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腹八分目な、変わらない毎日

リアルの幼なじみって多分ここまでベタベタしてないと思うんですよ


「遅い」


「そんなん俺が知るか」


 残業を終えてスーパーで米と惣菜を買って帰ると、玄関前にイツキがいた。


「お腹すいたんですけどぉ〜。暑かったんですけどぉ〜」


「痛っ!叩くな!」


 バシバシと背中を平手打ちしてくるイツキの頭を鷲掴みにしてやる。


「んにゃぁー!放せぇー!」


「かわい子ぶってんじゃねぇこの酒カスが!」


「童貞ヤローに言われたくありませぇーん!」


「んだとこの行き遅れ処女が!」


「しょ、処女ちゃうわぁ!」


「いいからいい加減家に入らせろ!」


 ギャーギャー喚き合うこと約十分。お隣のイケダさんからお叱りを受けてしまった。


 ぜぇぜぇ息を切らせながら俺は諦めてイツキを家に上げた。


「相変わらず紙ごみ溜めてるねぇ」


「重いから捨てるのめんどいんだよ」


「私には関係ない話だね!」


「実家暮らしだから親御さんがやってくれてるだけだろ」


「アンタだって実家暮らしみたいなもんでしょ」


「その実家に飯をタカりにくるヤツが何言ってやがる」


 狭い洗面所で手を洗いながら雑談を交わす。


 最近、イツキが頻繁に訪れるようになってからは俺が作った飯を一緒に食うことが当たり前のようになってきている。


 …なんで俺がコイツに飯を提供せにゃならんのだ。


「今日の晩飯なぁに〜」


 ぼすり、と音を立ててクッションに飛び込み、ゲーム機の電源を入れるイツキ。


「飯食いたいなら手伝いぐらいしろ」


「カバンの中に酒入ってるから〜」


 …それが飯代ということか?


「ねー、追加キャラ買おうよ」


「自分のゲーム機を買え」


 カチカチとコントローラーを操作して、イツキは大乱闘なパーティゲームを開く。


「実質コレが共用ゲーム機じゃん」


「勝手にお前が使ってるだけだろ」


「いーじゃん。アカウントだって作らせてくれたんだし」


「…今度の休日辺りまで我慢しろ」


「わーい」


 そんなやりとりを繰り返しながら、俺は適当にレンジをいじる。今日は作り置きのでいいや。


「あっ!ねぇねぇアキラ見て!見て!ハメ技キマってる!ほら!ほら!」


「うるさい!またイケダさんに怒られるぞ!」


「あ、ごめん…ってあぁぁ!すっぽ抜けたぁぁ!!」


「うるさいっての!」


 チーン、と聞き慣れた音が部屋に響く。

 

「おい、できたぞ」


「ん、はーい」


 コントローラーを置いて、イツキが待ってましたとばかりに椅子に座る。


「今日は肉じゃがかー」


「作り置きのな」


「…マヨネーズ頂戴」


「まずは普通に食え」


 イツキのカバンから適当に二本の酒を取り出す。


「どっちがいい?」


「もちろんストロングなゼロで…」


「はい、アサヒね」


「ちょい?!」


 ストロングなのは冷蔵庫に放り込んで、俺もアサヒのスーパーでドライなのを取り出す。


「おら、食うぞ」


「ちぇー…んじゃ、」


「「いただきます」」


 俺は箸、イツキは缶を手に取る。


「〜っかぁ〜!染みるぅ〜!」


「うっわ、お前もう一缶飲んだのかよ。急性アルコール中毒とか気をつけろよ?」


「ん〜。最近そこらへんも怖くなって来たから、そろそろ気を付けないとねぇ〜」


 相変わらず酒呑みがすぎるヤツだ。


「うんうん、やっぱアキラのご飯は美味いなぁ」


「おい人参も食え。βカロテン摂取しろ」


「口うるさいなぁ」


「おかわりは人参取らなくてもいいから」


「マジで?!芋にマヨかけていい!?」


「うるさい。落ち着いて食えんのか」


「…なんか不機嫌?」


「別に」


「…やっぱり私、迷惑かな?」


「だったらとっくに追い出してるよ」


「…ふふ。やっぱアキラって私のこと結構好きだよね」


「なんだよそれ。ってか迷惑かもって思うんなら少しぐらい材料持ってこいよ」


「たまに焼肉奢ってるからいいじゃ〜ん」


「もう最近はそういう脂っこいのはキツくなって来ててだな…」


「まだ私たち26歳だよ…?」


 最近はもう揚げ物を腹一杯とか考えられないぐらい辛くなってきてるんだよな…。


 それより和食とかの方が食いたくなっている。やっぱ歳には勝てねぇ…。


「お前も、いつか旦那ができた時とかのために家事ぐらいできるようになっとけよ」


「あー…まぁ、家事できるヒトでも捕まえるよ」


「いや、嫁に飯作ってもらうのは男の夢だぞ?多分」


「そーなの?」


「まぁ、少なくとも俺はそうだな」


「…今度教えて」


「材料持ってきたら考えてやらんでもない」


 そのまま、パクパクと無言で肉じゃがを摘むイツキ。


「……さて、と。ちゃんと野菜も食ったってことで」


「ん?」


「本格的に飲むか?唐揚げもあるぞ」


「〜〜〜〜っ!!アキラ大好きぃぃ!!」


「うるさいヤツにはやらんからな」


「こんな美少女に大好きとか言われてんだから照れろよぉ」


 くつくつと笑いながら二人してキッチンに向かう。


「ふふふんふ〜ん。今日買ってきたのはロング缶だからね〜。めいっぱい酔っ払ってやるぞぉ〜」


「吐くなよ」


「わーかってるよぉ」


 恋とか、そういうのでは断じてないけれど。


 幼なじみとこうして、笑いながら飯を食ったり。ゲームをしたり。


 平和な時間は、なんとも愛おしい。

読んでくださり、ありがとうございました。

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