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鈴谷さん、噂話です

人形の首が抜けた

 近所の商店街からは徐々にお店がなくなり始めていた。多分と言うか、絶対に高齢化の影響だろう。そうするとスペースが空く事になる。どういう経緯かは知らないけど、その一つにアトリエのようなものが作られていた。

 絵だとか、彫刻だとか、そういった芸術品のようなものが作成されているのだ。アトリエの主はお爺ちゃんで、当初はあまりよくは知らなかったのだけど、挨拶をするうちに多少はしゃべるようになった。先日話した際には「人形が完成した」と言っていた。それは日本人形っぽい、ちょっと怖い人形だった。素直に感想は言えなかったけれど。

 偶々、そのお爺ちゃんのアトリエの近くを通った時だった。小さな子が何やらアトリエの中でその人形の首を必死に身体に乗せようとしているのを見かけた。偶に見かける子だ。顔くらいは知っている。

 お爺ちゃんのお孫さんか何か…… といった雰囲気ではない。きっと内緒でアトリエに入って人形をいじって壊してしまったのだろう。

 私は近づくと「こらっ」とその子を叱った。

 「人形を壊しちゃったの? ちゃんとお爺ちゃんに謝らないと駄目よ?」

 ところがその子は不服そうにするのだった。外れた首を手に持っている。人形の頭が見えた。つむじの辺りに塗り残しがあった。目立つ。それが少しだけ間抜けに思えた。

 「でもー、ちょっとさわっただけで落ちちゃったんだよ?」

 どうも自分は壊していないと主張したいらしい。

 「そんな事を言っても実際に壊れているじゃない。お爺ちゃん、この人形は完成したって言っていたわよ? 完成した人形の首がこんなに簡単に外れるはずないでしょう?」

 子供はそれを聞いて「でもー」と俯く。納得をしていない。私はどう説得をしようかと思ったのだけど、そこで声がかかった。

 

 「あのー…… その人形、多分、壊れていないと思いますよ?」

 

 見ると、見知らぬ二十代くらいの女の子がいた。

 「恐らくは、最初から首が外れる仕組みになっていたのだと思います」

 スーツを着ていて眼鏡をかけている。社会人に見えない事もないけど多分違うな、などと思っていると彼女は、

 「失礼。私は近くの大学に通っている鈴谷と言います。ちょっと興味深い人形が見えたものですから、思わず足を入れてしまいました」

 と挨拶をして来た。

 “おー! 女子大生だ”と私はちょっとテンションが上がる。いや、若い子と喋る機会なんかあまりなくて。

 「壊れていないって、どうして思うのですか?」

 そう質問すると、その女子大生は「その人形は完成していると、その人形の制作者の方は言ったのですよね?」と訊いて来た。

 「ええ」とそれに私。すると彼女は頭頂部を示し、「でも、ここに塗り残しがあります」と言うのだった。

 それはさっき私も見ている。

 「そうですね。ミスしちゃったのですかね?」

 お年寄りだし、そういう事もあるだろう。ところがそれに彼女は、「いえ、それ、多分わざとだと思うのです」などと言うのだった。

 「わざと? どうして、わざと塗り残すのですか?」

 それを聞くと、少し考えてから彼女は口を開いた。

 「そうですね…… 一種のおまじないみたいなものですかね? お化けの人形は、わざと塗り残しておいて魂を込めないようにする場合があるのですよ」

 その彼女の説明に私は驚いた。

 「お化けの人形? これ、お化けの人形なのですか?」

 確かに多少不気味だけど、どこがどうお化けなのかは分からない。

 「はい。恐らくはろくろ首だと思われます」と彼女は答える。

 「ろくろ首? ろくろ首って首が長いやつですよね? 全然、長くないじゃないですか?」

 「より正確には、ろくろ首の元になったお化けですかね? 首が抜けて、自由に動くタイプのろくろ首もいるのです。それを抜け首と言ったりもしますが」

 「へー」とそれを聞いて私。それから「ああっ! だから、この人形、首が抜けるのね」と言った。

 「はい。何にもなかったら、私も考え過ぎだと思っていたところですが、その人形が既に完成していて、しかもそんな目立つ場所に塗り残しがあると言うのなら、抜け首の可能性が高いと思いまして。マニアックな妖怪なんで、知らなくて当然だと思います。製作者の方はよく知っていましたね。ちょっと驚いています。私の場合は、民俗学とかが好きなので知っていましたが」

 そう言った彼女はちょっと照れていた。なかなか渋い趣味の女子大生だ。

 

 それから彼女は去っていったのだけど、数日後にお爺ちゃんに聞いてみると、果たして彼女の言う通り、人形はお化けの人形で、首が抜ける仕様だった。あの子に謝らせなくて良かったと思う。

 お爺ちゃんに出会った女子大生の話をしてみると、「そんな事を知っている若い女の子がいるんかい!」と驚いていた。

 向こうも驚いていた事を思い出して、私はちょっと笑ってしまった。

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