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幸運【E】



   ◇◇◇◇◇



 ――王都「夜蝶」



「……“アルバート・フォン・ディエイラ”。エルフの母を持つ、亜種王子か……」


「アル様……いかがなさいますか?」


「まずは出所の選定だな」


「そこに関してはハイルが動いております」


「……はっ? ハイルはグリーディア商会だろ?」



 俺の言葉にサーシャはチラリとオーウェンを睨む。



「ど、どうやら、アーグリッド伯がハイルを推薦し、ミーガン公爵の補佐官として王宮に入ったようでして」


「……」


「も、申し訳ありません」


「……別に謝るようなことじゃない」


「は、はい!!」


 オーウェンがずっと顔面蒼白にしていた理由に苦笑する。


 おおよそ、「まとめきれなかった」事に自責の念を感じているのだろうが、そもそも使用人共は鎖に繋げておけるヤツらではない。



「まず、現状ですが、ヴァルカンもアーグリッド伯も勝手な事をミーガン公に――」



 堰を切ったように嬉々として喋り始めたオーウェンの話しを聞き流しながら、頭を回転させる。


 使用人たちが全員、俺が「国取り」を始めたと勘違いしているのであれば、ハイルの行動は読みやすい。俺と考え方が似ているし、使用人の中で1番、『俺のやり方』を知っているヤツだしな。


 おおかた、俺が表に出る時には全て終わっている盤面を作り出そうと画策しての事だろう……。


 とは言え……。

 オーウェンに丸投げは酷だったか……。

 目先の『普通』を謳歌するのに夢中で、サボりまくっていたツケが、この状況……。


 「もう関係ないし!」と全放置していたのが……。


 まあ、全部、自業自得ってわけだ。



 俺は「ふぅ〜……」と長く息を吐きながら、現存のピースを整理する。



「アルト様……?」

「アル様……?」

 


 2人は心配気に俺の顔色をうかがうが、まあ、考え方によっては悪くない。出所さえ掴み、調略してやれば俺が第三王子に会う必要もない。

 


「うん……なるほど。まあ、ハイルならどこでもやれるだろうし……。ふっ……、どうせ、ミーガン公の領地内にある小都市“カリムンドル”辺りで、好き勝手やってるってとこだな」


「「……!!」」


「俺の生存の出所か……。とりあえず、“兄様”と“義母様”はどうなってる?」


 呆気に取られた2人は、俺の質問に対しハッとしたように「「それは、」」と口を揃えたが、オーウェンがサーシャに発言を促した。



「“カインズ”は、“レイラが殺した旦那様”の首を陛下に差し出し、とりあえずの罪を清算しました。それからは奥様の生家である“グランツェン侯爵家”の庇護下にいます。婚約破棄に関しても、自分の父である旦那様の不正を知り、婚約者を守るために行ったなどと、爆笑ものの言い訳で乗り切ったとか……」


「……ふっ。おそらく義母様の仕業だろうな。フィロー公爵家とのその後は?」


「グランツェン侯爵家が派閥に入る事で手打ちにしたと……。もとより、フィロー公爵令嬢は見捨てられたようなものでしたし、結果としては上々でしょう」


「そうか。フィロー公はミーガン公と対立しているし、北の要所を務めるグランツェンを従えるのはなかなか面白いな……。とはいえ、兄様も“北”か……」


「……」


「北に追放されていたアルバート殿下とは面識を持つ可能性もあったと言う事。……いや、殿下が王都に帰ってきたのはいつだ?」


「1年半前です」


「……ふっ。まあ、俺が生きていると兄様にわかるはずがないか」


「……? どう言う事でしょう? 可能性なら……、あっ。そうですね。ふふっ、カインズなら、アル様の生存を知っていて黙っている事などできないですね」


「ああ。即刻、騒ぎ始めるはずだ。半年は長すぎる」


 俺がそこで言葉を切ると、オーウェンがすかさず口を開く。


「……補足としてですが、アクアンガルドでの生活の中でアルト様の出自を知るなど不可能です。それほどまでに完璧に冒険者をされておりましたし……」


「ああ。それはないな……」



 オーウェンの言葉を肯定しながら、思わず「はぁー……」と大きく息を吐く。エリスに関わりさえしなければ……と考えずにはいられない。


 幸運【E】を呪わずにはいられない。


 残りとして考えられるのは、使用人たちの誰かが……いや、それはないか。ヴァルカンですら、俺の名前は出してないらしいし……。


 と、言うことは……、



「……おそらく、“魔法”だな……。それもかなり高位の。うん。それが……1番、理に適って……」



 ゾクッ……



 ポツリと呟きながら、俺は顔を青くさせた。


 おそらく俺が制作した魔道具のどれかが流出し、目をつけられた? いや、以前に訪れ、【黒雷】を使用した時の可能性も……?


 随分と昔に下手を打ち、今では広く流通している作物用回復薬グリーンポーションで確信を得たとしたら?


 ……これは《無属性魔法》ならあり得る。


 “魔法の申し子”が《無属性魔法》の可能性に気がつかないはずがないのだ。


 幸運【E】。本当になかなか、やってくれる……。まさか、ここで繋げてくるとはな……。



「アル様?」

「アルト様?」


「……“マーリン・ノッド・ベラベル”……。出所は宮廷魔導師だ。クソッ! 厄介な事になった!」



 俺はゾクゾクッとしたものを感じながら、必死に頭を回転させる。


 今、まさにエリスと会っているであろう“マーリン様”が俺の生存を知り、第3王子を呼び戻した首謀者である気がついたからだ。




〜作者からの大切なお願い〜


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