夜空を眺める私
夜空を見ていた。
チラリと眺めて感慨に耽る。
ずっと見てた訳じゃない。
そっと目を閉じ、空気を流す。
「こんな季節か。」
文章に書き起こして、そっと筆を置く。
「んー!なんか筆が乗らないなぁ?」
まだ数分だが疲れてきた。
少し休みがてら、望遠鏡を覗くか。
望遠鏡から光が出る。
流星群だ。
「いよう!お隣さん。」
この方は大家。といってもまだ20歳なのだが。
「こんにちは。大家さん。」
ニッコリと微笑んで挨拶を返す。
「あいかわらず律儀だねー!」
大家さんはドーナツを齧ってうなづく。
「私はコレですね。」
ビールを差し出す。
「でかい!」
「・・・缶がですよね?」
「そそ。うらやまなんだが?」
「・・・だから缶ですよね?」
「ごくりっ・・・。」
「一本要ります?」
「一個と言わずたわわな果実を2個下さい・・・。」
こういう冗談なんだろう・・・。
「巨峰ですか?皮食べれるタイプと食べれないタイプどっち?」
一寸も間をおかずに
「巨峰ではなくミカンで・・・。」
「ミカン2個は欲張りでは?」
・・・寝てしまった。
まあここから投げたら間違いなく落ちるが。
さてちょっと、買い物に行こう。
スーパーは汗かくの嫌だからコンビニ?
なんてことを考えながら。
チリンチリーン!
「オッス。いまひま?ってか!その荷物なんだよ?モンエナとレッドにゾーンて!徹夜コースか?えー?行こうと思ってたのに・・・。で!行こう!」
強引すぎる・・・。
コンビニからはエナドリは持ってもらった。
さすがに10本は買いすぎたか・・・。
2000円超えのレシートを恨めしく見る。
となりを歩くこいつは・・・。何しに来るかは分からない。きっとろくでもない・・・しょーもないことに違いない。
だからまあ、少し付き合ってもらおう。
「雲を登りし流星は、どこへ行くのだろう。はい、たっち。」
「雲をか・・・。そこは星の降る街。住人は10人、なんちって。たっち。」
「住人は降り立つ。星は下り立つ。このヤナギを求めて。たっち。」
詩の練習。まあ、そんぐらい手伝わせてっと。
「うーん?降り立つ?近づく飛行機雲を追い越して、行くむ。行くむ。たっち。」
「遠く遠く。果てをながむる。たっち。」
「短いよ・・・。えっと?この行く先は、彼方への冒険?たっち。」
「行き着く先への渡航路へといざいかん。次、最後ね?」
「えー?行き着く・・・この道の向こうは遥かへの帰還なりて。終ってことで。着いた!」
一応形にはなったかな?
「ありがと。なんとなく参考にはなったかな。」
扇風機を独占するなって言いたいけど無理。
モンエナを1缶開けてのどへとながしす。
「ぷはっ。炭酸が効く!しょっぱいのが食べたくなるな・・・。」
「あ゛〜〜〜〜〜!!」
うっさいな。本気で何しにきたんだ?
「エナドリお゛れ゛も゛〜〜〜!!」
1番色が"イッちゃってる"缶を放る。
パシッ・・・!かわいた反響が響く。
ぷしゅ・・・。こいつ飲むだろうと思ってガンガンに振りまくってやったのに。
「ゴクッごくっ。・・・?なんか喉にガツンとこないなあ?」
とぼけながら机に置いてあったペンを探す。
(えーーーとっーーー?)
どうやら落ちたらしい。机から乗り出す。
・・・?ビー玉か。
星空すなわちビー玉。これ鉄則。
(ピン!)
指で弾く。これが数個あるだけで擬似的に夜空が完成する。私が夜空に馳せるのはビー玉のせいかも知れない。
机の引き出しにビー玉を10個。揺れてぶつかる。これぞ、夜空。
(キンキン!)
飽きた!
「あ゛〜〜〜できだ〜?」
「できたできた。さっきのより数行長いだけだけど。」
「それはそれは〜〜〜。っと!流星群見にきたんだった!」
望遠鏡をのぞきこむ。
「なに流星群だっけ?」
「ふたご座っつってたー!」
望遠鏡の後ろから眺める。
きらりと、星空を星が流れる。
大家さん風邪ひくんじゃ?
「ちょっと大家さんをおこしてくるね。」
ガチャ。コンコン!
・・・返事がない。
(むむ?いつもなら寝言で返してきそうなもんだけど)
ギィー・・・。
あ、開いてる・・・。不用心だな?声かけとくか。
「大家さーん!寝てるなら寝てるって言ってくださいー!」
シーーーン・・・。
ここまで返事がないのは不安・・・というか出かけてる?ってか出かけてるにしても鍵開けっぱでいくかなぁ?
「大家さーん?いないのかな?まぁいっか。」
ドアを閉めて部屋へ戻る。
「大家さん出かけてるみたい。あれ?」
誰もいない。
・・・。それより暑いな。カレンダーを見る。10月になってる。
「10月でこの暑さは異常でしょー。」
あはは!と1人で笑ってふと窓へと手を伸ばす。
ビリ!
「びり?」
更にその手を動かす。
ビリビリビリ!
新聞紙の破ける音と共に夕焼けが目に入る。
「っ・・・!?」
・・・。・・・そうだ。私はここ15年ほど外に出ることを拒んでいたんだ。
さっき投げたエナドリが足下に転がっている。部屋の前には『おいしかったよ』と書かれた紙。そして洗われてない空の食器。
新聞紙の穴から光が溢れるのが夜空みたいだって言ってたっけ?私は引き篭もりだった。
うん。今日は学校に行こう。そう言い聞かせてベッドに潜り込んだ。夜空を見ることはないと思う。だって私は明日から昼に生きるんだもの。
完