アスクレディアサーガ 第1章 第1部⑥
王都グレンツェントの「天守」の執務室。ある男が執務をこなしている…。
コン・コン・コン。
「誰だ?」
執務室にいる若い男が声を発する。
「陛下、執務中失礼致します。」
低音の声が扉の外からする。
「シャーリー、開けてやれ。」
若い男がそう言うと、「シャーリー」と言う名の女性騎士が扉を開ける。入ってきたのは、正装した年老いた男。
「陛下、大変お待たせ致しました。冒険者ギルドからの書面が届きました。」
「やっと届いたのか。で、どうなんだ?ゼノン。」
「陛下」…と呼ばれる若者に、「ゼノン」と呼ばれる男が一通の書類を差し出す…前に、
「ゼノン、見たんだろ?どう思う?今回新たに「黄金等級」に認定された冒険者は?」
矢継ぎ早にゼノンに質問をぶつける「陛下」。
「ハウンド団長の旧友が開いている「冒険者の宿」を拠点としている一団ですが…。」
「そんな事は分かっている!!単刀直入に言え!!」
「一団編成して2年もしないで「黄金等級」認定された一団ですが、中々の評判との事。加えて今回の推薦も、学院からの強い推薦と聞いております。」
「学院が?何かあったのか?」
「はい。ルーン殿の話によると、シュテイレ村近郊で発見された古代魔法王国期の建造物内より「喪失呪文」の「魔導書」が発見されたと。」
「本当か!?」
「はい。して、その発見をしたのが件の一団との事。」
ゼノンの報告を受けて驚く「陛下」。
「確かにその話は聞いたことがあったが…。その冒険者一団が?」
「はい。その冒険者一団はオルター学院長とも面識があったらしく…、」
「何だと!?書類をよこせ!!」
と言いながら、ゼノンの手元より冒険者ギルドの書類をひったくって読む「陛下」。
「…。」
「ルーン殿の話だと、その一団の魔術師はオルター学院長の弟子と伺っておりますが。」
「成程…。既にコネが出来ているって訳か。」
「いや、実力で発見したとの事。また、「喪失呪文」の「魔導書」発見に伴い、一団の誰かが「転移」の呪文でシュテイレ村から王都まで転移したとの事。」
「「転移」の呪文だと!?そんな高位呪文の使い手がこの一団にいるのか?」
そう言いながら書類を読み漁る「陛下」。
「盗賊…、侍大将…、聖騎士…、僧侶…、司教…、魔術師…、妖精と「使い魔」の犬?何だこれは?ん、侍…大将だと…?」
「はい、恐らく「転移」の呪文を使用したのはかの者かと。」
「だとしたら…。この侍大将、かなりの腕利きだな。」
「左様でございますな。」
「年齢の割に、一団の面子の「力量」が高い。道理で…。」
「それだけではありません。その名簿の聖騎士の名前に憶えがあるはず。」
「聖騎士?…ラエサール?ヴェイス王国の「ナイトマスター」、グレイ・ラエサールだと?国を離れたという噂は本当だったのか…?」
「どうやら事実の様子。特に偽名等は使ってはいない様子。」
少し考え込む「陛下」…。
「近いうちに、「黄金等級」認定の挨拶で登城する事になっているな?」
「はい。」
「何とかこいつ等と接触を図りたいが…。」
「陛下、また冒険者として街に出掛けるのですか?」
「挨拶が終わってからだ。シャーリー、旅の支度をしておけ、いいな。」
「畏まりました、若!!」
「「若」はやめろって言ってるだろうが!!ともかく、二人とも下がってよし。暫く一人になりたい。」
「畏まりました、「陛下」。」
「同じく。」
ゼノンとシャーリーが退出した執務室に、一人残る「陛下」。
「「ナイトマスター」グレイ・ラエサールと、「侍大将」ヤマト・ブレイドか…。」
再び深く考え込む「陛下」…。
≪第一話 完≫