10話目:夜来香
遠出をしたのは小古都での祭りに参加するためだ。
今回は見る手ではなく、行脚の一員として選ばれて髪も数年前から伸ばしてある。
行脚に選ばれるのは美男美女で、我もそう呼ばれる類の姿をしている。
行脚の主軸になる「夜来香」と言う位の役に抜擢された。
長い黒髪は結われ、紅葉を始めた黄緑色の楓の飾りが目横にちらつく。
紫色の衣に、黄緑基調の赤濃淡のある帯が腰元を重くする。
複雑に結われた帯だな、と仕度中に言うと、最近では形状記憶型を使っているらしい。
化粧をされて、紅をひく。
なんだか意識が遠のきそうなほど、自分が他者に影響を与えるんだと思う。
だとしたらあまり喋ってはならない、みたいな気持ちがした。
言い方が正しいのか分からないが、車のついた輿に乗る。
いよいよ本番、行脚の時間は終わる頃、夜になっている。
明かりの灯された灯籠提灯なんかが夜にとろとろと溶けている錯覚。
神がかりになった我に、「ああ本物なのか」と誰かが言った。
どなたですか、と問うと
「気にするな。その額の、ふざけているのかと思っただけだ」と気配が消える。
住んでいる地区は違うので、皆が余興や視覚的効果だと思ったらしい。
我の額には、遺伝で天然の角がはえている。
その件で角から情報が入ることもあるが、こんな感じは滅多にない。
もしかしたらさっきのは「夜来香」本人だったりして、と思うと貴重な体験だ。
楓の葉が黒い夜色の堀川でそよ風に踊る。
満月は水面に潤み、鮮明に美しく、そして悲しい過去を記憶からえぐりとった。




