5話目:裏路地の軌跡
友人の母が経営している酒場に行きたかったのだが、路地裏を探検したかった。
換気扇とかが熱くなっていたり、警戒してこちらを見るネコだったり。
案外と意外な所に置かれている鉢の植物だったり。
まだ明かりのついていない看板だったり。
どこか同じ道を歩いているような既視感だったり、水道管の配線だったり。
小雨が降って来て、ああ早く目的地に向かわないと、と思った。
そこに、うめき声。
何なのかと思ったら、産気づいている妊婦が「転んだ」と言っている。
とりあえず額に角ははえているが驚かないでくれ、と言うと、「分かった」と返事。
ひとを呼ぼうにも、「頭がもう出ている」と言われた。
特に知識を持っているつもりはないが、「受け止めて」と言われて再度しゃがんだ。
安産だったのかすぐに出てきた赤子は女の子で、その母親は上着を脱いだ。
そしてその上着で赤子をくるむと、「意識飛びそう、人を呼んできて」と言った。
急いで友人の母が経営する店に行き、事情を説明。
すぐにひとは呼ばれ、路地裏に赤子の産声が無事に響いた。
「この子が二十歳になってまだ男ができてなかったら、ぜひ嫁にしてちょうだい」
なんだかやっかいなひとだなぁ、と思いつつ、母似だと美人だろうなと思う。
ただおむつを替えてやった手前、成長した彼女の下着を脱がすのはごめんだとも思う。
しばらくの里帰りして来ただけだから、と、すぐに別の土地に移った彼女たち。
帰りの途中で亡くなったそのふたりの女子を、早めにまたたく夜空に魅てしまう。
事件なのか事故なのか、曖昧になっているらしいが関わるつもりはない。
ただ・・・あの時の、「助けてくれてありがとうね」と手を振った彼女の幻影が
小雨時期の路地裏で笑っていて、
彼女の要望通り赤子の名を一緒に考えてやればよかったと思うと、胸が、息苦しくなる。




