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アリアスの雑記帳「メヴァンディーニ」  作者: アリアス・サカユ
10/31

10話目:夜来香


 遠出をしたのは小古都での祭りに参加するためだ。


 今回は見る手ではなく、行脚(あんぎゃ)の一員として選ばれて髪も数年前から伸ばしてある。


 行脚に選ばれるのは美男美女で、我もそう呼ばれる類の姿をしている。


 行脚の主軸になる「夜来香(やらいこう)」と言う位の役に抜擢された。


 長い黒髪は結われ、紅葉を始めた黄緑色の(かえで)の飾りが目横にちらつく。


 紫色の(ころも)に、黄緑基調の赤濃淡のある帯が腰元を重くする。


 複雑に結われた帯だな、と仕度中に言うと、最近では形状記憶型を使っているらしい。


 化粧をされて、(べに)をひく。


 なんだか意識が遠のきそうなほど、自分が他者に影響を与えるんだと思う。


 だとしたらあまり喋ってはならない、みたいな気持ちがした。




 言い方が正しいのか分からないが、車のついた輿(こし)に乗る。


 いよいよ本番、行脚の時間は終わる頃、夜になっている。


 明かりの灯された灯籠提灯(とうろうちょうちん)なんかが夜にとろとろと溶けている錯覚。



 神がかりになった我に、「ああ本物なのか」と誰かが言った。


 どなたですか、と()うと


「気にするな。その額の、ふざけているのかと思っただけだ」と気配が消える。



 住んでいる地区は違うので、皆が余興や視覚的効果だと思ったらしい。


 我の額には、遺伝で天然の角がはえている。


 その件で角から情報が入ることもあるが、こんな感じは滅多にない。



 もしかしたらさっきのは「夜来香」本人だったりして、と思うと貴重な体験だ。



 楓の葉が黒い夜色の堀川でそよ風に踊る。


 満月は水面に潤み、鮮明に美しく、そして悲しい過去を記憶からえぐりとった。


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