25話目:★水中に咲く紫陽花
その場所には、湖がある。
水の色は澄んだ碧で、どうやらシュアザローナが水中に咲いているらしかった。
神聖な場所なので白い衣を着て水中に潜ると、そこには岩と岩陰に魚たち。
水中の生き物としては珍しいかもしれない色の魚は、光の加減で藍色に見えた。
岩には穴が開いているものもあって、そこから光が差している。
光の網とカーテンはゆらめき、昇りゆく気泡は輝きを宿している。
潜ったあとすぐは、無数の小さな気泡が肌をなでて、こそばゆかった。
そこから拓けた視界には、いっぱいの碧。
そして岩陰に向かって泳ぐと、そこに用事を思い出す。
シュアザローナ。
架空や伝説とされている希少な植物のこと。
お目当ては、水中紫陽花。
碧い花びらが球状になって咲いている。
満開だ。
どうして水中に紫陽花が咲いているのかは、正直知らない。
ただ、豊満なその亜種の花を見て、心が踊る。
単にその情景が美しい、と思った。
根本近くの茎を、持っていた折りたたみナイフで切り取る。
そしてそれを持って水上に出ると、白い聖獣が「大義」と言った。
水辺で奉納した水紫陽花の茎を、聖獣は食べる。
そして残った花の部分をどうするんだろう、と思っていると、聖獣が人型をとった。
裸体のましろ肌の女人。
豊かな髪の毛を持つその女人は、耳元に紫陽花を飾った。
女人に誘われるがまま森の奥に入って行ったその青年が、戻って来ることはなかった。




