにすぎない。彼女の復讐の舞台は、今まさに幕を開けたのだ。

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